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軍艦型のりんごパイ

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100の幻覚が私を誘おうとも、1000の甘言が私をたぶらかそうとも、10000の批評家が私を蔑もうとも、私はこの場に、名座メトロポリタン歌劇場 で、根を張る様にして立ち歌おう。ペルシア軍の如き大観衆の前で歌おう。喉を震わせ息を吸い、体全体を楽器に変えて今日も歌おう。時に獣の様に吠え、時に 処女のように嘆き、時に英雄のように猛り、時に道化のように笑おう。私が、私でなくなって、観衆と私が融け合って、そんな一つになった空間ですごしていこ う。そして今日も、拍手の海に絶頂を覚えながら、私の夢を終わらせる幕が下りる――

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「みたいなオペラ歌手が主人公の小説はどうかな」

「先輩オペラ観たことあるんですか?」

「ない」

「想像で小説を書く人間は銃殺刑に処されるべきだと、ある作家が言ってました」

「なにそれこわい」

「先輩は何回死んでますか?」

「失礼な! ちゃんといつもググってるぞ!」

「世が世なら市中引き回しの上、磔獄門の刑ですね」

「容赦ねえっ!」


中村さんは俺の後輩である。ショートヘアの目付きが鋭い小動物みたいな女の子で、普段の職場ではあまり話すことはない関係。ただ、家が意外と近いという理由で、ちょくちょくうちに遊びに来る。中村さんは台所で俺のエプロンを付けて、手慣れた手つきでりんごを剥いている。


この前中村さんが意外と料理が美味い ということが判明したので、ささやかなバイト代を渡す代わりに、こうやって料理を作ってもらえるようになった。今日はりんごパイを作ってくれるらしい。パイって家で作れるのか。と驚いていると、「お菓子は分量さえきちんとやれば楽勝です」と頼もしいお言葉。「中村さんかっこいい! 抱かれてもいい」とふざ けたら、鋭いローキックが飛んできた。五分ほど悶え苦しんだ。


「で、実際書くんですか? そのオペラ小説」

「あー、どうするかな。たしかに全然知らない分野だし、取材しないと難しいかもしれないな」

「取材ですか?」

「そうそう取材」

「……私の知り合いにオペラ歌手がいるんですが」

「え、マジか」

「あんまりチケット売れないって嘆いてたんで、手配できますよ」

「これまたすごい人脈持ってるな君」

「来月辺りに公演あるそうですが、どうします?」

「ぜひ頼みます」

「分かりました、二枚用意しておきます。一枚五千円なので、一万円用意して下さい」

「え」

「仲介料代わりってことで。私も久しぶりにオペラ見たいんですよ」


安月給にはなかなかパンチのある出費だったけれど、これはもう仕方ないと思って割り切ったほうが良さそうだった。実際問題オペラ小説書くには取材が不可欠 だろうし、あわよくば中村さんの知り合いのオペラ歌手から詳しい話を聞けるかもしれない。それにしてもさらっと自分の分のチケット代を滑りこませたな中村さん。まあいいけど。


そんな話をしている間にも、オーブンから美味しそうな匂いが漂ってきていた。正直オペラも気になるけれど、りんごパイも大変気になる。食欲中枢をダイレクトに刺激するような、萌え萌えアイドルの如き媚びっ媚びな匂いだった。「そろそろ」ですねと中村さんは立ち上がり、電子レンジの中 を覗き、振り返って親指を突き立てた。期待は否が応でも高まる。


中村さんは持参したキッチンミトンで、電子レンジの中にあるりんごパイを取り出し始めた。 りんごパイは一つの大きなパイではなく、10個位の小さな楕円形の船みたいな型で作られているようだった。一口サイズということらしい。なかなか凝ったこ とをしよる。船型の方が大きな皿の上に盛りつけられていく様は、まるで荒海を切り裂く軍艦の連合艦隊のごとし。


「家の中で船の型が多かったので、こんな感じになりました」

「中村さん船好きなの?」

「祖父が軍艦乗りだったもので」

「爺ちゃんすげえ!」


  中村さんの人脈が凄まじいということが判明して、いろいろ気になることが正直あったのだけれど、そんな事を忘れさせるほど目の前のりんごパイは美味しそう だ。ひとくち食べると、口の中に優しい甘さとりんごの甘酸っぱい甘さが溶け込んで、極上のハーモニーを奏でた。しあわせとはこういう味をしているのだろ う。そんなふうに思わせられた。


「それにしても意外だ」

「なにがですか?」

「中村さん、意外と乙女な技もってるじゃん」

「え」

「普段もっとこういう所アピールすれば、結構モテるんじゃね?」


  そんな風に軽口を言うと、一瞬中村さんは顔をほころばせたあと、何かに気がついたようにいつもの無表情に戻ってしまった。笑ったほうが可愛いのに、勿体無 い。そう言ったら何故か重いローキックが飛んできた。女の子は難しいな。膝を抱えて床を転がりながら俺は思った。

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