143.時雨楓華の日常~仲良しグループはマイペースで自由奔放~
楓華は3姉妹の口喧嘩を仲裁つもりは無かったが、勢いが増す一方だったので見過ごすことはできなかった。
「みんな珍しく貶し合っているね。喧嘩するほど仲が良いってやつか~?」
「もうフウカお姉様ってば茶化さないで!仲が良いのは事実だけど、それとこれとは別の話だよ!譲れない気持ちがどういうものかフウカお姉様なら分かるでしょ!?」
「なるほど、姉妹同士でプライド勝負していたのか。じゃあ気を遣ったのは余計だったな。みんなの気が済むまで頑張ってくれ、あっはっはっは~」
なぜか楓華は1人で納得してしまい、気にかける素振りなく清掃作業へ戻ろうとする。
あまりに他人事みたいな能天気顔で立ち去ろうとする彼女にヴィムは驚き、慌てて呼び止めた。
「そこで引き下がらないでちょうだい!この調子だとフウカちゃんが明言するまでミルは止まらないのよ。ちなみにだけれど、私も易々と一番の座を譲るつもりは無いわ」
「つまりヴィム姉も同じじゃん。ヒバナちゃんは……あぁ目で分かるよ。おーおー、みんな揃って負けず嫌いだなぁ」
楓華は姉妹達に真剣な眼差しで見つめられるが、穏やかな態度と表情を崩さなかった。
それどころか落ち着いていて、思っていることをそのまま喋った。
「まっ、アタイにとって一番のお嫁さんなんて考えたこと無いしな。その人を愛しているから結婚したワケだし、相手の生き方を順位付けするのは好きじゃない。そして相手の価値を決められるって思うほど自惚れても無いよ」
「でも、あえて一番を付けるならどうなるのかしら?思いつきと変わらない直感的な答えで良いのよ。そうなればフウカちゃんは私を真っ先に選ぶわよね?」
「そだね。ヴィム姉とヒバナちゃん。そしてミルちゃんが一番だね。3人ともお互いの努力と成長を認め合っている上で、自分が一番だと言い張れるくらい頑張っているしさ」
最初に肯定した瞬間はヴィム姉は勝利のガッツポーズを取りかけるも、すぐに姉妹の名前を羅列されてしまって気分が空回りする。
そんな間抜けっぽい様子をヒバナは横目で見つつ、普段より強気な姿勢で楓華に確認した。
「こう言っては申し訳ないですけど、予想通りの答えですね。ですが、もう少しこちらが納得できる言葉が欲しいです。無難だったり曖昧なのは困ります」
「あっははは、難しい要求するね。でも、そこまで必死に食い下がるなら期待に応えてあげる。アタイにとって今一番は3人共だけど、もっと未来……または老後くらいには違う答えが出るよ」
結局は先延ばしとも受け取れる返答だが、楓華が伝えたいことを3人は理解していた。
今は等しく最高の一番であっても、いずれ優先順位に差が出る。
その意味に気が付いたミルは自分なりに解釈した言葉を口にした。
「要するに、ミル達のお嫁さんコンテストは続いているんだね?」
「そうなるかもな。だけど、そんな競争意識を芽生えさせる必要は無いぜ。アタイの理想はみんなで平穏な生活を送ることだからさ。それが何よりも大事だし、つまらないことで本物の幸せを見失いたくない」
楓華は愛情の本質を大切にしていて、真っ当な考えを述べた。
これに共感して喧嘩は一時停戦されるはずなのだが、それより気掛かりな事があってミルは困った表情を浮かべる。
同じくしてヒバナとヴィムも同じタイミングで困惑しており、それぞれ率直に思ったことを呟き出した。
「へっ?フウカお姉様ってば、刺激よりも平穏な生活を願っていたの……?」
「そんな日、これまでに何秒ありましたっけ?せいぜい累計1分間くらいでしょうか」
「当面の問題は解消されたけれど、それとは正反対の生活よね。私の記憶が正しければ秒単位で揉め事が起きるもの」
なぜか全員の見解が綺麗なほど一致しており、予想外の反撃と化していた。
ただ楓華は動揺せず、胸中では似たような流れを何度も見た気がすると呑気に思っていた。
「おいおい、マジか。そりゃあ大変な日々は続いているけどさ、さすがに最近は平穏な生活だと言っても良いだろ」
