小さな加入者
妹が生まれてからというもの、両親との関わりはもう同じ家に住んでいるというだけになっていた。
顔を合わせるのは食事の時くらいで、会話もほとんどない。継父は俺の部屋に漫画やテレビ、ゲーム、望むものを全て置いてくれるようになった。
きっと部屋からなるべく出てくるなということなんだろう。
「未来ちゃーん♪おててもちいちゃくて可愛いでちゅねー♪」
継父は俺には見せたことのない顔で妹をあやしている。
「ほんとパパそっくりで可愛いわねぇ♪」
母も妹が生まれてからは体調が次第に戻っていき、妹しか見えていないようだった。
妹は継父に確かに似ているがお世辞にも可愛いとは言えない容姿だ。
「ずっと女の子が欲しかったから未来がきてくれて本当に幸せ♪」
ーーあの表情はかつて俺が生まれた時に向けられていたのにな。ーー
そしてこの家に一番必要のない人間だと気付くのにそう時間はかからなかった。
自室での生活は悪くない。テレビをいくら見ようがゲームをしようが夜中に起きていようが誰も何も言わなかった。
でも埋められない寂しさだけはどんどん募っていった。
前世で求めていたものがこんな形で全て叶ってしまうなんて。
目に見えない幸せというのは、時に残酷だと思い知る。
前世でいかに自分が恵まれていたか、ありがたかったか。俺が瑞稀として過ごしていくうちに嫌というほど気付かされる。
しかしどれほどそう思っても、戻りたいと願っても、もうあの頃の俺は二度と帰ってこないのだ。死んでしまったのだから。
誰にも必要とされない、誰にも見てもらえない。誰かに必要とされたい。
小さな身体の大きな想いは誰にも気付かれないまま卒園式を迎えた。