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147.時雨楓華の日常~おっぱいの星座に向かって願いを叫ぶ~

「とんだ迷惑者が夜中に訪れたものだな。ここは我の憩いの場だぞ。もう少し敬意を払い、大人しく過ごすことは出来ぬのか」


ふと聞き覚えがある声で仰々しく話しかけられたので、楓華達は聞こえてきた場所へ視線を向けた。

ちなみに6人の内2名ほど怪異現象だと思って怯えていたようだが、実際は怪異と比べ物にならない超常現象の存在が光る枝木に座り込んでいた。

その人物の体格は楓華と同い年くらいに見えるものの、金色と朱色が入り混じった長髪が特徴的だ。

そして相手の見た目と声色で楓華は彼女の正体を察し、それとなく尋ねた。


「もしかして運営のスタッフさん?」


とても適切とは言えない呼び方だが、それ以外の身分を知らないので仕方ない確認方法だった。

すると女性は面白おかしそうに口元を緩めた後、小馬鹿にした態度で答えた。


「フッ、時雨楓華よ。一体いつの話をしている。()うの昔にお嫁コンテストは終えただろう」


「いや、だって自己紹介してくれてないから他に呼び方が分からないつーか、あんまりアンタのこと知らないし」


「そうだったか。我の名はキンウだ。太陽の象徴であり『運命』という概念を生み出した高位委員会の一員。そして、この地の元守り神だ」


「えっ!?なんか最初から偉そうだなぁと思っていたけど、村の神様だったのかよ!ってか、なんで(もと)なワケ?」


「単純な話、現状この村は我の守護が不必要になった。衰退すれば再び守り神として機能するが、()にも(かく)にも今は神社を止まり木にしている小鳥同然だ」


「へぇー?」


楓華はとりあえず分かった(ふう)の返事をするが、それは明らかに他人事感覚で理解した素振りでは無かった。

実際、突然現れた彼女の正体はそれほど重要なことでは無く、自分が守り神だと語った本人も軽く流した。


「冷めた反応になるのも当然だな。我の力を知覚できるのは数える程度しか存在しない。よって我が世界滅亡から救う偉業を無限に成しても、それらは単なる自己満足で終わる」


「そっか。よく分からないけど、こうして姿を見せてくれたのは一緒に遊びたいからでしょ?」


またとしても楓華の脳裏には突拍子も無い発想が巡り、一切の躊躇(ちゅうちょ)なく誘う。

まるで同年代の友達と再会した時に会話するような、凄まじく力技に(てっ)した接し方だ。

これにはキンウと名乗った女性が全知全能の存在であっても、さも当然のように提案されれば理解が追いつかず目を丸くしてしまう。

そして彼女は楓華の考えていることを見透かし、ぼそっと呟いた。


「恐ろしいほど何も考えて無いな。立場、関係性、能力、その他の要因諸々(もろもろ)を些末だと認識しているのか。何であれ命知らずだ」


「さっきから何を言っているの?なんつーか、アンタって物事を複雑に考えるの好きだねぇ。ひとまずアタイ達と一夜を楽しもうぜ!何も考えないのが一番楽しくて、遊べば愉快な気分になれるからな!」


