110.現在のポイントと先の攻略法を教えてもらう
楓華達5人は時間制限を意識しなければいけないため、ホームパーティーの最中に抜け出すことになる。
それは獣人の幽霊家族からすれば、恩人達に礼を伝える間が与えられないまま帰ってしまうようなもの。
だから別れを惜しむ思いが大きく募ってしまうが、彼女達の都合を優先させることが礼節になるだろう。
よって別れの挨拶と親愛のコミュニケーションは程々に済まされ、最後は青年の幽霊獣人が見送りに出て感謝の言葉を送ってくれた。
「ありがとう皆さん。どうかお気を付けて」
「あぁ。そっちも幸せにな。家族なんだから」
楓華が思ったことを伝えた後、一同で手を振りながら幽霊の古城から出て行った。
そして桟橋を渡って一定の距離まで離れた直後、コンテストの運営スタッフが舞い降りて来た。
「ようやく終えたか。思いのほか、手間取ったようだな」
朱色と金色のツートンカラーが特徴的な女性。
また同色の翼からは煌きが零れ落ちており、何度見ても幻想的な印象を抱かされた。
とは言え、いくら相手が別格に神々しくとも楓華の態度は変わらない。
「あれ?キャラ作りはしなくて良いの?」
「あれは冗長になる。それより村娘ども、現在の保持ポイントを確認しろ。早急にな」
「へー、いつに間にか貰っていたんだ。えっと、ホログラム画面を出して……おぉ?アタイは810ポイントだ」
楓華が自身のポイントを声に出したので、ヴィム達も保持ポイントを発表し始めた。
「私は700ポイントね。フウカちゃんと差があるのは、きっとポイント交換で食材を入手したせいだわ」
「某は320ポイントです……。う、うーん?祖父氏としか関わらなかったせいでしょうか」
「ミルは600ポイント。ミルってば、途中から記憶が無かったからなぁ」
「最初から最後まで大成功させたつもりなのですけど、私の方は550ポイントです。気絶した際に運営のサポートを受けてしまったので、それが原因でしょうね」
それぞれ教え合うと、楓華のポイントが抜きん出ている状況に盛り上がった。
だが、それはあくまでグループ内の話だ。
コンテストの参加者全員となれば事情は変わり、女性スタッフは大事なことを教えてくれた。
「制限時間は18時間以上残っているから、まだ追い返せる範疇だ。しかし、現在の首位であるクロス・マリアは1600ポイントにまで達している」
「アタイが知っているクロスだよな?すごっ、アイツめっちゃやる気あるな~」
「あの大罪人……クロスは運営のサポートを一切受けず、試練を破竹の勢いでクリアしている。つまり一度の課題クリアで得られるポイントは少ないものの、膨大な挑戦数で補っているわけだ」
「マジ?それなら時間をかけてクリアしたアタイ達って、かなり効率が悪くない?」
「安心しろ。奴は既に大半の試練を終えている。ここからポイントを劇的に稼ぐとなれば、他の参加者との駆け引きを要する。情報を売ったり、またはポイントを賭けて挑んだりな」
「ふぅん?」
楓華は少しだけ不思議に思った。
ここまで親切に教えられると、相手は運営スタッフという公平な立場から逸脱しているように見受けられる。
ただ自分達の有利に働ている以上、大して気にすべき点では無いのかもしれない。
また、元よりスタッフは手助けする役割なのだと解釈できる。
そう考えた矢先、相手は楓華の思考を見透かして早々と答えた。
「時雨楓華。どうやら貴女は杞憂を抱いているようだが、我は本題の試練には干渉していない。そしてルール遵守する者ではあるが、無慈悲な運営システムとして律するつもりは微塵も無いぞ」
「アドバイスは単なる親切心って事か」
「そうだ。そして、その親切心で次の助言を送ろう。ここからは5人グループでは無く、ペアで行動しろ。更にポイントを使用することで試練場を特定し、その移動にもポイントを使え」
コンテストを把握している人物からのアドバイスとなれば、疑う余地のない最適な攻略方法なのだろう。
しかし、当然だがポイントは一筋縄で得られるものでは無い。
だから貴重なポイントの消費を勧められて、モモは真っ先に険しい表情を浮かべた。
「そんなにポイントを多用してしまって大丈夫なんですか?そもそも今の首位はクロスさんというだけで、他の参加者が追い抜かす事もあり得るのでしょう。例えば、1つ1つの試練を高得点でクリアした人とか」
「意外にも保守的なのだな。それに勘違いしている。貴様らにとって最も多くポイント獲得できる手段が、惜しまずポイントを使用することだ。攻める姿勢を恐れていては、総計ポイントが大幅に減るぞ」
「本当ですか?」
「ふん……、結局は挑戦する貴様らの運次第だがな?だが、これは我からの助言であって強制では無いのも事実だ。それを前提に、自身が納得できる答えを導き出せ」
女性スタッフは不自然に返答をはぐらかし、最後は占い師みたいな発言で催促を有耶無耶にした。
それから彼女は長居しないようグループから去ろうとするが、ふと別件を思い出して楓華に話しかけた。
「そういえば時雨楓華。我の加護により巡り合わせを感じ取れたか?」
「はっ?今度はいきなり何の話?」
「理解できないなら結構だ。我が生み出した運命という概念は、超常現象も越えた不可知の力だ」
「この人ヤバいな。気取りながらマジで意味不明なことを言ってるよ……。って、あー?もしかして、道場おじいちゃんのことか?」
思い当たる節が全くないわけでは無かったので、楓華は混乱しながらも直近の出来事を思い出そうとしていた。
しかし、その間に女性スタッフの姿は次第に透けてしまう。
そして数秒後には煙同然に消えているため、もはや住む世界が異なる精霊みたいだ。
突然の登場から無言退場する一連の流れは幻想と大差ない。
また、相手の突拍子無い行動にモモは思うところがあってぼやいた。
「それにしても……あれだけアドバイスしてくれるなら、こっちが乗りたくなる言葉選びをして欲しかったですね。もっと士気を高めるよう綺麗事を並べるとか、色々あったと思うのですけど」
きっと女性スタッフの尊大な態度が気に障ったのだろう。
たしかに出会い頭に『貴様ら』や『村娘ども』呼びで高圧的な指示を出されたら、愛想が良い家族と交流した矢先なのも相まって驚いてしまう。




