表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

134/147

134.勝敗よりも重要なこと、目先の勝利よりも得られた友との約束

ミルの華々しくも騒々しかった発表は終わり、3人の審査員はそれぞれ採点を告げた。

そして3人とも点数を述べた後、鳥人女性が運営チームの代表として総計点数を改めて伝える。


「ミル選手、以上により合計0点だ」


「あひぃ……(じぇりょ)ぉ……??」


残酷な結果を淡々と発表されてしまい、顔面蒼白のミルは悲鳴らしき呻き声をあげながら呆然とする。

冗談だと思えるほど期待に反した点数だが、あまりにも絶望的すぎて説明追求や反論する気が起きないらしい。

さっきまで輝いていた目も虚ろであり、(なか)ば気絶状態だ。

そんな灰の(ごと)く燃え尽き終えた薄幸少女に代わり、楓華が舞台へ飛び出して審査員に訴えかけた。


「ありえない!これぞハプニングでしょ!なんでミルちゃんが0点なワケ!?さっきのパフォーマンスは誰が見ても完璧だった!それなのに全否定するなんて、どうなっているんだ!?絶対におかしい!」


「優れたパフォーマンスだったのは認めるし、納得できない気持ちも理解できる。だがな時雨楓華。先ほどの採点時に批評したように、ミル選手の発表は愛情表現から掛け離れているという見解がこちらで一致した。あれは自身の魅力を一方的に披露しただけだ」


「ハッ、大マジで言っているのか?それならアタイの発表だって似たようなものじゃないか」


(なんじ)は自身の愛がどのようなものか、分かりやすく言語化して伝えていただろう。それも事前、事後と抜かりなかった。そして言葉で包み隠さず本心を伝える重要性については皆が理解している」


「あっそ、点数が低くなる理由は分かった。でも、愛情表現は人それぞれなのに0点はメチャクチャだろ。野生動物の求愛も0点にするつもりか?」


「極論の例え話はやめろ。我々はミル選手という人柄(ひとがら)を前提に採点している。他の採点も同様であり、だからこそクロスに対する点数は高くなっているのだ」


相手から理解できる返答は得られたものの、楓華は納得しきれず冷静を欠いたまま感情論で返そうとした。

だが、彼女は手の施しようが無いほど目先の問題に囚われる愚か者では無い。

だから下手に問い詰めるのは控えて、言い分の方向性を変えることで説得しようと考えた。

比べて鳥人女性は一貫して冷静であり、物静かに語る声色で喋り続ける。


「あと勘違いされては困るが、仮にミル選手が愛を語ってもクロスの点数を上回ることは無い。教えに影響されやすい(よわい)とは言え、ミルは汝を盲愛するあまり浅い知識で猿真似しただけだ。我が知る本来のミルならば、もっと己の深層心理を丁寧に伝えられていた」


「うぐっ、知った風な口をって言いたいところだけど……。こうも理屈責めで追い打ちされたら、さすがのアタイでも傷つくな」


「心当たりがあるなら結構だ。何がともあれ、採点が気に入らないという理由でこちらに文句を挟むのは無粋だ。よって、この愛情表現を課題にした試練の勝者は決まった。勝者は……」


彼女は運営スタッフとして試練の勝者を宣言しようとした。

駄々をこねた楓華も既に覚悟を決めており、望ましくない宣言を大人しく聞き入れようとしている。

しかし、その宣言を阻む形でクロスが急に間を割って声を張り上げた。


「待って下さい!」


「何事だ、クロスよ。ただでも汝については改める余地が無いほど心象が悪いのだから、こちらの案内には問答無用で従え」


「いいえ、それでも先に1つ言わせて下さい。フウカ様はチームであるため、彼女達をまとめて1つの個だと認めるべき存在です。つまりチーム全体の累計点数で私と比べるのが筋でしょう」


この突拍子無い意見は、明らかにクロスが自身の敗北を決定づけるものだ。

それに試練を根底から台無しにする話であるため、鳥人女性は露骨に不機嫌な声色で返した。


「意図が分からないな。唐突に脳みそが腐り果てたとしか思えない世迷言だ。一語一句全てに筋が通っておらず、理屈が破綻した意見だぞ。点数の帳尻も合わなくなる。だから聞くに値しない」


「どのような内容であっても、私の意見について協議するつもりは無いのですね?分かりました。ではリール、ここは頼みました」


クロスは素直に引き下がったと思ったら、すぐさま金髪幼女リールの名前を出した。

その途端、鳥人女性は面倒くさそうな目つきとなる。

そして彼女が再び嫌悪感を抱くのは当然で、運営側が立てた予定とは異なる展開になると分かりきっているからだ。

そんな後ろめたい感情が湧く一方、リールは楽しそうに前へ出て喋り出した。


「はいはーい!リールの登場だよ!リールね、飛び入りで運営組織に入るよ!そして運営権限によりクロスのお話を受け入れるの!」


飛び入り参加ならぬ運営陣へ飛び入り加入。

あまりにも斜め上の発言に鳥人女性は頭を抱え、呆れ果てながらも答えた。


「同志達がどのように(おう)じるかはさておき、我からすれば到底受け入れられる話では無い。ましてイベントの最中だ。そのため加入の件も協議する必要は無く、リールの加入を拒否する」


