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夢みたいだけど、夢じゃない。  作者: 緋色こあ
後学期~終わりと始まり~
27/41

27.繋がっていたモノ

※文章8/22追加しております。



『この前はごめん。私、梨乃に最低な事した。

梨乃の気持ち知ってたのに、本当にごめんね。』




――いいの、気にしないで。私も理性を持って友里菜を疑うべきだった




『梨乃は信用してくれてただけだもん、悪くない。私はその信用を裏切ったし、梨乃を傷つけた。軽蔑されても仕方ないって思ってる』




――そんなことするわけないよ!私、やっぱり友里菜が好きだから・・・。あの日私に言ってくれたこと、本当に思ってもなかった言葉だったの?




『正直、梨乃が好きなのは確かなんだよ。だけど・・恋愛とか友情とか、わからないんだ』




昨日一日連絡が無かっただけで、少し折れそうになっていた自分はなんて乙女だったんだろう。

友里菜はちゃんと私の予想通りに答えを導き出そうとしてくれている。

このまま邪魔が入らなければ、全て丸く収まるわ。



「梨乃が好きなのは確か、ね・・・。もうすこしよ、友里菜」



一度二人きりで話さないとダメだね。と液晶画面を慣れた手つきでフリック入力し、送信マークに親指を乗せる。






















繋がっていたモノ



















昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴って、次の移動教室に向けて教室を出たところだった。

ふと視線の端に気になる人が現れたと思い目線を向けると、それは先輩。

どうして二年生の階に?と驚いた私の目の前に来て、両手を私の肩に置く。

そして一言。




「友里菜、今日の夜空いてるよね?」



「え!あ、はい!」



「よし!じゃぁバイト終わったらご飯食べに行くよ!」




唖然とする私に素敵な笑顔で「じゃっまた後でね!」と残し、踵を返して階段へと姿を消した。



何だ今の一瞬の出来事は?ってか加奈先輩がわざわざ来てくれた?

え、それだけのために・・・?



