118.楓華、おてんば娘のミャーペリコに巻き込まれる
クロスが宝を1つ回収する一方、楓華はコンテストのルールを活用して宝の在り処へ一直線に向かっていた。
それはポイント消費することで入手したレーダー探知機であり、様々なモノが多過ぎる惑星だからこそ彼女には欠かせない必需品だろう。
「これがルール説明にあった秘密の仕掛けってやつかな」
そして楓華は今、天空エリアで白い雲の上に立っていた。
この雲は別世界のテクノロジーによって特殊な細工が施されており、液体でありながら複合金属より頑丈な性質が備わっている。
つまり、ここ一帯の雲は機械と同じだ。
そのせいで楓華は雲の迷宮という未経験の空間を突破しなければいけず、更には物騒なトラップが仕掛けられているオマケ付きだ。
素直に攻略するならば、この上ない難所だと言い切れる。
最低でも鳥のような飛行能力は必須だろう。
もちろん楓華の体に翼は生えていないが、超能力で自由自在な空中浮遊が可能だ。
加えて強化されている観察眼は初見の仕掛けを見落とさず、適切な方法で通過していた。
「よーし、本腰を入れるか。宝は移動し続けているし、探す時間も考慮しないとな」
楓華は更に上昇した後、前方を見据える。
天空エリアを形成している雲は頑丈でありながら変幻自在だ。
あらゆる物体を模倣し、雲を形成している水がギミックのみならず効果まで再現する。
数多の生物、奇怪な触手、障壁、不意の落とし穴、擦り抜ける足場、幻覚と擬態。
更に形状変化で圧力を生んだ全方位からのウォーターカッター、鉄砲水、予兆ない渦潮、雹、突風。
その他にもコンテストとは思えない配慮に欠けた脅威が迫ったが、楓華は余力を多く残したまま正面突破した。
なにせ、どれだけ強力で厄介な仕掛けであっても、所詮は惑星を揺るがすレベルでは無いからだ。
懐中時計で能力を極限以上に発揮させている現在、ブラックホールより凶悪な脅威でも無い限り楓華は進行ペースを緩めない。
「個性豊かなパレードみたいだったなぁ。これならカメラでも持って来た方が良かったよ。村の参考にしたいのもあったし。うーん、惜しい事をした」
楓華は独り言を呟きながら次のステージへ進み、確実に目的の宝へ接近していた。
その道中、彼女は信じられない光景を目撃して戸惑う。
「えっ、なにこれは」
様々な超常現象を体験してきた楓華だが、それでも目の前で起きている状況に困惑した。
なぜなら雲のサメが1人の女の子を噛みつき、そのままサメが広大な雲海を悠々と泳いでいるからだ。
また、たとえ見知らぬ相手でも生命の危機に晒されている場面ならば早急に救助するべきだと、普段の楓華なら問答無用で行動に移している。
それなのに救助へ飛び出すことを躊躇うほど、その捕食されている女の子はにこやかな笑顔で雲海のダイブを堪能していた。
「あっははは~、とっても凄いですぅ~!ミャーペリコのペットと違って、このサメさんは泳ぐのが得意なんですね~!」
「あの子、大丈夫かな?何もかもミルちゃんより危なっかしくて、見て見ぬふりできる感じじゃないんだけど」
楓華は少女が直面している事態に色々と言いたいことはあったが、それより彼女の自衛能力が低いのに危機感の欠如している様子が気になった。
とは言え、本来の目的を見失いたくは無いし、優先順位を見誤りたくない。
そして捕食されている少女を仮に放置しても、コンテストの仕組みからして相手の命は保障されている。
そこまで楓華は冷静に考えていたが、結局は自身の利益より目先の人情があっさりと勝った。
「気になるなら助けろってね」
楓華はタイミングと位置を見計らうため、サメが顔を出す瞬間に狙いを定めて観察した。
しかし、サメが飛び跳ねた時には少女の姿は忽然と消えており、助けようとした矢先に見失ってしまう。
「ありゃ?もしかして……」
「あんれまぁ~!?」
全く別方向、それも雲海の下から間抜けな悲鳴が聞こえてきた。
それによって楓華は少女が落下したことを理解して、咄嗟に飛び降りた。
いくら挽回できるにしても、ここで飛び降りれば当然大きなタイムロスだ。
最悪の場合、宝の入手を諦めなければいけない。
それでも楓華は条件反射で動いたことを悔いておらず、むしろ迷いなく助けへ踏み出せたことで晴れやかな気分となっていた。
「どれだけバカな選択であっても、カワイイ女の子を見捨てる方が恥だよな!あっははは、アンタもそう思わないかい?」
「へっ?あれ?いつの間に……ミャーペリコ飛べるようになっています!いえ、ここは地面?はぇ~?」
楓華が笑いかけた時には、早くも謎の少女を抱えて先ほどより階層が低い雲へ降り立っていた。
それから楓華は頭上を見上げながら、次に取るべき行動を言葉にした。
「どうせなら安全な所まで付き添って降ろすべきだよな。そういえばサメみたいな奴に噛みつかれていたけど、ケガとか大丈夫なのか?」
「はい!ご心配をおかけしてすみません!あと、ありがとうございます!ミャーペリコは元気ハツラツです!それが数少ない取り柄ですから!」
「まだアンタの事は何も知らないけど、すぐにお礼が言えるのも立派な長所だよ」
「なるほど、そうでしたか!では、助けてくれたお礼も兼ねた元気ダンスを披露しても良いでしょうか!?元気にお礼が言えるぞ、というミャーペリコの長所アピールです!」
よく分からない了承を相手は賑やかに求めてくる。
それに対して楓華は何からの反応を返そうとしたが、その前に彼女は強引に自分の足で立ってみせた。
そして息をつく暇も無く飛び跳ねて踊り出すので、あまりにも幼稚でエネルギッシュな振る舞いに楓華の心が思わず和むのだった。




