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PURE LETTER ~時を超えた手紙~ 【完結】  作者: 水野忠


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第三話④

 私は真知子さんを見ながら真美子さんに声をかけた。


「お母様とお話ししても?」

「ええ。喜びますわ。」


 私はゆっくり立ち上がると、和室で横になっている真知子さんに歩み寄った。食事も思うように取れていないのだろう、そこにはとてもやせ細った老婆が静かに寝息を立てていた。私はベッド脇に身を降ろすと、真知子さんの手を取った。痩せてはいるが温かい。とても温かかった。


「真知子さん。いや、お母さん。章忠が来ましたよ。」


 声をかけると、ゆっくりと、うっすらと真知子さんは目を開けてくれた。


「お母さん。佐千恵さんのお子さんが、わざわざ来てくれたんですよ。」


 目を開けた真知子さんは、ゆっくりと視線をこちらに向けてくれた。すると、不思議なことに真知子さんは私を認識し、優しく微笑んでくれたのだ。


「たぁ、くん?」

「はい。そうです。」

「ふふ、やっと会えたねぇ。」

「はい。」


 やはり自分を母だと思っているのだろうか。しかし、初めて会った私を見て、真知子さんははっきりと『たぁくん』と言ってくれたのだ。


「手紙、書けなくなってごめんねぇ。」

「いいえ。お気になさらないでください。そのおかげで、今日こうやって会うことができたのです。」


 私の手を握り返す力が、にわかに強くなった気がした。


「今日は、いい日だわぁ。」


 それだけ言うと、真知子さんは再び寝入ってしまったようだ。また、静かに寝息を立て始めた。私は時間の許す限り、その顔を見続けた。何も言葉はいらなかった。



 夕方になり、真由子さんへ礼を述べて川上邸を後にした。また来てやってくださいと言う真由子さんに、今度は兄や孫たちを連れてくることを約束し、私達は帰路に就いた。


「よかったわね。」

「ああ。」


 美雪の後押しのおかげもあって、私はもう一度、母に会うことを許されたのだ。


 それから、休みの合間に実家の片付けをしつつ、何度か川上邸に出向いて真知子さんに面会をした。そして、年が明けて実家の引き払いも終わったころ、真知子さんは母に1年遅れて旅立っていった。きっと、母と再会し、昔のように遊んでいるに違いない。


 真由子さんの勧めもあって、母が残した大量の手紙は真由子さんに引き取ってもらうことになった。あの、3回のやり取りの手紙を除いて。真知子さんが寂しがらないよう、仏壇に添えたいと言うのだ。私も兄も快く承諾した。


 両親の仏壇は、長兄である兄の家に移動され、その中には両親の写真と、あの時の手紙が供えられている。そして、あの日から変わったことと言えば、家族全員で撮った写真と、みんなで真知子さんに会った時の写真が、それぞれ私の職場のデスクに飾られていることだ。


 思い付きで書いた手紙が起こした小さな不可思議な話。今思えば、母の死に悲嘆にくれる私を、母が真知子さんと一緒に励まそうとしてくれたのではないか。そんな風に考えるのだった。


『緊急司令! 南大通町3丁目のビルで火災発生! ビル屋上に生存者を確認、至急現場へ出動せよ!』


 出動を告げる放送が響き渡った。


「よし! 出動するぞ!」


 私は部下たちに指示をしながら立ち上がり、


「行ってまいります。」


 写真の中でほほ笑む両親にそう言うと、任務を果たすために消防車庫へ駆け出した。生存者がいる。必ず助ける。という使命を胸に。


 それは、冬が終わり春の気配を感じる日の出来事だった。



PURE LETTER ~時を超えた手紙~ 終

最後までお読みいただきありがとうございます。

\(^o^)/


久し振りに書いたので、

何ともカントもな気分ですが、

実家を片しながらふと思い描いた物語です。


ちなみに、

実家の至る所から学生時代の証明写真が出てきたのは実話です。


なんでそんなもの残してたんだろ(^_^;)


皆様の心に、

温かい気持ちが残ったなら嬉しいです。


次回作にもご期待ください!

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