137.本物の家庭を夢見た者は優勝スピーチで大勢に地獄をみせる
まだ閉会式の途中なのに早くも終了した気分で雑談を続ける楓華達。
そんな中、ふと1人の獣人青年が近づいてきて彼女達に声をかけた。
「ご歓談の最中、失礼致します」
楓華は話しかけられたことに一早く気が付き、相手の方へ意識を向けた。
だが、彼女はその青年の身分を知らず、やや反応に困ってしまう。
「えーっと……あぁ、スタッフか。優勝したアタイに用があるんでしょ?」
「はい。ですが、その前に少々お時間を頂いてもよろしいですか?優勝の祝言と、お礼の気持ちを改めてお伝えしたいのです」
「お礼?アタイ、なんか運営に借りでも作ったっけ。劇的な優勝を果たしてコンテストを盛り上げたとか?」
「すみません、言葉足らずでした。これは僕個人によるお礼です。実は僕、フウカさん達と一度お会いしているのですよ。とは言え、最初に拝見した時とは異なる姿なので思い出すことは難しいでしょうね」
そう言われて楓華は相手の顔をしっかり観察するものの、思い当たる節があるようには感じられなかった。
分かるのは誠実そうな獣人ということだけ。
更に名前も思い浮かぶ気配が無かったので楓華は静かに唸るが、いきなりミルが閃きを得て大声をあげた。
「ミルってば、分かっちゃった!幽霊のお城で説明してくれた男の人!」
「ご名答です。あの時は違い生身ですのに、よくお気づきになりましたね」
2人の気が緩んだ会話を聞いた直後、楓華も遅れて相手の正体に気が付いた。
コンテスト開始して間もなく楓華達は試練に挑戦しようとして、獣人幽霊一家が住む城に足を踏み入れた。
そして城内で家庭事情の説明をしてくれたのが獣人幽霊の長男であり、今その当人が目の前にいるわけだ。
だから楓華は既に親しい仲の相手だと分かれば、少し砕けた態度で笑った。
「あっはははは、ごめんごめん。今になってアタイも思い出したよ。そっか。どういう事情で幽霊じゃなくなったのか分からないけど、あの物腰が柔らかい青年ね」
「僕はあまり会話に参加せず、要求もしませんでしたからね。ましてフウカさんのご指摘通り今は幽体ではありませんから、思い出すのに苦労するのは仕方ありません」
「そだね。だけど、なんで生身になっているワケ?試練の時だけ、そういう設定にしていたみたいな感じ?」
「いいえ、本来は魂だけの姿です。ただ、こうして自分の足で立っていられるのはコンテストに協力した報酬であり、一時的なものですよ。なにせ今回の催しを協力するに当たって、運営本部と複雑な契約を結んだものでして」
「ふぅん?」
「あははは。まぁこちらの私情については暇な時にお話し致しましょうか。ひとまず、この姿で家族と仲良く過ごせるのはフウカ様達のおかげということを伝えておきたかったのです」
そう言いながら青年は観客席の方へ視線を向けた。
それは彼女達の視線誘導するような示し方であって、楓華は同じ方向へ顔を向ける。
すると生身の獣人一家が笑顔で手を振っており、仲良くて幸せそうな光景が目に映る。
楓華はその挨拶に対して手を振り返した後、明るい様子で青年に応えた。
「良い家族だね。将来、アタイもあんな風に家族で楽しく過ごしたいよ」
「ありがとうございます。お世話になっている僕には過分の言葉ですが、優勝者にそう言って頂けると誇らしい想いです。ところで先ほどのボーナスポイントの件ですが、僕はフウカ様に投票させて頂きました。これは家族で話し合って決めた事です」
「そっか、スタッフって事は運営関係者だもんな。投票してくれてありがとうな」
「いえいえ。フウカ様には祖父、父、母、6人の妹達とお世話になりましたからね。それでも投票権があるのは僕だけでしたから、投票相手を1人に絞るのは大変心苦しかったです」
青年は申し訳なさそうな顔で投票に関する事情を教えてくれた。
一見すると単なる世間話にしか思えない情報だが、楓華は漠然とながらも腑に落ちた納得感を得ていた。
楓華は損得勘定が希薄なので全く気に留めていなかったが、獣人幽霊一家の試練はポイント稼ぎという観点では非常に効率が悪い。
きっと別エリアへ直行して試練突破に専念すれば、獲得ポイントは一段と増えていただろう。
それでも楓華グループに肩入れしていた鳥人女性は古城前に現れるなり、目先の試練を説明した後に急かす言葉で勧めてきた。
あれは参加者の意思を尊重した結果では無く、ボーナス獲得を見据えて遠回しに働きかけてきたのだと分かった。
「そっか、この出会いは偶然ってワケじゃなかったのか。あのキレイな女性スタッフ、運営内で競っているみたいな内部事情を匂わせていたしなぁ。アタイ達は駒として誘導するあたり、びっくりするくらい抜け目が無いな」
誘導されたことに嫌悪感は一切抱いて無いが、ムズ痒くなるような釈然としない気持ちが小さく芽生えていた。
対して青年は運営の末端ながらも一部の事情を知っているらしく、それとなく楓華の気分をフォローしてくれた。
「主催者のことですね?僕程度では主催者様達の真意は計りかねますが、優勝できたのは間違いなく皆様の実力と努力によるものです。そして投票したのもフウカ様が優勝者に相応しいと思ったものですから、あまり気に病むことはありませんよ」
「おっと、気を遣わせちまったか。ごめんな。別に不満なワケじゃないよ。これだけ大規模な企画であれば他の意図があるのは当然だし、優勝できて凄く嬉しいことには変わりないからさ。ってか、アタイもスタッフのアドバイスを聞き入れて行動していたくらいだ」
「もし納得して頂けているならば、運営スタッフの1人として感謝をお伝えさせて下さい。ご協力ありがとうございます」
「あっははは、アンタもお人好しだなぁ。律義で気が利いているよ。まっ、この件についてはアタイが本人から聞いてみるかな。期待以上に結果を出したはずだし、鬱陶しがられたりしないだろ。それで、そっちの運営としての仕事は?」
「あぁすみません。勝手な長話が過ぎました。間もなく優勝者スピーチが行われますので、フウカ様は特設壇上の方へ。それから別会場へ移動して、主催者様達から優勝報酬について詳しい説明があります」
スピーチを求められるのは唐突のことだったが、楓華の脳内では言いたいことは山ほどあったのでリラックス状態のまま了解した。
「おっけー。こう見えてもアタイはスピーチが得意だよ。自分自身のこと、ミルちゃん達のこと、村のこと、コンテストの感想。っと、まずは軽く半日かけて語っちゃおうかな」
「そ、そうですか。半日はちょっと……。そのー、途中でスピーチが制止されない程度にお願い致しますね?」
それから楓華はヴィム達に見送られながら大ホールの壇上まで意気揚々と歩いて行き、運営の進行に合わせて楓華は優勝者スピーチを始めた。
ただし、それは後にコンテスト最大の試練と語り継がれるほど超ハイテンションの長話になっていた上、他の参加者や観客席に質問を飛ばしたり、独断で仲間を壇上へ立たせるトークショーとして会場を占拠するのだった。




