幼児の異世界二日目~森の外に出てみました☆
そして、再び翌朝。朝ごはんのマンゴーもどきを食べてから再び、私は透明なバリアを破るべく、端から端までじっくりと検分する。きっと、どこかに抜け穴とかあるかもしれない。
キツネさんは、朝からふらっとどこかへ行ってしまった。キツネは通れるのに、私は通れないって、ナニソレ? なんでだ。
「あ、あった!」
ほんの少しだけ、空間がよじれている個所があった。蜃気楼のような限りなく透明で見えない何か。
そこに手を突っ込むと、手が透明な壁を突き抜ける。きっとキツネさんはここを通って出て行ったんだね。
「よし、いくじょ!」
ハイハイの姿勢でその穴のようなものに頭を突っ込むと、突っかかりながらもなんとか通り過ぎることができた。
額の汗を軽く拭うと、今度は、さて、どこに行こうかと悩みながらあたりを見渡す。だってね、鬱蒼とした森に囲まれていて道なんかないんだもん。
洞窟の前の広場から森へ続く獣道のようなものをのぞき込む。よちよち歩きがまだままならないので、少しずつ用心しながらあたりを伺う。どうやら、魔物とかはいなさそう。
ちょっとだけほっとしたものの、この道がどこにつながっているのかもわからず、道の向こう側は鬱蒼とした深い森の奥に続いていて、なんだかちょっと怖い。
「あー、これがとなりのむらまでつづいてたらいいにょに」
そう呟いた瞬間、私は突然起きた現象に唖然となった。
「みちがひらいてりゅ……」
深々と獣道を覆っていた木々や高く茂っていた雑草がさっと開いて、目の前に現れたのは一本の道。木の枝に覆われていた空も明るく見通せる。
なんでだ? この森には何かマジックでもあるんだろうか。
おそるおそる道に入っていく。そして、歩くこと20分くらいだろうか。なんと、本当に村のはずれまで出てこれてしまったのだ。
遠くに町のようなものが見えるけど、今いるのは丘陵地帯で、平原に囲まれた場所。
森の終わりには川が流れていて、そこに小さな木の橋が架かっていた。
人に助けを求められるかもしれない!
そう期待して走りだそうとした瞬間、ふとした考えが頭をよぎった。
ここは異世界。もしかして、人さらいとか、強盗とか、そういうものもいるかもしれない。
そう、時と場合によっては、人間のほうが危険だったりすることもあるのだ。
誰もいないことを確認して、そろそろと小さな橋が架かっている小川に近づく。
そういえば、水をまだ一滴も飲んでいないのだった。
川の傍に行き、澄んだ水を手ですくおうと水面をのぞき込んだ時に自分らしき姿が映った。
淡い金髪に、紫色の瞳。
天使かと見まごうばかりの容貌に、一番仰天したのは何を隠そう私である。
川にうつった顔が、目をまん丸くしてびっくりした顔で見つめ返していた。
前世(?)の自分は標準的な日本人顔だったからね。
喜んでいいのか悲しむべきなのか。こちらの異世界はもしかしてイケメン、美女ぞろいなんだろうか。もし、自分の容姿が秀でたものなら、さらに人さらいにあう確率が高くなる。
それはとにかく、ともかく水だ!
