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夢みたいだけど、夢じゃない。  作者: 緋色こあ
後学期~終わりと始まり~
29/41

29.受け取り次第










「おはようございます!」



「おはよー」




先輩と顔を合わせるのは、公園での出来事以来だった。


逃げるように突き放して帰ってきてしまった事もあり、次会うときにはたしてどんな顔をして会えばいいのかと悩みに悩んで。

過去に先輩がしてくれた様に、私も普段どおりに接する事が一番じゃないのかと思った。

元気に挨拶をすると、先輩もいつもと変わらない笑顔で迎え入れてくれて、気づかれない様にほっと胸を撫で下ろす。




「先輩にこれあげます」



「え?・・・あ!これ限定で出てるアイスじゃん!どこも売り切れてて買えてなかったんだよー」



「ふふ、帰り道にちょっと寄り道して規模が小さいコンビニ行ったんです。そしたら発見して」



「わー、ありがと!さっそく頂きます」




先輩はアイスをこよなく愛しているらしく、季節を問わずよく食べていた。

以前、濃厚なチョコレート味が売りの限定アイスを食べたいと何度も言っていたので、見つけた瞬間光の速さでレジに並んでココまで来たのだ。

嬉しそうに食べてくれる先輩を見て、買って来てよかったと心から思う。




「予想どおり!美味しいわーこれ。甘いの大好きだから幸せ。マジ幸せ」



「私、先輩が甘いものに目が無いって聞いたときは驚きましたよー。食べないイメージがあって」



「どんな風に見てるのさ。甘い食べ物は好き。甘い人も好き」



「甘い人?自分にって事ですか?」




「ううん、好きな人って甘いものと一緒で食べたくなるでしょ?」




刹那、先輩の目が細く鋭くなって私の瞳を射抜く。

え?どうしてそんな目を?

先輩の言葉を頭の中で反響させて、理解した途端思わず身体をピクリと反応させてしまう。




「せ、先輩って肉食ですね」



「うん。今まで草食っぽく接してたけど、これからは肉食系でいくね。友里菜」



「え!?私」



「他に誰がいるのさ」



「あ、のでも、この前先輩にお話した事・・」



「うん。梨乃と付き合ってるんでしょ?そしたらそれを奪うまで。梨乃にも戦線布告させてもらったし」




立ちあがった先輩は、食べ終わったアイスカップをゴミ箱に放り投げるとテーブルを挟んで座る私の元へと近づいてくる。




「先輩その、気持ちは嬉しいんですけど・・!」




両手を胸の前に出して静止してほしいと合図するもお構いなしで、がしっと両肩を掴まれた。

ぐっと近づいてくる先輩の瞳はまっすぐで、逸らす事が出来ない。



「友里菜、自分は今までの体験で嫌という程学んだことがある。それはね、どんなに人として大切でも、守ってあげたいと思っても、恋愛感情に切り替える事は出来ない事もある、という事。友里菜は今梨乃と一緒に居て、梨乃が笑う姿を見ていたいんでしょ?それは解る。けどね、今のままだと絶対に苦しくなるし、梨乃も苦しくなる」




「・・・」




「梨乃はね、友里菜と居れたらそれで良いと思っているかもしれない。けど今回の梨乃は今までとは少し違うと思うよ」



「・・・どんなところが、ですか」




「今までは手に入れたらそれで満足、束縛できて自分だけのものに出来れば満足だった。けど、友里菜の場合は違う。少なからず友里菜の気持ちを優先している部分、あると思わない?」