「え~、お断りってこと?リールね、話を聞いてくれないならママに言いつけちゃおっかな~?」


(いさか)いに我ら(あるじ)を引っ張り出そうとするな。それよりクロスに問いたいことがある。クロス、汝は(みずか)ら勝利を捨てるつもりなのか?これは現状、コンテスト優勝に直結する話だぞ。そして()(わきま)えた上で心変わりした理由も述べよ」


リールの発言力により、鳥人女性は発言の意図を確認する程度には耳を貸してくれた。

この奇跡的なチャンスをクロスは逃さず、変動し続ける状況を未だ掴みきれてない楓華を一瞥(いちべつ)した後に答えた。


「皆様がご存知の通り、私は他者からの評価より自身の方針を最優先に行動しております。そして私はフウカ様達に敗北したと感じたため、道理が通らない要望をお伝えしました」


「はぁ……。わざわざ好き勝手にルールを変えずとも、棄権すればいい。それならば個人の自由で決められる範囲であり、こちらもわざわざ忠告しない。それで直接対決で無いのにも関わらず、敗北したと思い込んだ動機は何だ?」


「おや?なぜ私に動機があると勘違いしました?私は元1級犯罪者ですよ。運営が納得できる動機を持っているわけがありません」


「つまらない戯言だな。答えたくないなら結構だ。それで運営の一員として再度確認するが、本当に棄権するのだな?棄権すればクエストの宝は時雨楓華へ渡され、事前に取り決めた約束により汝の所持ポイントは全て失うことになるぞ」


「はい、何もかも承知の上です。私クロスは、この試練における競争を棄権します」


悪足掻(わるあが)きしないとは、退屈な結末だと言わさざるを得ないな。興ざめだ……。では一連の話を踏まえ、クロスの棄権申請を受理する!よって勝者は時雨楓華チームだ!」


この宣言が成されたとき、ヴィム達は安堵しつつ小さな歓声をあげて喜んでいた。

全員が全力を尽くしたことには変わりない上、望み通りの幸福な出来事だから嬉しくなるのは当然の反応だ。

ただ楓華のみが不思議そうな表情であって、珍しく戸惑い続ける彼女の下へクロスは歩み寄った。


「おめでとうございます、フウカ様。呆気ない幕切れにさせてしまい申し訳ありませんが、それでも私は負けを認める他ありませんでした」


「いっやぁ~意味が分からないな。マジなんで?村で歓迎してあげた義理とか、アタイに(ほだ)された末の温情……では無いよな?」


楓華は言葉を捻りだして、満足気に(たたず)むクロスの心情変化を探ろうとした。

対してクロスは元から本心を偽る気はなく、更に難しく語るつもりも無い。

だから彼女は清々しい顔でありのまま思っていることを口にした。


「そうですね。強いて言うならば、私には思い描いていた勝利のビジョンがありました」


「勝利目前に棄権を選ぶくらい勝ち方に(こだわ)っていたのか」


「はい。そして、それはフウカ様のお力により砕かれてしまい、競争には勝っても敗北感が拭えないと先に理解したので諦めました。せっかく勝敗が決したのにどちらも負けた気分で終えるなど、あまりにも後味が悪いですからね」


「そうかもしれないけどさ……。結局はどういうこと?」


「私の心が(くじ)けました。まぁ私は戦うことを目的にして、フウカ様のように勝利に執着しきれていませんでしたから。そのため、私が今回負けるのは運命と言えるでしょう。この敗北要因は次の糧にさせて頂きます」


「おぉー……?うん、あっははは~。やっぱりアタイには何も分からねぇや。まっ、この勝利に納得できないのはアタイも同じだし、次こそは降参無しで競い合おうな。あと競うだけじゃなく普通に遊ぼうぜ」


楓華は気さくな笑顔を浮かべつつ、親友に接する素振りで握手を求めた。

その健闘を(たた)え友情を築くコミュニケーションにクロスは同様の笑顔で返し、少し浮かれた物腰で握手に応える。


「もちろんです。フウカ様達との交流は、いつも楽しい思い出と素晴らしい刺激を与えてくれますから。その機会が訪れたら必ず都合を合わせます」


「あっはははは。そこまでアタイとの再会を優先してくれるなんて、すっかり親友だ。じゃあ大事な親友が楽しめるよう、アタイは張り切って歓迎するから期待していてくれよな。おもてなしだ」


「フウカ様のおもてなし、是非ともお願いします。フウカ様は唯一無二の親友であり、私のお気に入りですから嫌でも期待しますよ。ックフフフ」


ほのんりと引っかかる物言いだったが、彼女なりに好意を示してくれたのだろう。

そうだと楓華は前向きに捉えて、より良好な関係を築き上げて新しい約束を交わすのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