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108.準備したパーティー会場はカオスだし地下は体毛で埋まっている

楓華は獣人家族の当主を連れて、先に大部屋へ案内した。

これで素晴らしい家族の思い出ができるはず。

だが、その大部屋では独創的な飾り付けが施されており、とても気分が舞い上がる雰囲気からは程遠かった。

それは楓華でも呆気に取れるほどで、室内装飾に取り入れた様式がメチャクチャだ。


どこぞの辺境部族を連想させる植物主体の飾り付け。

ワラ人形やドクロなど、黒魔術の類としか思えない禍々しいスピリチュアル要素。

厳かな西洋式と端正とした和式。

病院のような淡白とした要素に加え、ダンスクラブのような華やかな煌びやかさ。

そして小型のアンドロイドがレインボー色のネオンを発光させながら動き回っているため、この恐ろしい光景に当主は分かりやすく頭を抱えた。


「そんな、ありえない!我が家が見るも無残な姿に……。わあぁ、冗談だろう……?」


悪い意味で予想外の事態だ。

そのせいで彼は立ち眩みを覚えてしまい、近くの壁へ寄りかかる。

一方、幼女幽霊達はドレス姿へ着替えた後で、それから折り紙による装飾作りを楽しんでいる最中だ。

つまり、ここから更に幼児っぽいパーティー感も加えられてしまう。


「欲張りセットで派手な飾りだなぁ。おーい、モモちゃ~ん?」


楓華は指揮を執っているはずの鬼娘を呼びかける。

するとモモは状況を分かっているようで、少し気疲れした顔で歩いてきた。

また、少し見ない間に少女は帽子付きのドレス姿へ着替えていた。


「えっと……はい。どうか致しましたか?」


「思っていたよりパーティー感が最高潮に出てるけど、どしたの?」


「せっかくですから、あの子ども達に好きな飾り付けをさせました。ただ、授業で聞かせた様々な童話や私の影響が大き過ぎたみたいです。あと私も飾り付けの対象にされました」


