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夢みたいだけど、夢じゃない。  作者: 緋色こあ
後学期~終わりと始まり~
28/41

28.獲得

彼女は自分を責めていた、優柔不断な自分を。

友里菜の優しさに付け入った梨乃が優柔不断にさせているだけ、なのは解っていた。




けれど友里菜に振られた事は事実で、自分は選ばれなかった。

悲しい、不安定に揺れる感情、呼吸が苦しい、悔しい、無気力。



想いを寄せていた人に突き放されることは自分にとって絶望と同じ、心が潰れてしまいそうだ。いっその事嫌いになれたらと思っても出来ない。

今までは思わなくても出来てしまえたのに、今回だけは違った。




もう満足じゃないか、気持ちを伝えて、相手もきちんと断ってきたのだから。

また次に行けばいい。



頭の中で甘い今までと同じ道を辿らせようとする声が反響する。

無理矢理反響させている。




これまで一度も歯向かう事無くこの声に従ってきたというのに、今回だけは、今だけは、どうにも諦めきれない。





















「ん・・・」




シーツの擦れる音が柔らかく聞こえてきて、段々と意識が浮上してくるのが解る。

うっすら目を開ければ、カーテンの隙間から光が差し込んでいて夜が明けた事を知らせていた。明るくなった部屋は変わらない何時もの自室。


隣でもぞもと布団が動くので視線を移すと、すやすやと眠る友里菜の姿。

目と鼻の先程の距離に顔があり気持ち良さそうに寝息を立てていた。朝から可愛い表情を見せられて思わず鼻先にキスをするが、起きる気配は無い。




「おはよ、友里菜」




頭をやんわりと撫でで声を掛けると、開かないだろうと思っていた瞼が動き、持ち上がる。




「ん・・・梨乃・・おはよー」



「起きちゃったか、おはよ」




もぞもぞと布団から手をだして目を擦る様子を、私は幸せを感じながら見つめていた。

その手は急に私のほうに伸ばされて、背中に回すときゅっと弱い力で抱きしめられる。




「ほら、梨乃もぎゅってしてよ」




その行動に内心驚きを感じながらも、私は素直に友里菜を抱きしめ返した。

今になって漸く実感が沸いた。私に対する友里菜の態度が全てをしめしていた。




「ね、友里菜。私と付き合ってくれる?」



「うん、よろしくお願いします」



「や、やったーーーー!」




さらりと答えが返ってきて、喜びのあまりぼふぼふと布団を蹴飛ばして、友里菜に抱きつく腕に力が入る。

その言葉が嬉しくて嬉しくてどう表現したら良いのかわからなくって、腕の中に居る友里菜を思い切りくすぐった。


悲鳴を上げて抵抗するも、楽しそうに笑ってくれている。

そうだ、この人は今日から私の為に、隣に居てくれる人。



















「よっし!できた!」



テーブルの上に置かれたのはハムエッグとほうれん草のおひたし、味噌汁にご飯。

そしてキッチンに立って作ってくれたのはなんと友里菜。


私が朝食の用意をしようと布団をでると「待って、朝ごはんは私が作る」と腕をがっしりと掴まれたのだ。友里菜が作ってくれるのは初めてで、私のエプロンをして一生懸命作ってくれている姿は新鮮だった。




「いただきまーす!」




あげと豆腐と葱が入った味噌汁を一口飲むと、しっかりとした味が口の中に広がる。人の作る味噌汁はもう暫く頂いたことは無かったが、自分が作るものより少し濃い味で、それもまた美味しい。




