あんこ玉と、パンの耳の砂糖菓子
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身も心も汚された私は、一体何処へ行けばいいのだろうか。この世のありとあらゆる吹き溜まりとわだかまりが入り乱れたようなこの場所で、私は一体何を しているのだろう。体を切り売りするようなこの仕事を続けながら、私はビルで区切られた小さな空を見上げた。地上のネオンで空は濁り、小さな頃、田舎で観 たあの空のような星空なんて、見えはしなかった――
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「っていうハードボイルド・ワンダーランドな小説はどうだろう」
「そのまま燃やし続けて炭化させて下さい」
「それはいくらなんでもハードにボイルドし過ぎだろう!」
「炭といえば、ふ菓子って炭みたいですよね」
「まあ確かに言われてみると」
「ふ菓子なら美味しいのに……」
「暗に『お前の小説ふ菓子以下』みたいなこと言うの辞めてくれないっ?! 泣くよ!? いい加減泣くよ!?」
「深読みよくないですよ。まあ合ってますけど。先輩はなんの駄菓子が好きですか?」
さらっとフォローになってないフォローを入れつつ、中村さんはそう言いながら駄菓子屋の中を物色する。折角の貴重な休日だというのに、今日も今日とて中村 さんに連れだされて外にいる。本当は家でぐーたらしながらビール片手に小説でも書きたいんだけれど、中村さんの無言の視線がそれを許してはくれなかった。 多分あと5秒ゴネてたらローキックが飛んできてた。
「先輩聞いてますか?」
「あ、ああ悪い、好きな駄菓子か。そうだな」
駄菓子屋を物色しながら、俺は昔のことを思い出していた。駄菓子屋には小さい頃随分とお世話になった。俺にはなぜか、あんこ玉の当たりだけを引き当てると いう特技があって、よく友達とつるんであんこ玉買っていたっけ。あまりに当たりばかり引くもんだから、駄菓子屋のババアから出禁くらったりして、そのあと は当たりを予想して友達にその情報を売ったりと、馬鹿なことをしていたのを覚えている。全ては懐かしい思い出だ。
「久しぶりに試してみるか」
「なんですそれ?」
「あんこ玉って言ってな、あんこ丸めただけの駄菓子なんだけど、人はこの中に一つだけ当たりがあるんだ。当たりを引いたら大玉ゲット」
「なんかアイスの当たり棒みたいですね」
「自慢じゃないが、俺はこれまで一度もこれを外したことがない」
「本当に自慢じゃないですね」
「まあ見てな」
俺はあんこ玉を一つ選んで口に含み、口の中で転がした。こしあんの感触の中から、異物を発見して、俺はほくそ笑み、口の中からその異物を取り出した。
「おお、すごくないけど結構凄い」
「これでも《宿命の狙撃手》って二つ名があったんだぜ」
「なんですかその絶妙なダサさは」
「え、かっこいいじゃん宿命の狙撃手……」
「先輩のセンスは小学生で止まってますよね」
「地味に傷ついた……まあいいや、どうよ婆さん、当たりでたぜ」
皺と白髪だけで構成されたような婆さんは、面倒くさそうに俺の顔と白玉を見比べてから、ハッと何かに気がついたような表情をしたあと、烈火のごとく怒鳴り始めた。
「お前! あの時のクソガキか!」
「え」
「テメエのせいであんこ玉仕入れるたびにこっちは赤字になってたんだ! 金要らねえからさっさとうせろ! その不愉快な面をあたしの視界に二度と見せるんじゃねえ!」
ババアに蹴りだされて、俺と中村さんは駄菓子屋を離れた。なんてこった。かれこれ20年近くまえの話だっていうのに、まだあのババア覚えていやがった。年寄りは妙なことばっかり覚えていて困る。
「駄菓子タダでもらっちゃいましたね《運命の狙撃手》さん」
「《宿命の狙撃手》だって……まあいいや、食費一回分浮いた」
「え、あんこ玉一つで昼を済ませる気なんですか」
「そのつもりだけど?」
「呆れました。栄養失調で死んでも知りませんよ?」
「俺が死んでも悲しむ人なんて殆どいねえよ」
また無言のローキックが炸裂した。すっごい痛かった。
「キッチン貸して下さい。なんか作ってあげますから」
「食材殆ど無いけどな」
「パンの耳と砂糖があるでしょう。あれでお菓子作ってあげますよ」
「マジでっ! ってだからなんで俺の家にある食材をお前は知ってるんだよ!」
前を歩いていた中村さんは、くるりと振り返り、人差し指を唇に当てながら笑った。
「先輩のことなんて、いつだってお見通しです」
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