思い返せば、先輩の言うことは的を得ていた。


先輩に誘われてご飯に行った日も、私に一言告げただけで全力で止めてこようとはしなかった。

自分の気持ちがわからないと言った時、梨乃はそんな自分を責めてはこなかった。

梨乃に押し切られる事も多いけれど、それが気にならないくらいに私は好きに行動して、悩んでいたんだ。




「確かに、そうかもしれない・・・」



「うん。梨乃は変わったと思うよ。でも、だからこそ」




肩に置かれていた手が、私の頬へと触れる。

にこりと微笑む先輩に、先ほどまでの張り詰めた空気は一気に消え去った。私はその先輩を、困惑した表情でしか見返すことができなかった。



自分で決めたのだから、考えて考えて、私は梨乃と居ることを望んだのだから。

だから、その決意は揺らがないし、揺らがせたくない。



先輩の優しさが、今はとても辛かった。触れられた頬がジンジンと痛む気がした。



















**



















「温泉旅行、無事三連休に予約できましたー!」




梨乃が満面の笑みで三人に報告をしてきたのは、お昼休みの事。

一美が教室に来た途端に自席へ走って戻り、手には旅行先のパンフレットを握っている。




「おおおお!マジか!部屋空いたのね!」



「うん!!」




私達が行きたいと考えていた宿は人気が高く、一ヶ月前には既に予約で一杯となっていた。

学校を休んでいくわけにはいかないので、十一月の三連休に的を絞っていた為余計混んでいたのだろう。


それでもキャンセルが絶対出てくる!と予想して梨乃はマメにHPをチェックをしていたのだが、その読みは当たり、今回奇跡的に一部屋空いたのだ。

しかも予約した部屋を見れば角部屋の割と広い和室で、更に皆のテンションは上がる。




「それにしても、さっきからソワソワしてたのはコレだったんだねー。ソワソワしてる梨乃、超萌えた!」



「咲は梨乃なら何でも萌えるでしょ?じゃぁ梨乃が頑張って部屋とってくれたし、さっそく当日の予定でも立てるわよ!」




迎えのバスの時間、現地の寄りたいお店、お風呂の時間や料理などの情報をパンフレットを見ながら考えていく。この作業は想像が広がって本当に楽しい。


しかもこのメンバーでの旅行とあって、普段冷静な一美も浮き足立って早口で話している。

ご飯を食べる事よりも計画を立てる事に気をとられて、昼休みが終わる少し前にやっと全員が食べ終わる事ができた。




「友里菜、楽しみだねっ」



「ほんとね!いっぱい思い出つくろ!」




梨乃と友里菜が話せば、必ず咲が会話に入るのが決まり事となっていた。

梨乃の腕をぎゅっと掴んで自身の胸に押し当てて、上目遣いで梨乃にもうアタックする。




「梨乃りのりの、あたしは?あたしにも楽しみだねって笑顔で話しかけてよー!」



「お!咲―、めっちゃ楽しみだよねっ!」



「うん!二人で思い出作ろうね!」



「待って、私達を忘れるな!」




そんな楽しい日常が続いていた。


一つ違うのは、友里菜と梨乃が付き合っているという事だけで。それはなんとなく、一美と咲には話せないでいるのだった。

今のままで、私達は満足だったのだと思う。













**













温泉旅行が明日に迫った今日、私は何故か焦燥に駆られていた。

それは、気にしない、気にしたくも無いと思っていた事。







--------そういえばさ、加奈とは上手くやってるの?



『うん、バイト先でも今までと変わらないよ』



--------あたしたちの関係について聞かれたりしていない?



『そうだね、そういう話にもならないかなー。だから気にしなくて大丈夫じゃないかな?』



--------そっか、そうだね。じゃぁ明日も早いし寝るわ。また明日



『うん、お休み』



--------おやすみなさい。友里菜、好き。



『----私も』






いつもと同じ様なメールのやり取り。

でもその中には私の不安が積もりに積もっていた。




「多分、違う・・・」




友里菜は私を思って本当のことを言うのを避けている。そんな気がしてならなかった。

それに加奈と友里菜が遊んだ日、実際に何があったのかも知らない。



もしかしたら、告白して、それ以上の事をしている?いやまさか。



手に入ったから、加奈とのやりとりなんて全く気にしてなどいなかったのに。

加奈に呼び出されたあの日から、あいつの目がずっと頭から離れないのだ。何かある、と思わされて。

いつもの私なら気にする事も無いのに、少しずつ、毎日着々とその不安感は募ってゆく。

私は友里菜との時間を幸せに楽しめばいい。そう頭ではわかっているのに部外者が頭から離れない。




最悪だわ。あの女。


でももうココまで来たら、一度きちんと聞くべきね。それじゃないと加奈の思うつぼだわ。

明日の夜、二人きりの時間を作ろう。






それが自分を暴走させる事になるなんて、この時の私には知る由もない。








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