1.女子高生 2年A組 時雨 楓華
ある晴れた日の学校にて。
とある金髪の女子学生は屋上へ行くなり、気怠そうに体勢を崩して仰向けとなった。
あとは青空を悠々と漂う雲を眺めるだけで、今という時間を怠惰に過ごすのみ。
しかし、今日は学生にとって忙しい日だ。
そのため彼女は憂鬱な表情を浮かべていた。
「あー……午後も筆記テストか。みんな揃って復習に必死だし、昼休みなのに息が詰まってだるいなぁ」
女子学生は身勝手な愚痴を呟いた後、吞気に眠ろうとする。
よほどテストが余裕なのか、それとも最初から自分の成績を見限っているのか。
何であれ、心身をのんびりと休めたいらしい。
間も無くして彼女が昼寝を始めようとした矢先のこと。
屋上と繋がる階段の扉がゆっくりと開いた。
それから1人の男子学生が同じく屋上へ足を踏み入れて来たのだが、彼女は気にかけなかった。
まだ休み時間は多く残っているから、気晴らしに来る事くらいあるだろう。
そう彼女は気軽に考えていたのだが、その男子学生が屋上へ来た目的は予想外のものだった。
「はっ?お、おいちょっとアンタ……」
男子学生は、高さ2メートルほどの転落防止柵を乗り越えようとしている。
これに気が付いた彼女はさすがに飛び起き、目を丸くした。
この状況から連想できることは唯一つであり、彼女は傍観せずに急いで駆け寄った。
「何しているんだバカ!まさか飛び降りるつもりじゃないよね!?」
フェンスを乗り越える前に彼女は男子学生の制服を掴む。
それでも相手は抵抗し、酷く思い詰めた顔で泣き叫んだ。
「離してくれ!カンニングがバレて呼び出しを受けたんだ!」
「はぁ!?だからっていきなり飛び降りるのは大バカだろ!たかがテストだろ?ちょっとくらい大丈夫だって。ほら、実技テストもあるじゃねぇか」
「うるさい!これで成績どころか、内申点も下がる!それにクラスでは馬鹿にされて、親からの期待には応えられなくなって……!」
これだけ聞くと、男子学生の自業自得のように思える。
ただ相手がカンニングしてしまうほどの事情を抱えているのだと彼女は考え、親身に寄り添って事情を聞こうとした。
「分かったから!とりあえず、なっ?ちょっとアタイに話してみろって」
「知らない奴に話してどうなるんだよ!解決しないだろ!」
「あー、えっと……アタイは2年A組の時雨 楓華だ。これで知らない奴じゃないだろ?だからさ、ヤケを起こす前に落ち着けよ」
楓華と名乗った金髪の女子学生は、自分なりに真摯に接することで相手の激情を宥めようとする。
それでいて体を張って引き止めようとしているのだから正しい対応だ。
だが、飛び下りる寸前にまで至っている相手が簡単に思い直すわけが無かった。
「もう良いから離してくれ!こんなクズな俺のことなんてどうでもいいだろ!」
「痛っ、ちょっと……あぁバカ野郎!」
男子学生は加減無しに楓華を足蹴りし、引き止める手が離れた瞬間に柵を飛び越えようとした。
だが、それよりも早く楓華は跳躍して柵を登り切る。
同時に彼女は懸命に力を振り絞り、自暴自棄となった男子学生を救おうと前向きな言葉も送っていた。
「諦めないで生きろ!」
全ては僅か数秒間の出来事。
ただ気が付いた頃には、飛び下りようとしていた男子学生は尻餅を付いた状態で屋上に座り込んでいる。
一方、楓華は建物から突き放されたように無防備な姿勢で落下していた。
「あっ、やば……」
彼女は遠い青空の雲を掴もうとして、腕を必死に天へ突き伸ばす。
けれども彼女の手は空気しか触れることができず、最期は心地悪い感触が全身を蝕むのだった。