114.楓華とヴィムは凄い頑張ったので休憩する
それぞれが活躍する一方、楓華と長女ヴィムの2人組ペアは他の追随を許さない躍進で試練を突破していた。
多種目のゲーム要素を取り入れ、面白おかしくルール変更されたメジャースポーツ。
カードやコインを用いた数多のギャンブル。
ビーズアクセサリーの作成や編み物を行い、著名人による評論。
ファッションセンスの採点。
有名な人物、ドラマ、曲のイントロ、日常生活をお題にしたクイズ大会。
またアカペラのカラオケ大会など、古今東西のバラエティー番組で使い古された企画が中心となっていた。
言うならば、その場に用意された物で挑むタイプであり、エリア区間の環境やギミックに影響されないことばかりだ。
そして、それらの中には喫茶店の仕事経験が活きる試練もあって、2人は無事に高得点を獲得し続けていた。
「これでアタイのポイントは2100ポイントだ」
「私は2160ポイントね。すぐ追い越されそうだけれど、ようやくフウカちゃんから一歩リードを取れたわ」
「あっははは。こっちは順位を譲るつもりは全く無かったのに、さすがヴィム姉だ。用意された課題をクリアするとなれば、アタイより適性が高い!」
「逆にフウカちゃんは突発的なハプニングに対して強いわ。2人になってから何度フォローされた事やら」
2人ともお互いの成果を仲間として心から褒め合い、更にライバルとして健闘を称え合っていた。
ちなみにヴィムは楓華のフォローのおかげだと言っているが、パートナーにアドバイスを出した回数ならばヴィムの方が圧倒的に多い。
なぜなら彼女がメイドとして働いていた当時、仕えていたお嬢様マリーにより様々な場面に付き添わされていた。
その経験で得た見聞の差は大きく、まだ異世界生活の日が浅い楓華では覆せない部分が多かっただろう。
それを楓華自身は理解しているため、いつもみたく軽口を叩かず謙遜した。
「アタイの方こそヴィム姉の助言には助けられているよ。そのおかげでコツを掴めてきたし、ハイスピードでクリアできる事もあった」
「フウカちゃんの力になれて嬉しいわ。でも……、コンテスト終了まで残り8時間を切っているのね。あとはどれくらいの試練に挑めるのかしら」
ヴィムは早々と次の立ち回りを考えつつ、どこまでも澄み渡った晴天の青空を仰いだ。
コンテスト開始から本当に16時間経過しているならば、楓華達が住む惑星であれば深夜過ぎの時間帯になっている。
しかし、この惑星ではエリア毎に天候が設定されているため、それに伴って一般的な昼夜は存在しないも同然だ。
その影響で大半の種族は時間感覚が失われていて、楓華も初めて残り時間のことを知る。
「おぉマジだ。夢中になっていて気が付かなかったけど、2人っきりになってから随分と時間が経ったなぁ」
楓華はペアを組んでから長時間経過していることに気づいた途端、ほんの少し懐かしむ声調で呟いた。
それにヴィムはわざと過剰反応し、口角を若干上げながら問いかける。
「あら、そろそろ他の愛人が恋しくなったのかしら?それとも私相手だと平凡で退屈?」
「あっははは、急にそんな意地悪を言わないでくれよ。今のは楽し過ぎて時間が経つのが早いな~って意味だからさ」
「へぇ?フウカちゃんったら上手な返しをするわね。楽しいデート相手だと言われたら悪い気はしないわ」
「おぉ、デートって表現は良いな!実際アタイをリードしてくれるのはヴィム姉だけだろうし、唯一無二のデート相手だ!」
彼女の褒め言葉にヴィムは表情を和らげ、脱力感ある微笑みを見せた。
それは本人が意図しない疲労のサインとなっていて、楓華は彼女の僅かな異変を見逃さなかった。
「まっ、とにかくそれだけ長いこと動き回っているワケだしさ。少し息抜きをしよっか」
「ここまでポイントを増やしたのよ?更にもうひと踏ん張りして、一気に追い込みを掛けても構わないわ」
「残り時間からして焦るほどじゃないよ。それに回復アイテムとやらで体力は温存できても、ロボットじゃないから気力が追いつかないでしょ」
「うーん、そうね……。思えば、ずっと考えてばかりで疲れたわ。試練毎にルールを覚えたり駆け引きしないといけなかったり。コンテストが終わる前に脳みそが溶けちゃうかもしれないわね」
「アタイもだ。あと相手とバチバチぶつかり合い続けるのは神経を削るよ」
試練の内容次第では、時には作戦を立てて他の参加者を蹴落とさなけばならない。
しかも対戦相手が非常に狡猾であるときは、こちらが勝利しても疲労は尋常では無いものだ。
特にヴィムは一見強がれても、根は次女ヒバナより格段に臆病なのが真実だ。
そのため敵意を向けられた際の神経のすり減り方は想像を絶する勢いであり、楓華という心強い同行者が居なければ早いタイミングで戦意を失って棄権していただろう。
「私も神経を削り切った気がするわ。でも、数えきれない苦労や凌ぎ合いに耐えれてこそ、運営が定義する『宇宙最高のお嫁さん』なのかもしれないわね」
「どうかな~?なんか運営側は、適当に理由をつけて遊んでいるだだけな気がするなぁ。参加者よりボルテージが上がって、採点どうこうでスタッフ同士が場外乱闘していた時があったし」
2人はペアになってからの出来事を振り返りつつ、雰囲気が穏やかな場所に設置されているベンチへ足を運んだ。