「フウカ氏の最近って半日単位のことを指しているのですか?まず新婚旅行でも色々とありましたが、その後フウカ村にプラネタリウム施設を造ろうとして揉め事が起きましたよね?」
「あれはスカウトした天文学者が曲者で、星を見たら興奮する性格だっただけだろ。あとお互いに注文が多くて衝突したりカルト教団が絡んだりしたけど……、とにかく今は無事に解消されたでしょーが」
「あと珍獣の動物園設立からの脱走事件。本物の天使と悪魔が住み着いた教会で宗教戦争。村のPR用に作ったフウカ城とジオラマセットを住処にしたスライム騒動。動画アニメ漫画などマルチメディア展開で、過激な成人コンテンツだと指定されてスポンサーを青ざめさせたこと!」
「あぁ、うん……」
「その他にもイベント方面に注力して立ち上げた企画。新しい祭りもあって、ついには異種族混合の学校を建てましたよね。肝心の道場はまだ素寒貧のままなのに」
ヒバナはパッと思い出したことを述べ続けているだけだが、それでも如何に楓華が見境なく行動を続けていたのか分かる内容になっていた。
それは村と呼べる範疇では無い改革が行われており、もはや魔境の領域へ足を踏み入れている。
また村以外の問題にも度々見舞われているため、平穏とは無縁の日常生活になっていた。
だから改めて言及されれば楓華は嫌でも騒動の原因が自分だと自覚せざるを得ず、苦笑いで返す他ない悲しい場面となる。
そんな彼女達の会話をミャーペリコは作業しながらも聞いており、感心した笑顔でモモに喋りかけた。
「フウカお姉さんは凄いですね!なんでもやるぞぉ精神はミャーペリコの創造主様みたいです!」
「あまりキツく言いたくないですけど、フウカさんは限度を知らないお馬鹿さんなだけですよ。おかげ様で私への負債は増える一方です。それにモモ科学研究班を設立したのに、圧し掛かる負担が国家運営規模へ達して研究時間を確保できていません」
「おぉー!それならモミモミ先輩も凄い働き者の偉人ってことですね!では、ミャーペリコが褒めてあげます!ボーナス褒め褒めタイムです!よしよし、頑張ってて偉いぞぉ~です!」
「ありがとうございます。ただ、モミモミ先輩呼びはやっぱり意味が分からないので止めてくれませんか?擬音語に聞こえて敬称っぽくないですし、それで反応するのが恥ずかしいです」
「何でです?とてもカワイイ呼び名ですよ!」
「ミャーペリコさんは売れっ子アイドルだから、そういう感性は本物だと信じますよ。だとしても、第一に本人の意思を尊重して欲しいですね」
呼ばれ方に慣れれば良いだけだとしても、やはりモモの感性的には納得しづらいものがあった。
その微妙な様子をミャーペリコは無視せず、しっかりと取り入れて真剣に考えてくれる。
「分かりました!では明日までに、もっと良い呼び名を考えておきます!次に会った開口一番、最高の愛称というのをお見せしましょう!」
「あの、だから……。はぁ、わざわざ考えなくても普通にモモ先輩で良いですって」
「良い思いつきがあれば、そっちを採用するべきですよ!ですので早速、皆さんに相談してみますね!もしもしフウカお姉さん~!ヴィムオーナー~!ヒバナ先輩とミル先輩~!大事なお願いがあって、ミャーペリコの人生相談に乗って欲しいで~す!」
「えっ、えぇ?よりによって今この気まずいタイミングで飛び込むのですか……。ミャーペリコさんって恐いもの知らずが過ぎますよね」
そうモモが戸惑っている間に、ミャーペリコは別問題で話し合っている楓華達の所へ突撃した。
普通ならば後回しにされてしまいそうな場面だが、彼女は「実は新人として質問があって~」と言いながら話を切り出した。
更にミャーペリコは初手から本題へ入ろうとはせず、本当に新人らしい質問から始めて世間話に繋げてみせた。
このコミュニケーション力を見せつけられたモモは少し唖然としつつ、独り言をぼやく。
「見習うべき処世術ですけど……。揃いも揃ってマイペースで、掃除が終わる気配が無くて困りますね」




