25.裏腹
「友里菜と梨乃、随分仲良くなったよねー」
「今までは梨乃から一方的にって感じだったけど、最近は友里菜も梨乃にべったりな気がするわ」
二人と別れた後、咲と一美は関心するように話していた。
話題はもちろん二人の話。
「あたしマジで梨乃の事狙ってたのに、友里菜はいい所で取ってくんだからー」
「はいはい。ってか友里菜はそんな気ないでしょ?」
くすくすと笑う一美に「そうだけどさー」と口を尖らせながら拗ねる。
最近は梨乃本人も咲がベタベタすれは可愛がってこそくれるが、更にネタ扱いが酷くなっていて。本気なのにと拗ねても笑って返される。まぁ楽しいから良っか、と咲は思っていた。
「まぁそれは置いといて。ねぇ一美、これって良い事なんだよね?そうだってわかってはいるんだけど・・・」
「もしかして・・・なんか引っかかってる?」
「うん。何か気になるんだよね」
「咲も?実はあたしも少し気になってて・・・。何も無いと良いんだけど」
ふいに一際強い風が吹いて、二人の背後から吹き付けたそれは落ち葉を攫って宙へと舞った。
**
今までの薬は全て私が用意していた。
友里菜が薬代は払うと律儀に申し出てくれたけど、別に金に困っているわけでもないから丁寧に断って、飲ませ続けた。それも揺すれる材料のうち。
今回も無事に全ての薬を飲み終えて、少し雑談をしながら効きを確認していく。
段々と効いてきているのは間違いないらしく、先ほどよりも表情が弛緩していた。
「あー、いい感じ」
「よかった。今日はどこから記憶が飛ぶかしら」
「ちょっと!面白がってるでしょー」
効きを確認してから、用意していたDVDをデッキにセットした。直ぐに読み込みが始まる。
私の好きなレズビアンを描いた映画。
外国の女同士の恋愛模様を飾ることなく描いていて、過激な表現も多いから私のお気に入り。
「ねぇ友里菜、レズの映画って見たことある?」
「え・・・、いや、ないけど」
「私の大好きな映画なんだけど、コレ見たら、恋したくなるよ」
「へぇー。じゃぁ純愛な感じ?」
「まぁ見てみて」
最近は私の言う事をよく聞いてくれて、言われるがままで画面を見つめる友里菜。
随分と信用してくれている様で嬉しく、それに素直な友里菜が可愛い。
すぐに本編が再生されて、純愛とはかけ離れた冒頭が映し出される。
女同士のカップルが身体を寄せ合いキスするシーン。
お互い服を脱がしあって微笑みながら、目はあんたとヤりたいって本能丸出しな二人が互いの身体を貪り合うシーン。時折出る字幕には相手を挑発する言葉が並び、あとはあえぎ声。
友里菜の様子を見れば、目線は画面に釘付けでぽかんと口をあけている。
「・・・過激すぎじゃない?」
「素面で見るのは恥ずかしがるかなーと思って」
「いや、それ以前にこんなAVもどきみたいな・・・」
ぶつぶつと友里菜は呟くけれど、薬のせいもあってか言葉のわりには戸惑いはない様だった。
身体をゆらゆらと揺らしながらも画面を見る目は動かない。
何だかんだ言いつつ興味津々じゃない。素直じゃないんだから。
そのまま暫く一緒に映画を見て、三十分程見終わった所で私は行動を開始した。
友里菜とは向かい合う形でソファーに座っていたが、立ち上がって友里菜の隣へと腰掛ける。
久しぶりのこの感じに、随分と鼓動が早くなるのが解る。
「ねぇ友里菜、お願いがあるんだ」
「え・・・」
身体を寄せて膝の上に手を乗せて、友里菜の顔を覗きこむ。もう正気ではなくなっているのだろう。
随分と密着させた距離に、いつもと違う声や雰囲気を出しているにも関わらず、友里菜の目は相変わらずトロンとしているだけだ。
「あたし、最近欲求不満なの」
「よっきゅう、ふまんなの?」