「まったく能天気にも程がある。どうしてそのような浅はかな思考へ至れるのだ」


キンウは敵意こそ抱いて無いが、どこか不満気で警戒心に似た距離感を意図的に保っていた。

おそらく楓華のグループに入って馴れ合うつもりが無いのだろう。

いくらお気に入りの相手でも、混じって遊ぶというのは高位存在からすれば何か違うのかもしれない。


だが、楓華が遊びに誘った1時間後。

キンウは彼女のグループに混じっているのみならず、7人は神社を遊び場にして笑い合っていた。


「ふははははは、見ろ時雨楓華!我の力に掛かれば、思うがままに星座を描ける!さぁクイズだ。あの星座は何に見える!?」


「アタイには一発で分かるぜ!アレはおっぱいだろ!デカいおっぱいだ!」


楓華は大声かつ本気で答えた。

そんな彼女のストレートに下品な答えを聞いたモモは、愛想を尽かした溜め息を漏らす。


「はぁ。フウカさんって火山にもおっぱいと命名しようとしていましたし、おっぱい好きですよね。だからって、キンウさんの品性を損なうような発言はさすがに失礼……」


「さすが時雨楓華!正解だ!あれはヴィムのおっぱいを参考に描いた!乳首の部分は一等星にして分かりやすく光らせてやったぞ!」


「元だとか関係無く、守り神が村民のおっぱい座を描くって何もかも終わってません?」


楓華とキンウが盛り上がる傍ら、モモは2人のやり取りに困惑しながら引いていた。

対して当人のヴィムは真剣な眼差しで星空を眺めていて、ぽつりと呟いた。


「私の胸はもっと形が綺麗よ。観察と再現性が甘いんじゃないかしら」


妥協を許さない指摘をするあたり、ヴィムは自身の胸に関して強いプライドを持っているのだろう。

その姉の隣でミルは自分の小さな胸をなぞり、形を確かめるように探りながらぼやく。


「そもそも綺麗な形ってなんだろう。ミルのお胸だと分かんない」


まるで本気で悩んでいるような口ぶりだ。

そのため、ミルの暴走が始まる前にすかさずヒバナが教えてあげた。


「綺麗な形というのは体型に寄りますよ。ましてミルは成長期ですし、焦って答えを見つけることではありません」


「そうかな?そうかもね。だけど最近はヒバナお姉ちゃんより胸が大きくなってきたから、参考になるのはヴィムお姉ちゃんなんだよねー」


「えっ……?嘘ですよね?某、今まで自分が貧乳だという自覚は無かったのですけど。えっ?現実って残酷すぎませんか?これが将来性の差ですか?」


「あっ大丈夫だよ!きっとヒバナお姉ちゃんも成長期だから、焦って気に掛けることじゃないよ!」


「あ、あはは…ははっ……。はい……ひぐっ、あり……がとうございます」


ヒバナはフォローに入ったはずなのに、逆に妹から同じ言葉で励まされてしまう。

更に思いがけない将来の不安を抱いてしまい、ヒバナは明日からバストアップを目的に頑張ろうかと本気で考え込み始めていた。

そうして姉妹達が話す中、ミャーペリコは葉っぱに張り付いていた芋虫を掴み取りながら元気よく胸を揺らした。


「見て下さいモミモミ先輩!でっかい芋虫です!」


「なんでそんなものを見つけて来るのですか!?いきなり後輩に虫を自慢されても、どうリアクションすれば良いのか困ります!」


「ミャーペリコは畑でよく虫を探して発見しますからね。虫に関する知識は欠片もありませんが、昆虫博士と呼んで下さい」


「それはただの虫捕り少女ですよ。それにしても勤務を終えた後に胸の話ばかりだったり虫だったり、働く職場を間違えましたかね。私にもやりたいことがありますし」


モモは本気で自分の未来を案じ、新しいことに挑戦したい情熱を宿していた。

それから楓華達は時間帯や場所の雰囲気に影響されず、絶え間ないほど仲良く騒ぎ続ける。

そして更に時間が経過した後、楓華は全員に向かって呼び掛けた。


「よーし、みんなで夜空に抱負を書こうぜ!神社だし願い事するにはちょうど良いからな!ちなみにアタイは宇宙を埋め尽くすくらい、やりたいことが無限にある!まず1つ目は~……」


楓華は希望に満ちた声、数多の幸福により充実した顔、そして先を見据えた瞳で美しく広がっている夜空を眺める。

続けて彼女は留まることを知らずに溢れ出す数々の夢を実現させるため、ありったけの想いを乗せて全力で叫んだ。

その彼女の強く(たくま)しい願いは夜空と村中へ木霊(こだま)していき、村民達は風物詩のように彼女の声を聞いて和やかに笑っていた。




『最強の私だけど、最弱道場の3姉妹が可愛すぎたので弟子入りしました』......了。

※後書き


お疲れ様でした。

そして本当にありがとうございます。

作品タイトルにある道場関連については、これから楓華が成し遂げたい目的の1つに含まれています。

その他にも更なる人材確保と呼び込み、育成、出逢い、世界探索、村人や知人の悩みなど様々な場面に遭遇しつつ挑戦を続けていきます。


さて、実は予定より2倍近い文章量になってしまったのにも関わらず、キャラの活躍が少なかったり描き切れない部分が結構ありました。

そして主要キャラの設定及び過去ストーリーは一部エグイ要素を含んでおり、今作の能天気な雰囲気を損なうため公開しません。

また次回作は2024年2月上旬に掲載する予定で、今作より短いストーリーにします。

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