廊下で一時停止したまま動かない私に、後ろから明らかにはやし立てる咲の声が響く。

それはもう満面の笑みで。



「なになになにー??先輩からお誘い?デート?」



「えっ!?いやそんなんじゃ・・・」



「何よ、最近大人しくなったと思ったら急に大胆ね」



「一美までー!?」




ニヤニヤ笑いながら肩を叩かれ、二人はスキップを崩したような足取りで友里菜を抜き去っていく。

二人の態度に漸く事態を飲み込むと、とたんに顔が火照ってくるのを感じる。



最近は先輩に誘われても断っていたから。

というか、もう好きになっちゃだめだと言い聞かせて無理矢理断ってきた。嬉しかったけど、それを隠すように薬に走って逃げていた。


それが、こうして学校で、しかも有無を言わさず誘いかけてくれるなんて。

ちょっと夢みたいだ、と思わず胸が高鳴った。




「加奈、また友里菜で遊びたいのかしら・・・」




ポツリと、私の耳元で呟かれた言葉にその気持ちはすぐに弾かれる。

横を見れば、加奈先輩が歩いていった道先をじっと睨んでいる梨乃が居た。




「梨乃・・・」



「気をつけた方がいいわよ、あたしはいつでも友里菜の味方だからね」















**












先輩が連れて行ってくれたお店は洋食レストランだった。

店内は小さいけれど小洒落ていて、かといって高級すぎる雰囲気は無く、私でも入りやすいところ。

お腹が減っていた私は、大好きなトマトベースのパスタと四種のチーズが乗った濃厚なピザをペロリと平らげてしまった。

満腹感が襲ってきて、幸せな気分に満たされる。




「先輩、ここのお店すっごく素敵です」



「でしょ?前に友里菜、美味しいパスタが食べたいって言ってたから。探してみたの」



「えっ・・・覚えててくれたんですか?」



「当たり前でしょ?可愛い友里菜の為ですから」




優しく笑って最後のパスタをフォークに絡めて口へと運ぶ先輩。

やはり先輩は絵になる。その優雅な佇まいは高校生とは思えない余裕に溢れてみえた。



私と言えば、当たり前の様に“可愛い”と言ってくれた事が嬉しくて照れてしまい、黙って先輩を見るしか出来なかったのだけれど。




「先輩、誰にでも可愛いなんて言っちゃだめですよ。私みたいに勘違いしちゃう子が出てきますから」



「誰にでもなんて言ってないよ。」



「ほんとですかー?」



「うん。少なくとも今は、友里菜だけにしか言ってないよ」




思考が一瞬止まって、そのあと言葉の意味を理解して急に身じろぐ。

私はどうやら照れるとガッチガチに固まってしまうタイプらしく、表情筋が動かない。

それでも嬉しくて、顔が熱くなってくるのはわかった。




「あのー・・・先輩、照れます」



「そのつもりで言ってるんだけど」



「どんだけSなんですか!」













そうしてひと悶着した後店を出て、十分程歩いた所にある大きな公園に足を向けた。

店では、就職活動で解ったこと、アドバイスなど勉強になる事ばかりを教わっていた。が、ここにきて話題は私の身の回りに飛んできた。




「にしても友里菜、ほんとに痩せたねー。痩せすぎ」



「んー、でもすぐに元に戻りますよ」



「本当に検定だけのせいなの?」



「多分・・・」




公園内に入ってどんどん歩みを進めると、次第に車のエンジン音は聞こえなくなり虫が鳴く音に包まれた。

歩いた先にも人は見当たらなく、しばらく歩いた所にあったベンチに腰を下ろして、背負っていた鞄も下ろした。


こうして先輩と居ると、嫌でも失恋をした時を思い出すなーと、暢気に考えながら。




「最近さ、梨乃とは仲良くしてるの?」



「あー、はい。最近は皆に随分打ち解けてくれて、楽しくやれてます」



「そっか。梨乃はもう友里菜の事は諦めたのかな」



「あー・・・それは多分」




もう大丈夫です。と言おうとした時、不意に手の上に暖かいものが乗せられた。

視線を降ろして見ると、先輩の掌が私の手上に乗せられていて。

ぱっと顔を上げれば、綺麗な瞳を真っ直ぐこちらに向けている先輩が居た。




「っ!先輩・・・?」



「友里菜、さっきからずっと曖昧だよ。多分って言うの、本当は嘘でしょ?」



「・・・」



「痩せたのは違う理由があるよね。鞄の中にその原因、入ってたりしない?それに、梨乃は友里菜を諦めたりはしていない」



「・・・」




ぐっと歯をかみ締めて先輩の言葉を聞いた。

でも、なんて答えたらいいのか解らなかった。

質問には答えても、それだけでは説明できない部分も多いし、変に心配なんてさせたくない。でも先輩に嘘をつくのも気が引けた。どうしよう、どうしたら。


数秒考え込んで、私は先輩に対して初めて、全てを曖昧に隠す、大人みたいな笑いをして見せた。




「もう、よく解らなくなってきましたよ」



「友里菜・・・」



「そのうち時間が上手く解決してくれると思いますし、私は元気ですから!心配しないでください!」




元気よく両手を挙げてガッツポーズをする。だからもっと明るい話しましょう!と話題を変えようと試みる。

今の私達は放っておくのが一番だと当人が思っているのだから。




「・・・馬鹿!」




急に身体が揺れた。手が引かれる。

視界がぐわっと揺れて、強い力で身体を丸め込まれる。

次に視界がはっきりした時に漸く先輩に抱きしめられているのだと理解した。




「抱えこむなよ、ばか。じゃないとこっちが心配で気がおかしくなりそうだよ・・・」




ぎゅっと抱きしめられる力が強まって、更に先輩の温度を感じる。

そこまで考えてくれていたなんて思ってもいなかった。先輩の優しさに、気を緩めたら泣いてしまいそうだった。




加奈先輩。この人が本当に好きでたまらなかった。

今もそうなのかもしれない。

けど、私はもうダメだ。もう汚れてしまっているんです。




ぐっと胸の中から押し返せば、先輩は回している腕を緩めた。そのまま身体を離して、先輩に向き直る。

自分の行動と気持ちの矛盾で頭がどうにかなりそうだ。




「先輩・・・もう心配しなくていいです。先輩に心配されると、気持ちが揺らぎます。また好きになります。嫌ですよね?だからもう、私に関わらないほうが良いですよ。先輩のためにも、もっと人間が出来た人と一緒に居たほうが」