「美味しい美味しい。友里菜にしては上出来!」



「でしょ!?料理あんまりしなくてもこのくらいならつくれるもーん」




ふふんと調子よくのたまって、友里菜も食事を開始した。テレビは朝のニュース番組が映し出されていて、ゆったりと朝の時間が流れる。




「ね、なんかさー新婚カップルみたいじゃない?」



私の発言に友里菜は飲んでいた味噌汁を吹き出しかける。



「ちょっと!急に変な事言わないでくださいよ!」



「なによー、急に照れたのは友里菜のくせに、人のせいにするんですかー?」



「っ!バカ!りののばーか!」




少し赤くなった頬に空中をさまよう瞳は本当にわかりやすい。

こうした日々が続いていけばいいのに、と何度も思う。




「友里菜のそういうとこ、好きよ」



「・・・そりゃどーも」




一瞬友里菜の表情が変化を見せた。けどすぐに戻って照れくさそうに口を尖らせて横を向く。


私はその一瞬みせる表情が気になっていた。

昨日もだった。

何故こんなにひっかかるのかも解らなかったけど、どこで見た表情なのだろう。誰かもこんな表情をしていた気がする。



でもすぐにその意は薄れて、交通情報の後から始まった天気予報に意識は吸い込まれていった。















**









昼休みに入った後、廊下に張り出された紙に一斉に集まる生徒達。

自身の受験番号を握り締めて、咲と友里菜は自分の番号の羅列を必死に探していた。




「あった!やったぁ!」



「・・・・・あ!あたしもあったぁ!」




先日受けた試験の合格発表だった。

お互いに番号を見つけて、友里菜にいたっては勢いよく咲に抱きついて喜びを分かち合う。そしてすぐに友里菜は手元のもう一枚のメモを見て、もう一度番号を探す。




「あ、梨乃のも・・・おお!あるある!合格してる!」



「やったねー。一美は受かってるだろうし、皆問題ないようでなにより!」




喜んでいると一美が隣のクラスから出てきた。

隣にやって来てすぐに自身の受験番号を確認する。

「あ、あったわ」と随分冷静な反応にさすが一美、と二人で関心。




「あら?梨乃は?」



「んとね、昼休みは用事あるみたい。ご飯先食べててってさ」



それでこれも確認してたのと、手に持っていた梨乃の受験番号のメモを見せる。



「んー、そしたら咲達の教室で食べながら待ちますか」




















「学校で呼び出すなんて、そんなに友里菜に振られたのがショックだったの?」



カラリとした秋晴れのなか、天気とは間逆で重く厳しい表情をした加奈に梨乃は問いかけた。

屋上は今日も誰も居ない。

柵にもたれている加奈に近寄りつつ、梨乃はいつもより優越感に浸っていた。




「友里菜に薬を飲ませるのは止めろ。変な事を吹き込むのはやめろ」



「ふっ、なにそれ。負け惜しみ?」



「確かに自分は振られた。それでも誰かのせいで狂うのなんて見たくない」




加奈の言葉に面白そうに、あははは!と大声で梨乃は笑う。

この人は根本から勘違いしている。選ばれたのはあんたじゃなくて私、それだけのこと。

それに友里菜は自分の意思で選んだわ。私はその手助けをしただけで。




「馬鹿じゃないの?薬くらいで狂わない。それにキメてる時の友里菜は最高に色っぽくて可愛いの」



「段々とのめり込んで、抜けられなくなるって判って飲ませてるくせに」



「友里菜がおかしくなっても私が居るし、ずっと傍に居て見守っててあげられるもの。なんたって「恋人」よ?友里菜はあたしが好きなの。あたしと居る事を望んだの。部外者のあんたにどうこう言われる筋合いは無いわ」



「諦めるつもりは無い。友里菜は絶対にお前から引き離すよ」



「未練がましいわ。あんたなんかに友里菜は見向きもしないわよ?」




「どうかな」




ふいに加奈の口元が歪む。

強くはっきりとした笑みで、見つめてくる視線にの威圧感に思わず顔を歪めた。

それはまるで確信でもあるかのように見えて、梨乃の中に不快感を植えつける。




「なによ、えらく自身あるのねぇ?」



「友里菜の目を見れば解るよ。お前は友里菜の何を知ってる?」




何を知ってる?だと?

もっと余裕たっぷりにたしなめてやるつもりだったが、流石にこの言い分は頂けない。




「沢山知ってるし解ってるから私を選んだの。あたしは友里菜が欲しくて一生懸命努力をしたわ!それが足りずに底辺で足掻いてたあんたになんて言われたくもない」



「あぁ、好きに言ってくれて構わない。・・・話はそれだけだ」



「あっそう。第一目だけで何がわかるの?あたしは・・・友里菜の全てを知ってる」




言い終えない内にパタパタという足音と共に、声の主は姿を消した。

残された加奈は階段への扉をじっと見つめた後、一つ大きなため息をついた。



上を見上げて、晴れ渡る空へと視線を移す。

その空は、鬱々とした気分でいることが馬鹿らしくなるくらい、綺麗によく澄み切っていた。















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