136.宇宙最高のお嫁さん決定!ヒヤヒヤさせれたけど結果オーライ!
せっかく祝われるべき場面なのに鬼娘モモの態度は寂しいほど落ち着いている。
そして彼女は楓華から体調を心配される前に、少々キツめの口調で落胆した理由を答えた。
「大量にポイントがあるのは、クロスさんのポイント分配があったおかげに過ぎません。試練で苦労したり、参加者に襲われたり、危険な目に遭ったり。その苦労に見合う結果だと訊かれたら、まあまあ微妙で納得しきれませんね」
「だとしても、何万人も競争相手がいる中で6位は相当に凄いけどなぁ。もしかして照れ隠しで言ってるのか~?」
「違います。私はお姉ちゃんにも応援されたので、できれば3位には入りたかったんです。そもそも不慮の爆発や落とし穴、自然災害や他の参加者のハプニングに巻き込まらなければ、もっとポイントを獲得できたはずなのに……」
「あっははは。モモちゃんってさ、自覚が無いみたいだけど不幸体質で苦労人気質だよな。しかも妥協しない性格が更なる困難を引き寄せている。ってか、ヒバナちゃんもオメデトな~!」
楓華はヒバナの頭を撫でまわし、愛娘を全力で可愛がる気迫で褒め続けた。
ちなみにヒバナが狼狽していた理由は、モモとは真逆の考えで「まさか自分程度が6位になるなんて恐れ多い!」というものだ。
これまた彼女らしい謙遜であり、優秀な成績を収めても必要以上に恐縮して自己評価が低いのは相変わらずだった。
それからも順位は発表されていき、高順位になるほど会場は沸き立った。
5位が悪魔子児、2790点。
4位が鬼娘ロゼラム、3300点。
3位が長女ヴィム、3460点。
と、実際は100点獲得だけでも大変な苦労を要するのだが、高順位はポイントが拮抗している印象を受けた。
そして、ついに残す発表は1位と2位だけになって大勢の注目が集まる。
それに合わせて発表を続けていたスタッフも更にテンションを上げていき、あざとい仕草を連発しながら会場を温めた。
「ちっしぃ~☆これで3位まで発表したね♪運営の予定では、ここでブービー賞を発表することになっていたけど、そんな茶々を入れる真似は無し!このダイコクちゃんの独断で1位と2位を続けて発表するね!ただし、まずは両名のポイントだけ紹介しちゃうぞ☆」
白ネズミ少女はこの瞬間を最大限に楽しんでおり、もはや他のスタッフを置いてけぼりにする勢いとなっていた。
また彼女は黄金の粉を操って、モニター前の宙に数字を表示させる。
「2位のポイントは3760ポイント!それから1位は……わぁお☆まさかの13770ポイントだ♪これってぇ、大丈夫かな?もしかして賄賂でポイントを増やしていたりする~?」
まだポイントだけの発表だったが、会場全体がどよめき騒然とする。
1位の獲得ポイントがあまりにも飛び抜けているのみならず、何も知らない者からしても2位との格差で異常な数値だと気が付ける出来事だ。
そのせいで、当然ながら会場では不穏な雰囲気が醸し出されてしまう。
まして冗談とは言え、スタッフが不正を臭わせたのは大勢の不安を煽る行為だ。
一方、楓華は理解を越えた点差に愕然としており、この異常事態に心の整理が追いつかなくなっていた。
「ありゃ~……1万点差ってマジか。もう結果が分かり切っているというか、ここまで差があったらアタイでもショックで気絶するかも」
まだ僅差なら良い勝負だったと仲間同士で感慨に耽って慰め合えるが、桁数が違うのは強烈な絶望感があって言葉を失うレベルだ。
何より楓華は自分が優勝する未来を期待していたし、仲間の前では言葉に出さなかったが優勝した後の展望も考えていた。
ただ次第に現実を受け入れていけば、じわじわと感服する想いが湧いてきた。
「1位の人はどうやってポイントを稼いだのやら……。やっぱり決闘ルールか?それより、これだけ凄い優勝者なら『宇宙最高のお嫁さん』に相応しい器だっただけか。誰か知らないけど認めるしかないよな」
楓華はポイントを素質の数値化だと捉えて、1位を見習う気持ちに無理やり切り換えた。
そうしなければ納得しきれないし、悔しさのあまり優勝者を祝福できる気がしない。
そんな彼女らしく思考が前向きになった直後、ついにスタッフがそれぞれの名前を明かした。
「それでは名前を発表します!栄えある2位はミャーペリコちゃん♪そして堂々の1位はぁ~、ドドン!時雨楓華ちゃんでぇ~す☆パチパチパチ~☆」
「うん?えっ……はぁ?」