そこまで告げた時、急に顎に手を掛けられて顔を上げさせられた。

目の前には先輩の瞳。それが一瞬で近づいて、視界が焦茶色に包まれる。




「え・・・っ」




唇に触れる柔らかさと熱に、ドキリと一際大きく心臓が脈打った。

キス、されてる―――



すぐにその唇は離れて、また身体をぎゅっと包み込まれる。

頭をくしゃりと撫ぜられてその手の優しさにはっとした。




「先輩・・・」




「好きだよ、友里菜」





ずっと聴きたかった言葉が今、私の耳元で生まれた。




こんなに嬉しい事はない。

でも、この言葉をもっと早く聴きたかったなんて思ってしまう。



私はもう先輩が見てくれていた私じゃないんだ。

それに、私は梨乃を大切にしたいから。


そう思えば、自然と先輩の暖かい腕の中から身体は離れていく。






「・・・嬉しいです。でも・・・」




先輩の目が、見れない。

今どんな表情をして、どんな気持ちで私を見てくれているのか判らないけれど、ぎゅっと目を閉じて声を絞り出す。伝えるべき事は一つだった。




「ごめんなさい」



「・・・梨乃が好きなの?」



「・・・好き、なのかもしれないです。梨乃を一人になんて出来ません」




先輩は私の言葉を聞いて、一つため息をついてから話し出す。




「あれは梨乃の作戦だよ。梨乃の話をまともに受け取ったら辛い思いをするのは友里菜なんだよ?自分も梨乃と付き合っていた時はそうして落ちていったんだ。自分ならそんな風に友里菜を思いつめさせたりはしない」



「先輩・・・」



「自分じゃ駄目?梨乃の事はきちんと考えたい」




顔を上げて見た先輩の表情は、以前バイト帰りに見たものと一緒だった。とても辛そうな、悲しそうな顔。

そう考え想ってくれていた事がどれだけ嬉しかったか。

先輩の表情に一瞬怯んだけれど、もう後戻りは出来なかった。




「それでも・・・やっぱり先輩とは付き合えないです」



「どうして?」



「私、お酒の勢いだったとはいえ、梨乃と二回も、そういうことしました。それに・・・私は先輩が思うような良い人間なんかじゃないんです。汚いし、ずるい人間なんです」



「梨乃はわざとそうなる様仕向けたんだよ。悪いのは友里菜じゃない!」



「いいんです!私、梨乃の辛そうな表情見るのが怖いんです。私が傍に居なきゃ、私も梨乃を大切に思ってるし、その・・・好きですし」



「友里菜・・・」



「私がしてしまった事で梨乃を傷つけたんです!梨乃を放って私だけが良い思いするなんて出来ません。梨乃を好きになってきている事は本当です。梨乃を責めないでください」




突き放す様な自分の声に、私自身が驚いていた。


熱が冷めないうちに腕を掴む力が弱くなって、ずるずると下がって離れてゆく。

その手の温度に、感覚に、どうしようもない苦しさがこみ上げてくる。あぁ、駄目だ、溢れる。

最後に酷いつくり笑いを浮かべて、思いを告げるのが精一杯だった。






「・・・先輩、私は先輩が大好きでした」




すぐに目を逸らして踵を返し、元来た道へと走りだした。

















**

















ずっと落ち着かなくて、携帯を何度もチェックしたり部屋を歩き回ったり。



まだ友里菜から連絡はない。

加奈にここまできて取られたらどうしよう。私の行動の裏を読んで友里菜に助言していたら?



不安で不安で仕方なかったけど、私はあえて自分から連絡しないで友里菜からの連絡を待っていた。

友里菜を信用しているから。




沈黙を裂くように無機質なチャイムの音が部屋中に鳴り響く。両親は一週間前に一度帰ってきていたからあの二人ではないだろう。

だとしたら、あとうちに来るのは一人。

一度鳴ったあと直ぐにまた二度目のチャイムがなり、また三度目のチャイムが鳴る。



「随分とせかすのね、友里菜」




急いで階段を下りて玄関の扉を開ければ、そこには友里菜が立っていた。

表情は暗く伏し目がちで、立ったままその場を動かない。




「友里菜?大丈夫?加奈となにかあったの?」




心配そうに声を掛けると、急に暗い顔から一転してにこりと微笑みこちらを向いた。




その笑顔は、どこかで見た気がした。




「梨乃、私やっぱり梨乃の事が好きみたい」



「え・・・?どうして急に」



「今日先輩と会って、改めて思ったんだ」




言い終わるか終わらないかで、友里菜が私に抱きついてくる。

ぎゅっと音が出そうなくらいに力強くて、思わず私も驚いて抱きしめ返す。




「友里菜・・・」



「ねぇ、今までずっと記憶が曖昧なときにしてたよね。今日、これからしよ、薬ナシで」




それはまさかの夜の遊びのお誘い。

あぁ、本当に嬉しすぎて笑いがこみ上げてくる。



勝ったわ。


友里菜を手に入れたのは私だ。




口元が大きく弧を描いて、我慢できずに数秒この幸せをかみ締める。




「嬉しい。来て、よくしてあげる」





手を強く引いて足早に自室へと引きずり込んだ。










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