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116.クロスは優勝候補になるが、運営が力技でかき乱す

ミルが助かる上、楓華達が優勝できる未来が断たれずに済む。

その望ましい展開を捨てようとする楓華の発言を聞いて、仲裁に入った女性スタッフは表情を曇らせた。


「ミルのポイントを貰えるクロス本人が訴えかけるなら分かるが、なぜ時雨楓華が彼女の肩を持つのだ。生物らしく少しは損得勘定を意識しろ。そして悪知恵を働かせろ」


「いや……、ルールを(ないがし)ろにしたら、それこそコンテストが台無しな気がするし。あとクロスとは友達だから」


「ふむ?これは(ふところ)が広いというべきか、楽観的というべきか。我個人の感想を述べるならば、呆れて物も言えないな」


「アタイに対する評価はどうでも良いよ。ちなみにミルちゃんのポイントが移った場合、クロスの手持ちはどれくらいになるワケ?」


クロスのことだから本人が答えるところだ。

しかし、女性スタッフは先程からクロスの存在をほぼ無視しており、運営権限で先に答えてしまう。


「4020ポイントだ」


「なるほど。アタイの2倍近いってことは、正攻法じゃあ追い抜かせなくなるのか」


「そうだ。そして2位はロゼラムという鬼娘で3090ポイントだ。3位が悪魔子児(ネコ)の2200ポイント。4位がヴィムの2140ポイントとなり、10位まで2000ポイント以上で拮抗している」


ヴィムは予想以上に自分が高順位であることを知り、思わずニヤけ顔になっていた。

同時にミルは姉が優勝候補の一角だと知った時は驚き、自分もフウカお姉様と行動した方が良かったかもと考え込む。

そして楓華は暫定2位の保有ポイントを聞いて感心していた。


「えっ?その2位の人も飛び抜けて凄いな。ってか、まだクロスにポイントが移って無いから実際はロゼラムが1位なのか」


「そうだが、それよりも目先の話へ戻そう。まずはミルのポイントをどうするべきかだ」


「それは……アレじゃない?参加者よりも運営同士で話し合ったら?」


「正しい判断だ。正しいが、どれだけ利口な考えであっても我は気が進まないな……。絶対に間違った選択だ」


楓華の判断を正しいと肯定した割には、なぜか女性スタッフは最大限に渋っていた。

むしろ嫌がっているので、彼女が私情を挟んでいるとしか思えない。

そんな予感を抱いた楓華は声量を抑え、クロスに質問した。


「なぁ。クロスって、この女性スタッフと因縁でもあるの?」


「因縁という呼び方は大げさですが、この方のみならず運営組織と一悶着(ひともんちゃく)ありましたね。前に別宇宙へ幽閉された上、最低でも1000万回は殺されました」


「うっわ、何をやったらそれだけ(いじ)められるのさ」


「銀河を1つ消滅させてアウト判定を受けました。そして本来なら私も消滅させられている所でしたが、そこはリールが寸前に口添えしてくれたおかげで免除されましたね。一応、死ぬまで監視対象だと忠告されていますが」


リールとは、いつもクロスに引っ付いている金髪幼女だ。

また楓華の知り合いの中では一番幼い年齢なのだが、発言力は誰よりも大きいらしい。


「え~、クロスって世界に拒絶されるレベルのガチ犯罪者なのかよ?しかも、そんな状態なのにさっきは皆殺しにするとか言っていたのか」


「言われてみればそうですね。まぁ、だからこそコンテスト運営陣……つまり高位委員会の一部は私のことが気に入らず、あわよくば排除したい方針なのでしょう。ただリールが私のことを気に入っている限り、基本的な扱いは一般の犯罪者です」


「一般の犯罪者ねぇ。そんな言葉、アタイは初めて聞いたな」


「ビジネス用語みたいなものです。5級から2級までの犯罪者は一般の犯罪者と呼ばれています。蔑称は一般ゴミですね。ちなみに私がコンテストに参加できたのは2級犯罪者となっていて、危険度が低いからです」