そこは自然公園を想起させる安息の新緑エリアとなっているので、ちょうど休憩には最適な空間だろう。
管理も丁寧に行き届いていて、余裕があれば観光したくなるほど見通しも良い。
そんな喧騒から程遠い環境で彼女達は肩を並べてベンチへ座り込み、ゆっくりと一息つきながら背もたれへ寄りかかる。
だが、座って間もなく楓華は素っ頓狂な声を漏らした。
「あっ。失敗した」
「どうしたのよ。なにか忘れ物?」
「せっかく気分転換するわけだし、ついでにアイスかスイーツでも買えば良かったな~って。こういう休憩の時こそ、甘い物は1000%欠かせないでしょ!」
楓華は無駄に大きな数字を口にしながら本気で力説する。
ヴィムはそんな大真面目に語る彼女の態度を受けて、思わず笑った。
「ふふふっ、フウカちゃんは相変わらず大の甘党ね。前の世界でもそうだったのかしら?」
「前の世界では、溶けない飴って謳い文句のお菓子を好んで食べていたな。今にして思えば、あれは飴というよりダイヤモンド同等に硬いガムだったかも。いや、グミか?」
「そんなヘンテコなお菓子があったのね。ちょっと興味がそそられるわ」
ヴィムは日常的な反応、そして会話を続ける程度の平凡な言葉で返した。
しかし、楓華があまりにも自然体で答えたから最初は流してしまったものの、すぐに彼女は違和感に気が付いて喋り続けた。
「フウカちゃん。いつの間に記憶が戻ったのね」
ヴィムは関心ある眼差しで少し驚いていた。
前の世界についての質問を投げかけたのは彼女だ。
だが、それは話題を広げるつもりくらいの感覚であって、探る意図は一切なかった。
つまり楓華が記憶喪失から回復していることを全く知らなかった訳だ。
一方、楓華は彼女の意外そうな表情に気が付くが、視線は遠い自然風景へ向けたられたままだった。
「ん?あぁ、戻ったというか……ちょっとだけ覚えていた」
「覚えていたって?」
「ん~、説明が難しいな。こうパッと記憶がフラッシュバッグして思い出したワケじゃなく、昨日の出来事みたく覚えていて当然って感覚だった。言い換えれば、別に忘れていた感覚が無いみたいな?」
「案外、記憶喪失ってそういうものなのかしら。さすがに経験が無いから分からないわね」
「どうだろーな。とりあえず懐中時計を使ってから、そんな感じだった。ついでに念動力が普段でも使えるようになったし。とは言え、結局どういう生活を送っていたとか、ほとんど分からないままだけどな」
楓華は冗談っぽく笑う。
どこか他人事同然の反応になってしまうのは、やはり前の生活に対して関心が皆無だからだろう。
今現在が忙しい日々なら関心が薄くても余裕が足りないせいだと共感できるが、いつまで経っても気に掛けないのは楓華らしい感性だと言う他ない。
ただ彼女自身に未練が無くとも、ヴィムは個人的に過去を知りたいと思っていた。
「少し残念だわ。私はフウカちゃんのことをもっと詳しく知りたいもの」
「マジ?そんな興味津々だったんだ」
「当然だわ。私とフウカちゃんは家族であり、姉妹にして婚約者でしょう?」
その言葉を聞いたとき、楓華は率直に「いつの間にそんな約束したっけ?」と考えて首を傾げた。
実際、そのような約束や関係性の明言はこれまで一度も無い。
だから彼女は身に覚えの無い約束を取り付けられていることに驚くべきだ。
だが、深刻な問題でも無い上に楓華は楽観的なので重く考えず、そういう約束していたと勝手に思い込んで受け入れた。
「あっはは~。そうだったか。いやはや、アタイってモテモテだなぁ。しかも美人3姉妹のハーレムなんて最高の人生だ」
「言葉足らずになっているわよ。それだと私達姉妹の長所が美貌だけみたいじゃない」
「おっとと、それは失礼したね。美人で可愛い3姉妹だよ。あとヴィム姉のおっぱいは誰よりもデカい」
「もう、やっぱり容姿だけなの?ミルは道場の再興を健気に頑張っているし、ヒバナは嫁修行を頑張っている。そして私は喫茶店を盛り上げているのに悲しいわ。シクシク~」
ヴィムは珍しく泣いたフリをする。
それは演技と呼べないほど幼稚な泣き真似だ。
しかし、楓華は相手が傷ついていないフリをしているという更に余計な深読みをしてしまい、慌てて弁解した。
「待ってくれって!容姿だけ言及したのは冗談だって!そういう所も挙げたらキリが無くなるくらい褒めるところばかりだしさ!今は時間が惜しいし、あえて抜かしたの!」
「その抜かした言葉をフウカちゃんの口から聞きたかったのよ。それに貴女は口先が達者だもの。今の発言は後付けフォローという線が濃厚だわ」
「えぇ~そんなぁ。勘弁してくれよヴィム姉~」
楓華は滅多に聞かせない弱気な声を発し、下手に出た弱々しい顔で許しを請う。
どちらも気を抜き、思考停止させて会話しているのは一目瞭然だ。
ただ、頭が疲れ果てた2人には安易な会話こそが最適なリラックス方法になっているのだろう。
自然と浮かぶ笑み。
話せば話すほど落ち着く心。
試練中はずっと二人三脚で頑張っていたのに、こうして休憩中も共に過ごして休まる関係。
相手に見栄を張ったり下手に気遣わなくても問題ないと信頼しきっているから、一緒に時間を過ごすほど小さな幸福感が生まれるのだった。




