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124.運営スタッフにより最後の宝玉を賭けた試練が持ち掛けられる

楓華は可愛らしい人形の手から(こぼ)れ落ちた宝玉を拾い上げる。

それから彼女は頭上を見上げて、まだ呑気に俯瞰するクロスに尋ねた。


「これはどうする?多分、このままアタイが宝を貰っても横取りしたみたいになるよな?」


「フウカ様の手持ちにして構いませんよ。この流れで私が頂いても、結局は横取りと同じでしょう」


「おっ?気前よく譲ってくれるってことか。ずいぶんと余裕だね~。もしかしてだけど、けっこう集め終えているとか?」


「多いのか分かりかねますが、私が入手した宝は3つですね」


クロスが淀みなく答えると、つい楓華は顔を強張(こわば)らせてしまった。

その理由は単純に自分よりクロスの方が優勢だからだ。

しかも、今しがた入手した宝玉を獲られたら勝利の可能性は潰えていた。

そんな気配を楓華は押し隠さずに漂わせてしまったので、クロスは彼女の心境を察する。


「その表情……ふふっ。案外、私の圧勝になりそうですね」


「正直ビックリはしたよ。でも、劣勢になっただけで負けるとは思って無い。まだ宝も残っているはずだ」


「そうですか。さすがフウカ様、素晴らしい根性です。ちなみにフウカ様はおいくつ手に入れたのでしょうか?」


「これを合わせて2つ。まっ、まだまだ勝負の行方は分からないだろ」


楓華は楽観的な顔つきで意気込みむのの、その闘志は衰えるどころか燃え上がっている。

そんな気後(きおくれ)れしない彼女の様子を見てクロスは嬉しく思った。


「フウカ様は逆境であればあるほど楽しむタイプですか。いいですね。やはり私にとって最高の友人であり、理想的なライバルです」


「アンタってさ……軍人みたいな言い方するね。できれば遊び仲間って言ってくれよ」


そう楓華が困り顔で反応したときのこと。

不意にクロスは、自分より遥か上空から接近して来る異質な気配を察知する。

同時に彼女は珍しく嫌そうな表情を浮かべ、眉を潜めていた。


「面倒なのが来ましたね」


クロスが呟いた直後、空から女性スタッフが3人も降りて来た。

1人は鳥人女性、もう1人は白ネズミ少女。

そして3人目は初めて見かける巫女服の女性だった。

このタイミングで運営が介入する意図は見当つかないが、クロスだけは露骨に不機嫌な態度を示していた。


「高位委員会の面々ですか。分体とは言え3人も顔を揃えて出てくるとは、私に何か御用でしょうか」


クロスは個人的な因縁があるため、運営チームの動向を警戒していた。

しかしクロスの心配は全くもって杞憂であり、彼女ら3人は運営スタッフとしての仕事を執り行う。

それは振勝者の手当てと事態の収拾であり、鳥人女性は楓華とクロスに向けて説明した。


「負傷者が続出したため、直々その処置に当たるだけだ。また、緊急クエストについて話がある」


「ルール違反でもありましたか?それとも変更せざるを得ない都合ができたなど」


「その点に関しては心配無用だ。現状、貴様……クロスが優位なのは変わらず、我々は私情を挟んで関与するつもりは無い。また、立場を利用して妨害することもありえない」


鳥人女性は相変わらず高圧的な態度で話すが、発言そのものは平等であり運営チームに相応しい意思表示だ。

それによってクロスは警戒心を緩め、地面へ降り立ってから頭を下げた。


「そうでしたか。私としたことが、つまらない邪推してしまいましたね。てっきり私の宝を没収するものかと。すみませんでした」


「その態度は望ましいものだが、あの時も素直に謝罪してくれた方が心証は良かったぞ」


「これは反省と影響を経た末の態度ですので、あの時のことを責められても返事に困ります」


「はぁ……馬鹿正直な奴め。それよりクエストの現状を知って欲しいのだが、誰も入手していない宝は残り1つ。そして発見された数は計6つであり、保持者は時雨楓華とクロス。それからモモと呼ばれている鬼の子どもだ」


女性スタッフの口からモモの名前が出てきて、楓華はパッと明るい表情を浮かべた。


「おぉ、やった!ってことは、モモちゃんとヒバナちゃんか!得意な事じゃなかっただろうに上手くやったんだ!凄いな!」


「モモ選手についてはこちらが想定していない事情を挟んだものの、宝の保持者だと認めている。まぁ譲渡違反の対象はポイントのみだったから、見逃す他なかったのだが」


「え?よく分からないけど、誰かから貰ったってことかな」


「うむ。何であれ、宝が残り1つとなった今、既に大半の順位は決定づけられたものだ。そして大きく順位変動する要因は、クロスと時雨楓華チームの間に交わされている取り決めのみ」


