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夢みたいだけど、夢じゃない。  作者: 緋色こあ
後学期~終わりと始まり~
31/41

31.嫉妬










二日目は前日騒ぎすぎた事もあり、四人は十時頃にようやく起き始めた。

眠たい目を擦りながら風呂で身体を完全に目覚めさせ、旅館のバイキング形式の食事処で昼食を食べる。

そして昨日とは反対の方向へと出かけて、行きたかった店や気になる店などをまわって。


二日目も終始笑顔の絶えない探検となった。




――――楽しい、けど。




そろそろ友里菜と二人きりの時間も欲しい。

昨夜は気まずい雰囲気の中終わってしまったから、余計に思いは募ってゆく。

こうして四人で話していると昨日のあの表情が嘘みたいに感じられた。



まずい。

こうして悶々と考えてしまえばしまうほど苦しくて仕方ない。

楽しいのに楽しめなくなる。



この二泊三日の間に手を出す事はないだろうと思っていたけど、持ってきていて正解だったのかも。

あまり使いたくは無かったけれど・・・。


トイレの個室に入って、鞄の底からピルケースを引っ張り出した。半透明のプラスチックケースの中で薬が揺れ動く。

安定剤、安定剤はいくつある?あぁ、これだけあるなら十分そうだわ。

強く噛めば、口の中に私の好きな薬特有の苦味が広がっていった。













**













「今夜も宴じゃぁーい!」



夕食後に風呂ですっきりした後は、昨日と同じく酒盛りが始まった。

高校生にして毎日飲んだくれるのはどうかと思うが、それもまた楽しみの一つなのだから良いかと思う。こうして皆で集まって飲む事も滅多に無かったし。



梨乃も終始ご満悦で、今日の夕方くらいからよりテンションが上がっていった気がする。今もお酒をジュースの如くグイグイ飲んでいて、酔っ払った咲にからんでる。



昨日の事、もう忘れてくれたのかな。何も無いと口では言っても表情に出てしまっているんだろう、隠し事が下手だとこういう時に困る。

それに何もしていない、ただほんとうに一瞬だけ、触れるだけのキスをした。それだけ。

だから特別言うようなことじゃない。




「咲―!あたしは絶対に負けないわ!」



「へっ、そう言って梨乃ちゃんは私に何回負けてるのかなぁー?」




ニヤリと普段は見せないあくどい笑みを浮かべて、梨乃の目の前にトランプのジョーカーをひらひらと翳す。それに飛びつくように梨乃が手を伸ばすが、咲が手を引っ込めたのでそのまま前のめりに倒れこんだ。



先程からトランプで馬場抜きを始めたのだが、三回とも梨乃が負けている。

しかも必ず最後まで残るのが咲で、咲がニコニコしながらトランプを引かせると、最後の最後で梨乃がジョーカーを引いてしまうのだ。その流れが三回とも発生している。

梨乃は随分と酔いが回っていて正常な判断が出来ず、咲の格好の獲物になったという訳だ。




「くっそう・・・もっかい!もう一度勝負よ!」



「勝てないくせに・・・梨乃ってドMでしょ?いじめられたいんでしょ?」



「くぅぅ・・・咲のばか!」



「梨乃をここまでイジれるのは咲だけね」




一美が関心したように暢気に呟く。この事態を収拾するつもりはないらしい。

私も一美の隣で一つため息をついて、散らばったトランプを片付けていく。

すると咲が一つあくびをして、床へと倒れこんだ。


「あー、なんか騒いじゃったから汗かいちゃったぁ。お風呂行かないー?」



















「・・・で、私が残されたわけですか」



ここは友里菜が面倒みる番だよねーと咲と一美に言われて素直に頷いた。その反応にさらに笑顔を輝かせた二人はすぐさま準備をして逃げるように出て行ったのだ。



目の前にはくたくたに酔いが回った梨乃が横たわっていて、布団の上で気持ち良さそうに寝息を立てている。

最初は電池が切れたように畳の上で寝始めたので起こそうとしたが、全く動じない。そのため近くに敷いてもらっていた布団まで足を持って引きずってきた。


引きずっている間も幸せそうに微笑んでいる光景は中々シュールで面白かったけれど。思わずそばにあったデジカメで写真を撮った程だから。




それでも、二人になることでまたあの話をされてしまうのではないかと思っていた分酔いつぶれたのは幸いだった。締まりのなくなった口から涎をたらしそうな勢いで、普段とのギャップにより可愛らしさを感じる。


