第三話①
兄たちと実家で過ごした休日から半月、このところは出動が重なり実家へ行くことができずにいた。兄も急な商談が増えたらしく、たまの休みは家でぐったりしていたようだ。それは私も同じで、日々の訓練で鍛えていても、若い者にはまだ負けないと思っていても、やはり少しずつ衰えは来ているようだ。
ようやく実家に顔を出すことができたのは、あの日から1カ月近く過ぎた秋の初めの時だった。そろそろ夏の暑さもピークは過ぎ、ツクツクボーシが鳴き始め、トンボの姿を目にするようになると、ようやく秋らしさを感じるようになった。
そう言えば、昨日、美咲に言われた言葉が面白かったのを思い出した。
「お父さん。ツクツクボーシってなんて鳴いてるの?」
まったく同じ質問を、幼い時に両親にした記憶がある。たしかに、ミンミンゼミは『ミーンミーンミンミン』、ヒグラシは『カナカナカナカナ』、アブラゼミは『ジーーーー』、それぞれ鳴き声が文字にできる。しかし、ツクツクボーシだけは、『ツクツクボーシ、ツクツクボーシ』の後を文字にしようとするとなかなか難しい。人によっては『オーシツクツク』ともいうが、そのあとに続く文字はないことが多い。
「そうね。なんて泣いているのかしらね。」
母が笑顔でそう言ったのを覚えている。
「ツクツクボーシ、ツクツクボーシ。アチーヨ、アチーヨ、アチー! じゃないか?」
「えぇっ?」
父がそう言ってふざけたのも記憶してる。遠い昔の話なのに、よく覚えているものだ。そして、我が子が自分と全く同じ疑問を持ったことも面白かった。やっぱり親子は似るものらしい。
「そうだな。ツクツクボーシ、ツクツクボーシ、モイーヨ、モイーヨ、イーって聞こえるかな。」
「えー。聞こえないよぉ。お兄ちゃんは?」
グローブの手入れをしていた海斗は、
「この間の試合の時に思い付いちゃったんだよね。オシーヨ、オシーヨ、ウテー! ってね。」
そう言って笑った。もうちょっとでホームランになる当たりを飛ばしたらしい。まぁ、確かにそういう風に聞こえなくもない。なんだか納得のいかない美咲だったが、今度、学校でみんなで決めるんだと話していた。
子供のうちはそんな他愛もないことで話が盛り上がる。自分にも記憶があることだ。大人になってしまえば、なんでそんなくだらない話であんなに盛り上がったのだろうかと思うこともある。
父も母も、子供への理解はいい方だったと思う。兄が公務員を選んだ時も、私が消防士を選んだ時も、親としての心配事は口にしていたが、基本的には応援してくれていた。今度は自分が子供を持つ番になり、いずれ近い将来、子供達が自分の進路というものを決めた時、両親がしてくれたように、私もそっと背中を支えてあげられるような父親でありたいと思った。
続く
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