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120.スノーモービルでチェイスしてシスターがファイアでバスターする

一方でモモとヒバナの2人組は、どういう経緯を辿ったのか雪原エリアをスノーモービルで横断していた。

2人乗りでモモが小柄ながらも運転を担当しており、緩やかな雪上を滑るように駆け抜けている。

ただし、雪上を走行するスノーモービルは彼女達が乗る1台に限らず、その他にも後方から追い掛けて来るスノーモービルが3台あった。


「モモ氏!もうすぐ追いつかれますよ!」


「いえ、同じ車種で最高スピードへ達していますから。このまま走れば距離を詰められることはありません」


「で、でも、それなら引き離す事もできませんよね!?」


「その通りです。エネルギー切れになる前に相手が諦めてくれれば良いのですが……期待するだけ損でしょうね」


「うわぁ~ん!そもそも、どうしてマークされないといけなのですか!なにか気に障ることをしてしまいましたか~!?」


ヒバナは想定外の災難に直面して嘆き喚いた。

一見するとスノーモービルでレースしている光景に成り果てているが、実際は他の参加者達に狙われている真っ最中だ。

その他の参加者達とやらは、クロスに襲撃を仕掛けたチームと同一である。


つまりモモ達もギリギリながら高順位に入っているため、標的対象になってしまったのだ。

しかし、これら思惑の背景を2人とも把握していないので、執念深い野蛮人に襲われている認識だ。

だから、もしも捕まった際の末路が予測できず、過剰な焦燥感と緊張感に苛まれていた。


「ヒバナ師匠。このままエリアを出たら自分の足で走る事になる訳ですが、脚力に自信はありますか?」


「愚門ですね!某は走った直後に転んで死ぬ運動神経ですよ!」


「私も似たようなものです。それどころか脚力は皆無だと自負しています」


「某と同じですね!」


頼りない上に喜ばしくない同意だが、威勢良い返事のおかげで楽観的な選択を即座に切り捨てられた。

そして逃走が不可能ならば彼女達に残されている手段は1つであり、モモは冷静に答える。


「大人しく降参するのが賢明かもしれませんね。どれだけ怖いを思いをして、煮て焼かれても生還できますから。無論、私は全力で逃げます」


「某も同じく悪足掻きさせて頂きます!緊縛プレイなんて趣味じゃありません!」


「では、窮地を脱する方法が他にあるとすれば救援信号ですね。フウカさんが気付いてくれる僅かな可能性に賭けましょう」


「うぅ~、一縷(いちる)の望みというやつですか~」


あまりにも儚い期待であり、切羽詰まった末の救援信号なので間に合う訳が無い。

それでもモモは小さな希望を託し、淡い炎色の鬼火を灯して空高く放った。

すると鬼火は爆散し、花火同様の発光で『助けて』という文字が浮かぶ。

これは追っ手からすればモモ達が抵抗できないという情報にもなってしまうのだが、あれこれ考慮する余裕など残されていない。


「さて、フウカさんの救援に期待しましょう。彼女なら一瞬で駆けつけるくらい造作もありません」


「フウカ氏ぃ~お願い致しますよ~」


助けが間に合う事を強く願った直後、火柱が雪原の下から不意に噴き出した。

それは朱色の鬼火であって、モモが放つ鬼火とは色のみならず気配も異なる。 

更に鬼火はモモ達の前方を除いた周囲の大雪を溶かし、水流が入り混じった雪崩が発生して追跡者に襲い掛かるのだった。


「うわぁ!?い、助け……!ふぐっ……!?」


声が発しきられる前に追っ手の悲鳴は絶える。

押し流されたか、もしくはスノーモービルだから横転したか。

災害に遭ってもコンテストの仕様上で助かることは保障されている。

だが、どのような恐怖体験に遭ったのか想像できてしまい、ヒバナは相手に同情した。


「うわぁ……。あまりにも突然で何が起きたのか分かりませんが、ちょっと可哀想です」


「か弱い女の子を追いかけ回した罰ですよ。それより、この隙に逃げましょう。私達とは違い、とても頑丈な相手かもしれませんから」


モモは自衛意識があるため、最後まで気を抜かず離れることにした。

その判断は非常に正しい。

今の雪崩は小規模であり、一般人に直撃しても即座に行動できる足止めレベルだ。

だから相手達は協力し合うことで積雪から這い出て、すぐに次の手段で追跡しようとする。

だが、その追跡が再開されるより早く、別の鬼娘と黒猫少女の2人組が追跡者達の前に立ちはだかった。


「申し訳ないけど、あたしの妹を執拗につけ回すのはやめてくれないかな。ストーカーさん」


鬼娘の容姿はモモより二回りは年上で、大人の女性だと断言できる風貌だ。

長い銀髪に朱色のメッシュが入っており、更に手には大きな金棒が握られている。

一方、黒猫少女は彼女の後ろで「シャーシャー」と鳴き声の威嚇するばかりで、結果的に威圧感が欠片も無い空気になってしまっている。