「メルヘンチックで可愛いし似合っているよ。っと、それじゃあミルちゃんは?」


「ミル師匠は、まだ憑依されたままです。今では私が指示を出さなくても、子ども達と仲良くなって協力し合っていますよ」


モモが視線の向きを変えると、その先ではミルが不器用な手つきで椅子など配置していた。

幼女幽霊の指示や提案は、非常に抽象的で曖昧だから理解するのが困難のはず。

だが、それでも根気よく話を聞いて従っているようだ。


「そっか、無事に馴染んでいるなら良いか」


「はい。こちらは多分問題ありません。あとヴィム師匠も完成の目処が立っているので、できればヒバナ師匠の方を見て欲しいそうです」


「そういえばヒバナちゃんだけ確認して無かったな。まっ、アタイが執拗に心配しなくても大丈夫だろうけどね」


「それって、いつもの楽観視ですよね?」


「信頼だよ。あの子は真面目で頑張り屋だし、ネガティブになりがちな割に失敗した所を見たことが無いから」


楓華が自信たっぷりに言いきった直後、モモは彼女の強い意思に押し切られて納得する。

だが、即座に疑問を覚えて聞き返した。


「それではヒバナ師匠の方には行かないって事ですか?」


「いや、それはまた別の話だね。行くよ。今すぐ行く。もうワープするくらいの速度で向かう」


「もう、相変わらず気まぐれですね」


「それがアタイだからね。で、ヒバナちゃんはどこに居るの?」


「地下で祖父の相手をしているそうですよ。そして玄関ホールから地下室へ繋がる階段があるみたいです」


「おっけー。それにしても地下かぁ。いくら幽霊でも、大きなお城に住んでいるなら日に当たる場所で過ごせばいいのにな」


楓華は思いつきを口にしながら、すぐに大部屋を出て目的の地下室へ向かった。

当然、驚き戸惑っていた当主は異彩のパーティー会場に放置されたままだ。

そうして楓華は薄暗く長い地下通路を通っていると、その通路の途中で妙な物体が道を塞いでいることに気が付くのだった。


「なんだこりゃあ?」


先へ通れる隙間が残されておらず、地下通路の真ん中で静かに佇む不気味な存在。

双頭の巨犬と同類の怪物か、またもや未知の幽霊か。

彼女はそう思って警戒したが、更に接近して調べると毛の塊だと分かった。


「毛だ」


それ以上のことが分からないせいで楓華は立ち止まる。

山のように積み重なった毛が道を塞いでいるなど、誰からしても意味不明な状況だと断言できるだろう。

しかし、その巨大な毛玉の奥からヒバナの声が聞こえてきた。


「ど、どうして切った後の毛が伸び続けているんですか~!?生命力?繁殖力?これが神獣の力!?よく分かりませんけど、進めませんよ~!」


「凄い。全くもって意味不明な状況なのに、別に理解する必要が無いってことが分かる」


「あれ?もしかしてフウカ氏が居ます!?もし近くに居るなら助けて下さい~!」


「助けるけど、一体何がどうなっているのやら。ちょっとだけ下がってな。ブースト・(ワン)


楓華は袖下から懐中時計をぶら下げつつ、力を発揮させながら殴打した。

すると過剰な力は毛玉のみを完全抹消し、綺麗サッパリ通りやすい通路へ早変わりするのだった。


「建物内で使うものじゃなかったかな。とりあえずヒバナちゃん、まだ生きてる~?」


「えっへへ、おかげ様で生きていますよ~。うらめしや~」


楓華が来たことでテンションが上がったのか、ヒバナは不思議なノリを返しながら笑顔で現れた。

だが、彼女の他にも生者が同行していて、その人物は車椅子に深々と座しているのだった。

どうやら老いた獣人らしいが、毛並みや爪など細部まで端麗に整えられている。

そして彼こそが祖父なのだと楓華は察して、短く一礼しながら自分からも近づいて行った。


「この家の祖父って生身だったんだ。他の全員は霊体なのに、これは予想外だね」


楓華はヒバナに話しかけたつもりだったが、祖父当人が反応して説明した。


「私が深淵の儀式を成功させたことにより、一族は疑似的な復活を遂げたのだ。そして私も不死の呪いを授かり、体毛の一本に至るまで不死となっていたようだ」


「うん、アタイには理解できないな!」


「凡夫からすれば妄想同様の不明瞭な領域であることは致し方ない。されど、理解に至った我が存在する以上、未知なる世界は既知となる証明だ」


「ふぅん。それでヒバナちゃんは何をしていたの?このおじいちゃんの話相手かな?」


楓華は祖父の言葉を歯牙にも掛けず、全て聞き流してヒバナに再度話しかけた。

それが一番適切だと思ったのだろう。

それでも祖父が抽象的な単語を繋ぎ合わせた独り言を続ける中、ヒバナは会話に応えた。


「半分はそうだったかもしれません。でも、実際は身の回りのお世話でしたよ。全身を余すことなく綺麗にしました」


「あー……もしかして、さっきの毛ってお世話した残骸?」


「そうですね。毛量が半端無かったです。今まで見たこと無いくらいモサモサのフッサフサでした!」


「マジで言葉通りだね。とりあえず、ヒバナちゃんの方は解決しているって認識で大丈夫かな?」


「はい、某ながら立派に成し遂げましたよ!相手を介護できるのは良いお嫁さんの証明になりますよね?」


「そだね。高得点ゲットは間違い無しだ。だけど……、うーん?まぁ会場へ行こうか。既にほとんどの人が集まっているし、パーティーの準備も間もなく終わるからさ」


楓華が悩みある声を漏らしたのは、まだポイントについて不明なことが多いからだ。

特に他の参加者と比べたとき、どれほど差が生まれているのか想像できない。

そんな心配を抱きつつ、楓華達は再び大部屋へ戻って行った。


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