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130.そんなのあり?クロス&楓華の協力発表

クロスは金髪幼女リールを引き連れて、楓華と入れ違いで舞台へ上がろうとする。

その擦れ違い際にクロスは楓華に一言だけ耳打ちした後、彼女は舞台上から審査員達に向かって喋り出した。


「3番手は私、クロス・マリアの出番とさせて頂きます。そしてお手伝い役として彼女を指名しました」


先程の流れからして、クロスが指名したお手伝いはリールだけのはず。

しかし、全くもって理解不能なことに舞台を降りようとしていた楓華の姿まであった。

つまりクロスの発表にリールと楓華の2人が手伝うという事態を迎えているのは明白だが、さすがの展開に審査員達は一同揃って目を丸くした。


「うっひゃあ~ウソでしょ~☆ここで敵に塩を送るとか面白すぎなんだけど~♪自由奔放すぎてヤッバ~!」


「これは美しき友情、または何らかの義理なのでしょうか。だとしても私には理解し難いですね……。もしや八百長かドッキリ企画?」


「いやはや、誠に摩訶不思議だ。時雨楓華よ、これで本当に良いのか?皆からすれば(おご)りにしか思えんぞ」


この望ましくない状況に驚くのはヴィム達も同じだ。

最悪の場合、仲間からの反感を買うことは楓華も分かっているはず。

それでも楓華は自身の行動を問題視しておらず、呑気に受け答えした。


「頼まれたからっつーか、勝つために手段を()り好みしないのは悪いことじゃないよ。違う方法でアプローチしようとするクロスの考えは理解できるし、アタイも観客を巻き込んだからお相子(あいこ)って感じかな」


楓華はそれっぽい理由を述べるものの、実際は現状に見合った理屈なんて一切考えてない。

ただ単純に気前が良いから協力を引き受けただけで、ある種の油断と言えた。

だが、楓華がそれほど難しい問題だと思ってない理由は確かにあった。


「仮にクロスの方が点数が高くなってもアタイは後悔しないさ。そもそもアタイの陣営にはヴィム姉とミルちゃん、更にモモちゃんと3人の出番が残っているからね。もし引っ繰り返されても必ず押し返してくれる」


楓華は仲間の活躍を信じている。

けれど、その楽観視が極まった話を聞いたモモは、論理的なロジックで考え抜いた末に嫌そうな顔で呟いた。


(はた)から聞く分にはカッコイイことを言っていますね。ですが、あまりにも無責任すぎませんか……。この土壇場で不安要素を足さないで欲しいです」


モモの言い分は当然だ。

なにせ無事に勝利するチャンスを不意にされたようなもの。

それに楓華の事だから妨害する小賢しい真似はありえず、むしろ協力するからには最善を尽くすことは全員が知っている。

そのためヴィムとヒバナも同様に困惑していて、どこか諦めたような渇いた笑い声を漏らしていた。


グループ内で唯一前向きに張り切っているのはミルだけであり、彼女も「器が大きいフウカお姉様に期待されている!」と能天気なものだ。

そうして最後まで手も気も抜けない状況が続く中、クロスは腰の鞘から真紅の長刀を素早く引き抜いて天へ掲げた。


「では、始めさせて頂きます。主演は剣士クロス。ヒロインはリール姫。悪役は魔王フウカです」


この言葉が発せられた直後、開始のブザーが鳴り響いた。

同時に、その場に居合わせている人達はクロスが何をやりたいのか薄っすらと察し、想定とは異なるアピール手段に言葉を失った。

対して楓華は冷静なもので、クロスからのアイコンタクトだけで大半の流れを理解して堂々と喋り出した。


「アタイはスケベ大魔王のフウカ!この麗しきリールちゃ……リール姫に一目惚れし、お嫁さんにするため誘拐した!これからはリール姫に貢ぎまくって、末代まで贅沢三昧の生活を送らせてやる!がっはっはっは~!」


楓華は唐突なアドリブで勝手なキャラ作りをする。

実は既にクロスの予定とは異なる動きなのだが、すぐにリールは彼女の大胆にふざけた配役を受け入れて合わせてみせた。


「きゃあ~ん。リールね、このままだと世界中の人々に看取られながら幸福な死を迎えちゃう~。安泰で楽しく充実した生活なんて、魅力的すぎて困っちゃうよ~」


たった一言で薄っぺらいお遊戯会になっていることは、誰もが感じ取っていた。

だが、意外にもクロスは熱心に英雄キャラを演じて、一番白熱した振る舞いでセリフを叫ぶ。


「リール姫をお助けしなくては!彼女は世の宝!そして本人の幸せを奪ってでも私は彼女を独占したい!この胸の内から湧き立つ激情は支配欲なのか!私には分からないが、口先の理由など二の次だ!強制奪還作戦を決行する!」


クロスは明らかに観客を意識した説明口調を発しながら、舞台上を練り歩いた。

一方、楓華はいつの間にか漆黒のマントを羽織っていて、ずいぶんと大げさに(ひるがえ)す。


「おっと?早くもアタイの恋路を邪魔する野暮な輩が現れるか。その魔の手を振り払い、厳しく(しつ)けなければならないな?……ありゃ、アタイのセリフがおかしいか?」


楓華は自身の気取った発言に違和感を抱き、意味不明な言葉の羅列(られつ)になっていないかと自問した。

それでも物語は強制的に進行して、クロスは正面から楓華と相対する形で向き合った。


「さぁ超ドスケベ大魔王フウカ!私のリール姫を返して頂きましょう!」


「うむうむ。その意気や良し。しかしな~、リール姫本人は帰りたがってないぞよ~」


「リール姫は単純ですからね。すぐ目先の飴に釣られてしまいます。けれど、もう少しで宇宙刑事ドラマが始まりますよ!このまま見逃して良いのですか!?」


「いや、それくらいアタイの所でも見られるよう迅速に手配を……」


「立体音響による没入感!お気に入りのお菓子!お気に入りのスペース!何でも事前に取り揃え、好みを把握していることは愛の結晶でしょう!」


「へぇ?愛は早い者勝ちだって言いたいのか?甘いな~。アタイが大好きなフルーツましまし生クリームクレープより甘い。常に新しい刺激、つまりマンネリ感を与えない方こそ本物の愛だろ~!」


姫役のリールが言葉を挟む間も無く、楓華とクロスは一進一退に言い合った。

ただ配役の意味を感じさせない口喧嘩となっている様は妙な呆れを覚えさせるもので、審査員達を熱中させる力は無い。

そんな折、クロスは刀の剣先を楓華へ向けた。


(らち)が明きませんね。こうなれば実力で決めましょうか。愛の力が強い方が勝利するのは世界の真理ですから」


「あっははは。アンタって、そういう誠実なキャラじゃないだろ」


この寸劇を始める前から、クロスは実力勝負にする算段だったのか。

それが真意なのか分からないが、楓華は冷静な目つきに変え、更に腰を低くしながらステッキを力強く構えた。

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