「そうよ、最近そういう関係の人も居ないし。ねぇ・・・少しだけ遊びに付き合ってくれない?」
「遊び・・・いいよ、遊ぼう!」
“遊び”という言葉には反応して、直ぐに笑顔で了解してくれる。
私もその笑顔に微笑み返し、何事もない様に友里菜の膝の上へと跨って、頬へと手を触れる。
そして、見上げてきた目と私の視線が重なった瞬間口づけた。
友里菜の瞳が僅かながらに開いた。
その瞳をじっと見つめるが、まだ自分の置かれている状況が解っていないらしい。
直ぐに唇を割って中へと舌を滑り込ませた。
柔らかい唇、濡れた感触に一度だけ抱いた記憶が蘇ってくる。
もっと貪りたい。ぐちゃぐちゃにしてやりたい。
流石に口内を蹂躙されれば漸く状況を知り、鼻から抜けるような声を出すが、その声は煽っているようにしか聞こえない。強張る身体をぐっと抱きしめて更に深く、深くと続ける。
そうしてそっと唇を離して首筋へと落とし、下から上へと舐め上げれは身体が震えて反応する。
「梨乃、やめて・・」
「何で?ただの遊びよ?」
「だから、それがダメ・・・っ」
あまり力の入らない身体で必死に押し返してくる。
薬が効いていてもまだ理性は残っていたか、これは予想外だった。だけど押し切るように強く身体を抱きしめて肩へと噛み付くと、その力も直ぐ弱くなる。
「良いじゃない。どうせ明日には覚えてないわ」
「やっ・・・、ちがう」
「何が違うの?」
「梨乃がまた・・・苦しくなっちゃうよっ」
思わず動きが止まる。
舌ったらずで喋る友里菜に説得力などとうに無い。
けれど、こんな状態でも伝えようとしてくる彼女は本気で、心の底でそう思っている証拠なのだろう。
胸が痛むのは気のせい、私はそんな流されるような女じゃない。
「苦しくなんか無いわよ。友里菜、私が嫌い?」
「それは、すきだけど・・でもそれは」
「友達として、でしょ?いいのよ、そのままで」
「え・・・じゃあなんで?」
「言ったでしょ?欲求不満なだけ。遊びなだけ。でも私としたくないならそれでいい・・・そしたら私は体を売っちゃうけど」
友里菜は私の言葉に驚いて、瞳をふら付かせて困惑の表情を浮かべた。
あと少し。あと少しで落とせる。
「嫌でしょ?売春するのよ?もう友里菜に捨てられたら私には何の価値も残らない。」
「そんなこと・・・」
「それにね、私にお金があればもっと薬も手に入るのよ?」
「だめ、だめ・・・」
「じゃあ答えは一つね」
私は何の中身も無い、ただやりたいって誘い文句を言っているだけ。
素面の友里菜に言えばどんな屁理屈だって笑われるようなレベルの事を。
それでも思考力の停止した友里菜には強烈な脅しに聞こえるだろう。それも友里菜自身に責任があるのだと感じさせるような。
言い返せなくなってかみ締めている唇にそっと手を伸ばし、人差し指で触れば少し口を開いた。そこにまた自らの唇をあわせる。抵抗無く侵入できる舌。
―――――堕ちたわね
見つめ返してくる瞳にはもう理性は無い、ただ与えられるものを素直に受け入れるだけ。
乱暴に服を脱がせてソファーに押し倒す。それもされるがまま。
キスを落とせば舌を絡めてくる始末。先ほどまでの友里菜は居ない。
覆いかぶさるように私も体を倒して、まだ取っていない下着へと手をかける。
ホックを外そうと背中に手を入れれば、ぎゅっと私の背に手を入れて抱きしめてくる。
「そんなに好き?」
「ん・・・せんぱい・・・」
身体を起こして顔を見ると、その目は僅かながらに潤んでいて。
その涙は拒絶の意?先輩への想い?それとも生理的なもの?
未だ消えないあの女の影。
友里菜は私を逆上させるのがとても上手い、こうやって一番気にしている事を言っちゃうんだから。
私の理性も持つわけがなかった。