楓華は彼女から知る由も無い闇界隈の話を聞き、思っていたより恐ろしい世界なのだと初めて気が付く。

更にクロスの説明には語弊があったようで、すかさず女性スタッフが口を挟んだ。


「2級犯罪者は『文明ある惑星の破壊』『高位存在の抹殺』『巨大組織の滅亡』。この3つ全てを成した極悪人だ。決して危険度は低くないぞ」


「あっははは!中々ヤバくて笑えるなぁ」


「そもそも階級を落としただけで、奴が銀河を滅ぼした事実は揺らがない。それより本題だが、運営内で協議した結果、ミル選手のポイントは全てクロスへ移ることになった」


女性スタッフは最初から分かっていた口ぶりで、あっさりと報告した。

これによりミルは脱落同然の0ポイントとなってしまい、クロスは圧倒的1位へ躍り出たことになる。

すると、やはり女性スタッフはこの展開を心底気に入らないらしく、私情まみれの愚痴を語る。


「はぁ……。こうなると分かっていたから我は事前に止めたかったのだがな。何よりミル選手も我の加護を受けた者だというのに」


「思い通りにならなくて残念だったね。ただミルちゃんのことはアタイも残念に思うよ」


楓華はそう言いながらミルの方へ視線を向けた。

普段の彼女なら絶望する勢いで落ち込むところだが、こうなる覚悟は決まっていたので少し悔しがる程度だった。


「仕方ないよ。それにミルがレースに負けなければ済んだ話だし」


「そう?ミルちゃんの中で踏ん切りがついているなら良いんだけどね」


「でもでも!やっぱり悔しいし、見返す手段はまだある事にミルってば気が付いたよ!まだミルはお姉ちゃん達を手助けできるから、それでクロスからミルの(かたき)を取って欲しいな!」


ミルは切り替えが早く、全ポイントを失っても自分にできることが思いついていた。

それにまだ具体的な方法は無くとも有意義な選択だ。

そんな少女の逞しい志と輝かしい笑顔を見せつけられた以上、楓華達はミルを心配する必要が無いだろう。

むしろ彼女の応援を力に変えられるから、お互いに気分が落ち込むどころか奮起していた。

すると女性スタッフは各々の意図を取り入れ、全参加者に公平な案を出した。


「では、これより全ての参加者に対し同一の緊急クエストを発生させる」


「へっ?」


突如、警報に似たアラームが全てのエリアに響き渡る。

それは開始の合図であって、早くも緊急クエストが始動している証拠だ。

それから女性スタッフは緊急クエストについて、この場で一通り説明する。


「お題は宝探しだ。その宝は7つあり、入手した数により獲得ポイントは変動する。また、時雨楓華チームとクロスには特殊ルールを追加する」


「マジで緊急だな。それで特殊ルールってなに?」


「それは時雨楓華がクロスより宝を多く入手した場合、クロスの保有ポイントが時雨楓華グループへ均等分配されるというもの。そして逆の場合、時雨楓華グループのポイントはクロスへ移る」


「ふぅん、決闘みたいなもんか。ところでグループって、どの範囲?ここに居ないヒバナちゃんとモモちゃんも含まれる?」


「そのつもりだ。もし不都合ならば、その2名を除外しても構わない。ちなみにミル選手は時雨楓華に協力すると明言しているため、分配対象から外すことは禁ずる。何よりコンテスト終了まで参加者には変わり無いからな」


「おっけー。ひとまず居ない2人も頭数に入れて、5人グループ扱いで頼むよ。んで、クロスは?」


楓華は念のため確認を取る。

ただクロスは女性スタッフの顔色を(うかが)った後、小さな溜め息をこぼした。


「ふぅ、元より私に拒否権はありませんよ。しかし安心して下さい。私はモチベーションに左右される弱者ではありませんし、勝負となれば全身全霊で挑みます」


「そう言ってくれて助かるよ。こちらも気兼ねなく挑める」


楓華は自身の手を(こぶし)で打ち、気合を入れた。

両者共にやる気が充分。

それを女性スタッフは気配から察し、最後の補足を口にした。


「では、開始するといい。既に宝探しのことは参加者全員に通達済みだ。ヒバナ選手とモモ選手にも特殊ルールを通告した。それと肝心の宝だが、星の模様が入った小さな宝玉だ。セブンスボールと呼ばれていて、協賛が貸し出し……」


まだ大切なことを喋っている途中だ。

それにも関わらず楓華は懐中時計のチェーンを首にかけ、待ちきれないという表情で力を即座に発揮させた。


「よし分かった!アタイは単独で探すから!ミルちゃんとヴィム姉は2人で頼むよ!それじゃあな!ファイナルフェーズ・ブースト(ワン)!」


彼女は凄まじいオーラを放ち、流星の如く迸って姿を消してしまう。

同じくしてクロスも出遅れるわけにはいかず、薄気味悪い笑みを浮かべながら特殊能力を使用した。


「お生憎様ながら、探し物を見つけることに関して私の右を出る者は存在しません。傭兵時代、そういう経験を積みましたからね。ということで……目的の物はあちらですか」


どうやらクロスは最初から宝の位置を正確に探知できてしまうらしい。

今回においては、あまりにも強力な初手だ。

そうして彼女もミル達には捉えられない速度で移動を始め、姿を消してしまった。

残されたミルとヴィムの2人からすれば別次元の競争だ。

両者の本気についていけるイメージすら湧かない。

それでもミルは諦めるつもりは無く、呆然とする姉に発破をかけた。


「よーし!こっちはチームだからね!その有利を無駄にしないでミルはしっかり頑張るぞ~!ヴィム姉も超全力パワーで、ファイトオ~だよ!」


「はいはい。ファイト、オー」


こうして楓華達5人グループVSクロスVS他の参加者の構図が出来上がり、全員が一斉に宝探しを始めるのだった。

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