そんなこんなでじっと見ていれば、折角掛けた掛け布団を足で勢い良く蹴り飛ばした。

もぞもぞと動いてまた蹴飛ばして、布団を隅へと追いやっていく。




「りーの!布団を蹴るな!」



「ん・・・うー・・・」




なんだかやんちゃっ子の母親の気分になり、布団を直そうと寄っていく。梨乃には声が届いてないらしく幸せそうな表情は変わらない。

しかも近寄ったとたんに寝返りを打って蹴った掛け布団を両足の間で抱き枕の様に挟んでしまった。これはやりにくい事このうえない。



ここまできたら放っておくかとも思ったけれど、一人で居るのも寂しいし。

少し驚かせてやろう。


梨乃が抱え込んだ布団の端を思い切り掴んで、力の限り上へと引き上げた。




「んあ!?」




情けない声と共にうっすら目を開ける梨乃。それを上からニヤニヤと見つめる私。




「酔っ払いめー。私を置いて先に寝るのか!」




引っ張って梨乃の身体から離れた布団を上から梨乃の頭ごと被せて、すぐさま上に乗っかって布団の上から思い切りくすぐった。

薄い掛け布団のお陰でダイレクトに動きが伝わっているらしく、眼下の布団がもぞもぞとせわしなく動く。




「いやー!ゆりなぁ!すとっぷ、すとっ・・・あははは!」



「仕方ないわねー・・・解放してやろう!」




被せていた布団を捲り、梨乃を見ればより頬の赤みが増していた。




「もー、友里菜のばか!仕返ししてやるー」


恨めしそうに言われ、それと同時に強い力で手首を握られ引き倒された。

うつ伏せの状態から仰向けになろうと身体を返せば、今度は私の上に梨乃が跨っている。



「え・・・っ」



覆いかぶさるように倒れてきたと思えば、頬に暖かい温度が触れて、キスされているのだと認識する。そして今度は唇へ。

酔っ払った梨乃の口内は熱く何時もより濡れていて淫靡さを増すようで。絡められるがままに舌を伸ばしてそれに答える。部屋には二人だけで、広くなった部屋にその水音が響き渡った。




「っ、梨乃、ちゅーがエロい」



「そう?加奈より上手でしょ?」



「もー、また加奈先輩?」



「そうよー!どうせキスくらいしたんでしょ?でも私のキスで帳消しに出来ない?」




そう聞いてくる梨乃はとても無邪気に笑っていて、加奈先輩の話なのに豪く明るい口調だった。

今は酔いもあって大して気にしていないみたいだと思って、少しホッとした。


油断した。




「うん、帳消しにするよ」




途端に梨乃の顔から笑顔が消えた。

言ってしまってから気づく。梨乃が仕掛けてきた罠だという事に。




「やっぱ、してたんだね」



「梨乃・・・」



「したのね?加奈が、友里菜に手を出してきたのね?それを友里菜は受け入れたんでしょ?」


梨乃の表情が急に強張って、語調が強くなる。



「まって梨乃!私は」



「黙って受け入れたのね!私より加奈がいいの!?選んでくれたのは私でしょう?」



「そうだよ、梨乃が大切だよ!だから話を・・」



「許せない。友里菜、友里菜は私だけのものでしょう?」




がつっと痛い位に肩を掴まれて布団に押し付けられる。

その力は先ほどまで酔っ払ってぐだぐだしてた人間とは別人だった。



怖い、何かしそうな凶暴な瞳。

目線が痛い。獲物を狙うような冷淡さまで併せ持ったきつい目で私を見下ろしてくる。その瞳を見れば目を逸らす事など出来なくて。

腰元に力を感じたと思えば、肩を押さえつけている手とは逆の手で浴衣の帯を解かれていた。



「やっ、やめて!」



阻止しようと解きに掛かる手を両手で掴むがそのときには帯は解けており、私の手を振り払うかの様に強く腕を引いて帯を取られた。



どうしよう、身体が強張って思うように動いてくれない。

振り払われた手を今度は掴まれて床へと叩きつけられる。

それと同時にまた梨乃が覆いかぶさってきて、今度は首元に鈍く重たい痛みが響いた。




「っ・・・りの、痛いよっ・・・」




噛み付く力があまりにも強くて涙が出そうになる。それでも止めてはくれない。

漸く離れたと思えば今度は頬を齧られた。




「友里菜・・・少しお仕置きしよっか」



「やっ・・・梨乃!」




唇を強引に塞がれて、割って入ってきた舌からは鉄っぽい独特の味が広がる。血だ。

唇も軽く噛まれて切れて、さらに味は濃くなる。

漸く唇が離れた後、私は梨乃の顔が見れなかった。




「鍵は閉めてるわよね?ようやく二人きりになれて、嬉しいわ」




冷笑を浮かべたのを、視界の端でとらえた。










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