予想に反した展開が重なってしまい、楓華は喜ぶよりも唖然とする気持ちが表に出てしまった。
どんな反応をすれば正解なのか分からなくなるほど情緒が行方不明だ。
また彼女は自分の耳を真っ先に疑い、運営の手違いだと思い込んでしまう始末だった。
だが、その運営陣は祝福の言葉を述べて拍手までしてくれていた。
どうやら計算間違いは無いらしい。
とは言え、この結果に対して困惑したのはヴィム達も同じだ。
そのせいで運営同様に祝福してくれたのは、興奮気味のミルだけだった。
「フウカお姉様ってば、すっごぉ~い!超!超超ちょおースーパーミラクルウルトラすんごぉいよ!フウカお姉様が1位なのは当然の結果だけど、ミルはもっと大好きになったよ!!それにフウカお姉様の凄さが宇宙中に知れ渡ってミルは嬉しい!もう泣きそうかも!」
ミルは楓華が1位という事実をあっさり受け入れているので、ひたすら早口で称賛の言葉を捲し立てた。
もはや歓喜の祝福と呼べる反応ではなく、ひたすら叫び騒いでいる印象を受ける。
しかし、ミルのようにあまり複雑なことを考えないで素直に喜ぶのが正解なのかもしれない。
そもそも自分1人がどれだけ考えても計算内容が分かる気がせず、とりあえず楓華は気持ちを緩めて笑った。
「あっはははは。そうだな。アタイが1位なら今は胸を張らないとな!みんな、ありがとう!」
楓華は自身が渇望した幸福には変わり無いため、この展開を受け入れるのに時間を要さなかった。
だからこの巡り合わせと、優勝に満足して喜びを言葉にして伝えた。
だが、あいにく他の参加者も同じように物分かりが言い訳では無い。
そのせいで一部の人々が運営に対して不信感を抱くとき、スタッフは尋常な数値では無いポイントの真相について説明した。
「あえて、お知らせしていなかったけどぉ☆実はコンテスト全体を通して1つの試練になっていました♪それも運営陣が投票する形式で、最後にボーナスポイントが貰える仕組みでしたってこと!だって自分勝手に相手を陥れる人がポイントを大量に稼いでも、お嫁さんに相応しい訳が無いでしょ~?」
これは大半の参加者に通じる言い分だった。
なぜならコンテスト後半から、根拠無いデタラメに扇動されて参加者に襲い掛かるグループができてしまっていた。
そして運営陣なりに『宇宙最高のお嫁さん』を明確に定義してあった証明であり、順位発表していたスタッフは更にトドメの事実を突きつける。
「ただし、時雨楓華ちゃんが獲得したボーナスは1万点!それを差し引いても彼女のポイントは2位より多いので、彼女の1位は揺るぎませんでした~☆逆に言えば、他の選手はボーナスさえ獲得できれば優勝できたのに残念だったね!ちしぃ~♪」
つまり浅はかな行動を起こした参加者は優勝の機会を自ら逃した上、単純に実力でも負けていたという結果が残ってしまうのだった。
こうして見れば楓華の完全勝利だ。
だが、それでも自身の失敗を擦り付けるように贔屓だと野次を飛ばす選手が居たため、スタッフは更に内部事情を追って説明した。
「ち・な・み・にぃ~☆次に獲得投票が多かったのは4位のロゼラムちゃん♪その次は3位のヴィムちゃんなので、それ以下の人達は次回頑張ってねぇ~☆それと褒賞は全員貰えるから、すぐ帰らないように!あと合コンもあるよ!表彰と各スピーチもあったね。それから~……」
白ネズミ少女は次の進行についてだらだらと説明を始める。
しかし、この時点で楓華達はあまり真剣に話を聞いておらず、お祝い兼お疲れ様モードへ入りかけていた。
「優勝おめでとう、フウカちゃん。最後まで気が抜けないコンテストになってしまったわね。でも、無事に終えられそうで安心したわ」
「フウカ氏おめでとうございます!これでフウカ村を宇宙中にPRできますね!もう全ての願望が叶ったと言っていいかもしれません!あぁ……いえ、むしろこれからもっと忙しくなりますよね!」
「おめでとうございますフウカさん。これで晴れて宇宙最高のお嫁さんという二つ名を得ましたね。ですが、私への莫大な負債がまだまだ残っていますよ」
さりげなく水を差す言葉を意図的にかけられたような気もするが、彼女達が楓華の優勝を本心から祝福しているのは間違いない。
特に彼女達は楓華の努力と能力を深く理解しているため、自分の事のように喜んでくれていた。
そして「楽しかったね」「お土産買わないとね」「新しい友達できたよー」と気を抜き、その場でのんびり語り合った。




