第二話①
次の休みの日、私は身支度を整えると、さっそく実家へ車を走らせた。母からの手紙、そんなことがあるはずもないのはわかっているのだが、仏間に置いてあった花鳥の絵があしらわれた封筒を見て、正直、手が震えた。そこに書かれている字は、まぎれもなく母の字だったからだ。
『たぁくんへ
手紙をありがとう。あの片付け嫌いの
たぁくんが、今は家の片付けをしてくれ
ているのが嬉しいです。
家の処分に関しては、私達がいいと言
っていたのだから気にする必要なんかあ
りません。あなた達も自分達の生活があ
るのだから、気にしなくていいから、し
っかり自分の家庭を守りなさいね。
突然のことで、あなた達にはとても苦
労を掛けてしまったけど、教訓だと思っ
て、いつか、あなた達に訪れる最後の時
に迷惑をかけないよう、今からでも少し
ずつ準備しなさい。不甲斐ないなんて思
わなくていいの。あなた達が立派に成人
して、自分達の家庭を持って、しっかり
幸せに生活できているのなら、お母さん
もお父さんもそれで十分。胸を張って生
きてください。
小さなころは病気がちだったたぁくん
が、立派に大人になって頑張っているの
が、私はとても嬉しいです。あなたの仕
事は人様の命を守る仕事なのだから、こ
れからも身体に気を付けて、困っている
誰かのために懸命に働きなさい。ずっと、
見守っています。
母より。』
手紙の途中から、私は涙が止まらなくなってしまった。まぎれもない母からの手紙だ。私の名前は章忠、兄の名前は章浩だ。二人とも「章」が付くので、兄のことは「ひろくん」、私のことは「たぁくん」と呼ぶのだ。そう呼んでくれるのは母と一部の親戚のおじさんとおばさんたちだけだ。それに、私の仕事は消防官である。火災現場に飛び込まなければいけないこの仕事のことを、最初こそ心配していた母だったが、あるマンション火災から子供を助け出した時のニュースに私が映っていたらしく、それからは熱心に応援してくれていた。自分の息子が子供を守ったのだと、近所のおじさんおばさんたちや親せきに自慢していたらしい。
これが、突拍子もない話だと言うのはわかっている。そんなことあるはずがない。死んだ母からの手紙など、届くはずがないのだ。しかし、母の手紙を読んで、それが母の手紙だと思いたかった。
私は母からの手紙を封筒に戻すと、引き出しから花柄の便箋を取り出し、さっそく返信をしたためた。怖さとか不気味さはなかった。ただ、手紙としてでも、母と再び意思の疎通ができるということに、私は妙な気持ちを感じていた。負の感情などない。心が躍るような、楽しい感情。これが何の不思議体験かは説明できないが、少なくとも、戻ってきた手紙の事実は間違いようがない。
『お母さんへ
思いがけない返信があり、すごく驚い
ています。本当にお母さんなんですね。
そもそも、私のことをたぁくんと呼ぶの
は身内だけですし、手紙の字が、懐かし
いお母さんのもので心が温かくなりまし
た。
こんな不思議なこと、絶対あり得るわ
けがないし、説明もできないのですが、
今は素直に、なにか奇跡が起きているん
だと信じています。
お母さんに最後にあったのは正月の時
でした。いつも通りに過ごし、いつも通
りに見送ってもらい。まさかそれが最後
になるなんて思いもよりません。もっと
会いに行けばよかった。もっと一緒に旅
行に行きたかった。連れていきたい場所
もたくさんあった。でも、それがもう叶
わないことなんだなと考えると寂しくて
ありません。
せめて、一目、一目でいいから会いた
いです。そして、「いい加減痩せなさい
よ。」と言いながら、私の好きな料理を
作ってください。お母さんが作ってくれ
たオムライス、本当に大好きでした。い
くつになっても、あれだけは私にも嫁に
も作れない。生涯の絶品です。
お母さん。会いたいです。心から。
章忠より』
書き終えた私は、再び封筒に手紙を入れて封をした。そして、帰り際、近所の郵便局に出向いてポストへ投函した。こんな不可思議な話、誰が信じてくれようか。我ながらそう思うのだが、助手席に置かれた母からの手紙が、その不可思議なことが事実であることの証拠であった。
続く
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