小学校と養成所
俺は身内が誰も来ない卒園式で練習通り証書を受け取り先生にお別れを言った。
同じクラスの子達は親にカメラや笑顔を向けられて幸せそうに笑っている。
仲良くしてくれていたみんなはやはり親と一緒に園を後にしていた。
帰る頃には藤原さんが迎えに来てくれていた。
俺は少し藤原さんを恨んだ。
この人なら保護者代わりに観に来てくれると密かに期待していたからだ。
仕事なら仕方ない、結局俺との関わりも仕事上のことでしかないのだと自分に言い聞かせた。
もちろん小学校の入学式も同様だ。
おめでたいことなんてひとつもない。
服装やランドセル、持ち物だけはクラスの誰よりも良いものを与えられている、それだけだった。
言葉もしっかり話せるようになって、人生二周目の俺は他のピカピカ一年生と違い達観した小学生になっていた。
そして入学して間もない頃に芸能養成所に入れられた。
----みっちゃんも有名になりたいよね♪----
そう言えばそんな事言ってたな、よく覚えていたもんだ。
最後に俺に期待されていたこと、もうどうでも良くなったんじゃと思っていたが案外そうでもなかったらしい。
そして小学校と養成所、家を行き来するだけの時間ばかりだった。
「みずきー、放課後サッカーしようぜ!」
後ろの席のやつがそう誘ってきた。
「今日も習い事があるから、ごめんな。」
いつも断っているのにこいつは折れずに誘ってくる。
「またかよー、俺毎日してるから来れる時は来いよ!」
名前は、佐藤だっけ。
ーー子供の遊びに付き合うなんて面倒だ、そんなことなら家でゲームしてる方がマシ。ーー
もう友人と遊ぶ事すら拒むようになっていた。
愛情のない生活が当たり前になると、当たり前の生活が送れなくなるらしい。
歪んだ価値観と捻くれた感性はもうどうしたって戻らない。
前世の生活も徐々に忘れかけていった。
そんな中、こんな俺でも夢中になれることがひとつあった。養成所でのレッスンだ。
週に3日、歌とダンスと演技のレッスンは自分が自分じゃなくなるような気がして楽しかった。
「立花、今の振り付け、サビのところ躍動感がない。ただ表情は良かったぞ。」
ダンスの先生はいつも厳しいながらによく見てくれている。
「はぁはぁ...はい、ありがとうございます!」
こんなに誰かに見てもらえるのはいつぶりだろう。
こんな俺でも期待されていることくらいわかる。
他の目立たない生徒はアドバイスすら貰えていないんだから。
正直レッスンはどれもかなり厳しい。
二周目の俺でも時折心が折れそうになる。
それでも先生達から何か言葉をもらう事が俺の生き甲斐になっていた。