「相手より宝を多くゲットしたら、手持ちのポイントも貰うって約束だね」


楓華の確認を兼ねた言葉に鳥人の女性スタッフは頷いた。


「そうだ。そして、これまで通り(みずか)らの足で発見するのも悪くないだろう。しかし、更なる協議を重ねた末、こちらでフィナーレに相応しい試練を用意した。その試練結果で最も輝いた者にポイントとクエストの宝を授けたい」


「へぇ、試練と組み合わせるのか。何度も駆け回るのは大変だし、アタイは賛成かな。それにクロスもアタイと真っ向勝負したいよな?」


自分の一存で賛成の流れにするのは忍びなく、それとなくクロスに訊いてみる。

しかし彼女の返答は訊く前から分かり切っていて、その場に居る全員の予想通りの言葉が返ってきた。


「当然です。宝探しの成果だけで勝敗を決めるのも一興ですが、互いの力を披露し合いながら競う方が私の好みです」


「あっはははは!クロスは大胆なことが好きだから、そう即答してくれると信じていたよ。それでスタッフさん、試練内容はどんな感じにするつもりなんだ?」


よほど奇天烈(きてれつ)な課題でなければ良いなと楓華は思いつつ、当然の質問を投げかけた。

すると彼女が提示した試練は『宇宙最高のお嫁さん』に相応しいものであり、最後を飾るかのように気取りながら答えた。


「その試練とは、愛情表現だ」


「愛情表現かぁ。いや、愛情表現?それって具体的には何するワケ?」


「それは各々の自由だ。言葉を紡ぐ。求愛ダンス。プレゼント……それを各々で表現して欲しい。ただ話を続ける前に、まずは時雨楓華チームの集合だな。モモ選手、ヒバナ選手、ヴィム選手、ミル選手をこちらへ呼び出す。少々待て。場を整える」


その言葉を言い終えたときには、実は既に1つの大舞台が彼女達の前に出現していた。

更に楓華グループは一カ所へ集合させられていて、運営のサービスで完璧な全快も済まされている。

このオマケのおかげで万全な状態を迎えられるわけだが、やはり最初は混乱が起きてしまった。


「あれ、フウカお姉様?ミルってば、気がおかしくなったのかな。ずっと遠くへ離れた場所で身を隠して……あれれ?」


「なぜかしら。記憶が変に曖昧だわ。もしかして、これが記憶障害というものなのかしら」


「フウカ氏~!もう寒くて死ぬかと思いましたよ~!ポイントでホットドリンク飲み過ぎて、某のお腹がタプタプですぅ~!」


「も……もうダメかと思いました。いくら鬼でもスノーモービルごとクレバスへの落下は色々と覚悟してしまいます。はぁふぅ……私、本当に生きていますかね?実は死んで夢をみている?」


集まった瞬間に独り言と一方的な会話大会が始まってしまう。

しかし、その無意味な愉快さが楓華は大好きなので、たまらず口元が幸せそうに緩んだ。

一方クロスは彼女達の賑やかな様子を大人しく眺めるだけだったのだが、そんな時に服の袖が引っ張られた。


「クロス」


呼びかけられてクロスが視線を落とすと、そこには金髪幼女リールの姿があった。

そのことに彼女は驚き、女性スタッフとリールを交互に見る。


「これは一体なにごとですか?リールは観戦者でしょう」


この問いに鳥人の女性スタッフが真顔で答える。


「それは分身だ。ただしリール本人とリアルタイムで同調させている。先に伝えておくが、これについて深い意図は無い。当然リールからの手出しは禁止させて貰うが、現場での応援は欠かせないだろう」


「私とリールへの気遣いという訳ですか」


「思い上がるな。リールに対する気遣いだ。あと本会場の配慮も兼ねている」


「あの子ったら……観戦に飽きて遊び回ったのですね」


「おかげ様で運営スタッフの1人が泣きながら寝込んでいる。それでは皆の者、心の準備は良いだろうか。これより改めて試練の説明を行い、優勝を賭けた勝負を始める」


女性スタッフが指を鳴らすと多色のスポットライトが舞台を照らし、更に舞台前には3つの席が用意されるのだった。

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