そんなチグハグな組み合わせの2人を見て、相手達はハッと気が付く。


「こいつら2位と3位か!この2人にも別のチームが仕掛けているはずなのに、どうしてここへ来ているんだ!?」


「揉め事には慣れているから。なんなら、あたしは世界を救った事もあるよ。ねっ、ネコちゃん?」


鬼娘が後ろで騒ぐ黒猫少女に声をかけると、ネコと呼ばれた少女は尻尾を軽やかに振りながら答えた。


「そんな別世界のこと、どうでも良いにゃ!それより寒いから、さっさとアイツらを倒して温かいロッジへ避難するのにゃ!」


「もうネコちゃんは寒がりだねぇ。ほら、温めてあげる」


「抱き付こうとしにゃいで!触っていいのは首元だけ!」


「えー、どさくさに(まぎ)れて触りたかったのに。まぁあたしも寒いし、この後は鍋パーティーでもしようか……なっ!」


銀髪の鬼娘は積雪という足場にも関わらず、優れた瞬発力を発揮させながら金棒を振り抜いた。

その武器の扱い方は目を見張るほど卓越しており、各々の防御と回避を的確に見越して打撃をクリティカルヒットさせている。

そして攻撃を受けた敵達の五感は麻痺した上、幻覚症状に(さいな)まれて雪上で転がり回る始末だ。

それによって至るところから呻き声があがりだす中、ネコは高圧的な態度を示した。


「ふーんだ。悪魔を舐めるから苦しむ羽目になるんだにゃ」


「もぉ悪魔なのはネコちゃんだけでしょ。しかも、あたしは契約すらしてないよ」


鬼娘は黒猫少女の隣へ戻りながら言い返した。

しかし、黒猫少女は相手の意見を切り捨てるように威張り散らかして堂々と言いきる。


「悪魔と一緒に旅をしているから、ロゼラムお姉様も悪魔の一味にゃ!」


「悪魔の理屈だとそうなるの?楽しそうだから良いけど、あたしで務まるかな」


「なんでにゃ。ロゼラムお姉様の実力なら皆が歓迎するにゃ」


「そうじゃなくて、あたしはお世話と人助けの経験しか無いよ」


「うんにゃあ……、やっぱ無理かも。お人好(ひとよ)しすぎて悪魔の利己主義に向いてないにゃ。もし悪魔試験を受けたら書類審査で落とされるにゃんよ」


2人は元より相手を脅威だと見なしておらず、実際に呆気無く制圧できたせいで肩の力を抜いていた。

なんなら視線を外していて、気にも留めていない素振りで雑談している。

その大きな油断により、深刻な状態異常から復帰できている存在を見逃してしまっていた。

そして敵はすかさず体勢を整え、闘争心を奮い立てた。


「武力行使するなら、こっちも容赦はしなっ……」


油断の隙を突かず、相手がわざわざ大声で存在をアピールしようとした矢先のこと。

突如、遠方から放たれた淡い鬼火が空気を鋭く裂いた。

それは完全に銃弾と同一の効力が備わっており、再起した敵の(ひたい)へ直撃すると共に鈍い打撃音が鳴る。


「ぶひぃっ!?」


あくまで鬼火だからなのか、幸運にも貫通力は無かったらしい。

だが、強い衝撃が頭部を突き抜ける様は、無防備にフックパンチを受けたのと同じだ。

そのため相手はバランスを崩しながら後ろへ吹き飛び、再び雪山へ埋まって沈黙することになる。

この援護は誰にとっても予想外だ。

だからロゼラムと呼ばれた鬼娘は呆気に取られるも、すぐさま振り返って表情を緩めた。


「まさか妹と、その親友に助けられるなんてね。せっかく良いタイミングで助けへ入れたのに、上手く恰好が付かないなぁ」


彼女が見つめる先に居たのは、スノーモービルから降りて戦闘態勢に入っていたモモとヒバナだ。

そしてヒバナが長銃を構えているので、先ほどの鬼火は彼女の射撃によるものだと推測できた。

同時に鬼娘ロゼラムは妹がカスタムした銃だと見抜き、1人で納得する。


「上手いね。鬼火をチャージできる道具を作るなんて。褒めるところしか無くて惚れ()れするよ」


彼女は声に出さなかったが、仕様上の欠点を補った工夫も一目で察すると共に寂しく思っていた。

なぜなら武器が優秀な性能を誇るほど、それだけ妹が武器設計に精通していることになってしまうからだ。

それはモモ側にどのような理由や経緯があるとしても、やはり姉としては複雑な心境になることは免れない。

しかし、幼い妹の努力の証だと理解しているため、ロゼラムは深く気に留めることはやめた。


「久しぶりだね、モモ」


ロゼラムは金棒を手元から消失させながら歩み寄り、笑顔で挨拶する。

その優しい笑みと仕草には最大限の親しみが込められており、モモの心には再会を果たした実感が一気に湧き上がった。


「ロゼラムお姉ちゃん!」


モモは感極まった声で名前を呼びながら勢いよく抱き付き、姉の胸部へ顔を埋めた。

こうして年相応に甘える態度を見せるのは初めてで、何も知らないヒバナは驚く他なかった。


「お、お姉ちゃん?えっと、モモ氏に似て……いますね」

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