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第二話②

 夕方、自宅に駐車すると、私は兄の携帯をダイヤルした。ちょうど仕事が終わったのだろうか、兄はすぐに電話に出てくれた。


「タイミングいいな。今、ちょうど仕事が終わって会社を出たところだ。」

「お疲れさま。兄さん、手紙のことなんだけど・・・。」


 私は母からの手紙の内容を話した。母の字であること、自分のことを『たぁくん』と書いていたこと、そして、仕事の内容のことを伝え、間違いなく母なのではないかと推測したことを伝えた。


「しかし、まさかな・・・。」

「信じられないのはわかるんだけどさ。おれのこと『たぁくん』なんて呼ぶのは、おふくろ以外だと親戚のおじさんたちだけど、誰も横浜になんか住んでないぜ?」


 親戚は多いわけではないが、神奈川県に在住している親戚はいない。それに、こんな手の込んだことをするような器用な親戚はいないはずだ。


「そうだな。こんなに洒落たことするおじさんもおばさんもいないしな。よし、今回書いた手紙の返信が来るか、とりあえず待ってみよう。」

「そうだね。」

「ところで、今度、休みが合うようなら飲みにでも行くか?」

「それなら、みんなでうちに泊まりにきたらどうかな。」


 兄の住まいは我が家から車で3.40分のところになる。ちょうど、地図上では実家と我が家と兄の家で二等辺三角形になる位置関係だ。お互い仕事が忙しく、土日休みの兄とシフト勤務で休みの定まらない私とでは、なかなか会うこともままならなかった。幸い、今週末はたまたま連休が重なったため、思い切って誘ってみたのだ。


「そうだな。それじゃ、実家で集まって食事でもどうだ?」


 兄の提案に、私は二つ返事でYESと答えた。週末なら子供たちも妻も休みだ。一泊がてらで実家を片付けながら遊ぶのもいい。


「美雪。次の休み、兄さんが実家で一緒に食事でもどうだって言ってくれてるけど、いいかな?」


 妻の美雪(みゆき)に声をかけると、


「あら、片付けもできるしいいんじゃない?」

「夕飯は焼肉でもしようか。」

「いいわね。」


 美雪も快くOKしてくれたので、兄一家と実家で合流することが決まった。最初は渋っていた子供たちも、夕食は焼肉だと言ったら手のひらを返していくと言ってくれた。まったく現金なものだ。まぁ、それでも付き合ってくれるだけいいとしよう。小学校6年生の海斗(かいと)と小学校3年生の美咲(みさき)、二人とも元気に育ってくれている。中学くらいまでは付き合ってくれそうだが、思春期に差し掛かり、大人になるにつれて、きっと親の付き合いには参加しなくなっていくのだろう。


 自分だって、高校に入ってからは親に誘われても部活や友人との約束を優先させ、家族で出かけることはなくなっていった。兄は大学に行ってからも両親と出かけることが多かったようだ。大学を卒業して市役所勤めをした兄は、優秀だった。


 そんな兄を見て育ってきた私は、今思えば大して成績に差はなかったと思うし、母や父が特別に兄ばかりかわいがっていたということはなかったが、兄より私のほうが少々心が幼かったようだ。高校生にもなって親と一緒に出掛けることが、どこかかっこ悪いように思えていたのだ。ありていに言えば、兄には反抗期がなく、私にはあった。ただそれだけのことだった。


 理解ある両親は、そんな私に文句も言わずに理解を示してくれたし、優しい兄は私が自由にできるように両親に付き合ってくれていた。自分にあった反抗期、それをわが子が持つようになっても、何ら不満はない。巡り巡って、今度は私が体感する順番なのだ。



 次の休みになり、私は実家に泊まれるように準備を整えて車の準備をした。子供達もなんだかんだ言いながら楽しそうだ。夜に退屈しないように携帯ゲーム機と宿題の教材をカバンに入れ、二人は素直に車に乗り込んだ。美雪が家の戸締りをしたのを確認し、車に乗り込んだのでエンジンを回した。


「手紙、届いているといいわね。」


 ふいに、美雪がそう話しかけてきた。前もって手紙のことは美雪に話していた。初めは驚いたような顔だったが、届いた手紙を見ると、


「不思議なこともあるものね。」


 の一言でほほ笑んだ。驚かないのか尋ねてみたが、世の中の不思議なことが体験できたならいいではないかと、楽観的な美雪らしい返答が返ってきた。消防士の仕事をしていると、母が言ったような華やかで輝かしい事柄ばかりではない。時には、助けられなかった命もたくさんある。いや、むしろ火災現場では犠牲になる人を見付けることの方が多いかもしれない。特に、親に近い年代の方や子供が犠牲になる火災現場を担当すると、何とも言葉にはできない憤りと悲しさに襲われる。そんな時、自分を元の姿に戻してくれるのはいつも美雪の楽観的な性格と言葉だった。


続く

ここまで読んでくださりありがとうございます。

m(__)m


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