水はとてもきれいで飲んでも大丈夫そうだったので、冷たい川の水をすくって口元に運ぶ。
喉を流れる冷たい水が気持ちいい。
きりっと冷えたミネラルウォーターである。これだけ質のよい水があるとすると、もしかしたら食べ物とかも美味しいのかもしれない。ほら、水がきれいだと色々作れるじゃない? ビールとか、蕎麦とか、お酒とか。
もう少し水を飲もうとして、片足を川に突っ込んで濡れてしまったのはご愛敬。
そうして、水を堪能した後、もう少し先に進むことにした。橋の先には村はずれの一軒家らしきものがあって、その横を流れる川には水車があった。
昔話によく出てくるようなレンガ造りの家だ。
その家の庭先には洗濯ものが干してあった。洋服を見る限り、どうやらお年寄りが住んでるみたい……。
家の傍の大きな影に隠れてこっそりと様子を伺っていると、突然、背後から大きな声が聞こえた。
「あれまあ、なんて小さな子がこんな所にいるかね」
慌てて振り向くと、そこには白髪のお婆ちゃんが立っていた。こっそり隠れた意味がありませんでしたね(笑
「えへへ……」
でも、悪い人ではなさそうなので、とりあえず、愛想笑いをうかべておいた。この世界の情報をもうちょっとほしい所だし。
「あんた、道にでも迷ったのかい? お母さんはどこだい?」
老婆は優しく笑って、少し腰を落としてくれた。
「うん、えっとね、向こうのほうにいりゅ」
本当はいないんだけどね。保護者がいないと知られたら連れ去られそうだし。
「そうかい? それで、あらまあ、びしょぬれじゃないかい」
そうかな?と思い、自分の服を見ると、さっき川に片足を突っ込んだ時に、ズボンのすそが濡れてしまっていた。
まあすぐ乾くしな、と思っていたら、お婆ちゃんに手をつながれてしまった。
「家に着替えがあるから、ちょっとおいで」
一瞬、大丈夫かなと思ったけど、善良な村人っぽかったのでおとなしくついてく。
「それで、あんた名前は?」
「エリシュって言いまちゅ」
「エリスかい? いい名前だねえ」
お婆ちゃんの名前はエルマさんっていうのだそうだ。
エルマさんの家の中には、レンガでできた暖炉を囲んで、テーブルやら椅子やら、本当にカウントリー調のおうちでした。
結局、エルマさんに濡れた体を拭いてもらい、暖かいココアとハムの入ったサンドイッチを食べさせてもらった。色々と聞かれたけど、都合が悪いことは全部、「わかんにゃい」と幼児のフリをしてやり過ごす。
結局、両親と一緒に旅をしていて、この村にしばらく滞在するということになり、ちょっと一人でお散歩に抜け出たという設定で納得してもらった。
そうして半時ほどたって、もうそろそろ帰ろうかなという雰囲気になった所で、私は椅子から下りた。
「もうかえりましゅ」
「そうかい。また遊びにおいで」
「ありがと。エルマおばあちゃま」
お礼は大切よね。そういうと、エルマさんはさらにニコニコして頭を撫でてくれた。
「お行儀のいい子だね。あ、そうだ。ちょっと待ってて」
エルマさんはそう言うとキッチンに入り、戻ってきた時には、紙袋を手にしていた。
「ほら、お菓子。昨日ね、たまたま沢山焼いたんで余ってたんだよ」
「わあ、ありがと!」
目をキラキラさせながら受け取ると、エルマさんはまたニコニコと笑う。
そうして、エルマさんと別れて、再び橋を渡り森に向かうと、洞窟につながる一本道にまで戻る。
「あ、キツネしゃん」
森の入口から出てきたのは、洞窟の銀キツネさん。
お迎えに来てくれたのかなと思っていると、キツネさんは何故か怒っているみたいだった。
「キュン、キュン!」
なんだか怒っているような声で、速攻で子猫をぶら下げるように襟元を咥えられ、その背に乗せられた。
そして、あっと言う間に、洞窟へ連れて帰られてしまった。
思ったより長くいたみたいで、洞窟にはまた焚火がたかれており、あっという間にキツネさんのもふもふに包まれてしまった。
とはいえ、キツネさんが激オコのようなので、目を合わせず、静かに過ごそう……。
「きょうはぼうけんしたでちゅ」
そう言っても、キツネさんの機嫌は超絶悪い。
キツネにどう怒られるかわからないけれど、私はひたすらびくびくしながら過ごす羽目になったのである。




