いつもの日常
「女性複数人の供述により、暴力行為があったと発覚したことから東京都◯◯区に住むアイドルグループ【ism】のミズキこと立花瑞稀(24)が逮捕されーーー」
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朝から人を不快にさせるニュースばかり。というか、売れてるアイドルなんて人が求めるものほとんど手に入ってるんじゃねぇのかよ。と虚虚ろ食パンを齧りながら、仕事に向かうまでのいつものルーティン真っ最中だった。
俺はしがないサラリーマン、特に何かに特化した特技も趣味も情熱もない。ただただ勝手に進む人生に身を任せて過ごしてきた。
伊能裕太、30歳。
平均的な家庭に生まれて、それなりの学生生活を送って大学を出て、普通に安牌な企業に就職、勤続歴8年。恋愛もそれなりにして、大学時代に出会った彼女と5年付き合って結婚した。
世間一般的にはこれを幸せな人生と全然言えるだろう。
「ねぇ、お弁当作っちゃったけど今日外で食べる予定とかあったっけ?」
こんなこと言っちゃ悪いが、一番居心地の良かった彼女を選んだ。他に特別な理由なんてない。
「ん、ないよ。ありがと沙織。」
どたどたと拙く小さい足が駆け寄る音。
「パパーーー!んちたー??ちゃったねー!」
愛する娘に関しては本当に可愛い。多分人生で生きてきてこれを超える可愛いにはもう出会えないだろう。
生涯で愛情を妻よりも注ぐ勢いだ。
「んー?どうしたー?ちゃったかーあはは。」
「え?!亜夢ちゃんうんちしちゃった?!オムツ替えようねー♪」
世界一可愛い宇宙人の言葉は何故だか妻は全部わかっているらしい。
そんな微笑ましいやりとりは毎朝見慣れた風景だ。
当たり前の風景ーー。当たり前なことは幸せなんだろうが、俺にとってはいつも通り“刺激“が足りない毎日だ。
「いってきます。」
毎日繰り返す変わり映えのない日常は、突然、前触れもなく、急に消えるかもしれない。とその時の俺は知る術もなかった。