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幼児の異世界一日目

「ふんぬっ。ふんっ。ぬぅぅぅ……」


洞窟を出てすぐのこと。何か、透明の壁のようなものがあって、そこから先に進むことができなかった。仕方がないので、幼児の力技(?)で、その壁もどきみたいなものを力いっぱい押してみた。


洞窟の前は少し大きめの広場のようになっていて、その周りを鬱蒼とした森が取り囲んでいる。


透明な壁はその広場をぐるりと取り囲んでいて、そこから先に進めないじゃないかっ。


おのれ、幼児の根性を甘く見るなよっ。


そう思いつつ、壁と対決してはや半刻程度。


あきらめました。(はやっ)


幼児の体力ではそれが限界。でも、幼児なんだもん。仕方ないじゃん。


洞窟の外にあったちょうどいいサイズの石に腰掛け、はあはあと荒く息をしながら、肩を落とす。


その間にも、空腹な腹の虫はしつこく鳴き続け……。


見たことのない異世界、知らない場所、そしてここから出られない、という三拍子の中、さすがの私もしょんぼりと肩を落とす。


今日はもうこのままご飯抜きなのだろうか。


そんな悲観的な気持ちになっていると、背中を後ろからツンツンと何かが触れる。


「ふえ?」


そこには、例の銀キツネさんがいた。そして、キツネさんが加えているものはなんと果物!


私の目の前に回って、キツネさんは果物をぽとりと地面に落とした。それは、大き目なマンゴーのような鮮やかなオレンジ色をしていて、見るからに美味しそう。


条件反射的に湧き出た唾をゴクリと飲み込んで、おそるおそる果物に手を伸ばすと、キツネさんはいいんだよ、という風に頷いて、鼻先でずいっとマンゴーもどきを私に差し出してきた。


「いいの? ありあと」


幼児らしいあどけない声で礼を言うと、キツネさんはぷいと洞窟の中に戻って行ってしまった。


まあとにかく。


「マンゴーげっとぉ!」


嬉しそうに声高く叫んでから、さっそく、マンゴーの皮を手でむいて、ジューシーな果肉にパクリとかぶりつく。


「ふわあぁぁ、おいちい」


マンゴーもどきに食らいついた瞬間、口の中に溢れる甘くて爽やかな果汁。 柔らかくて、ジュースたっぷりな果物に夢中になって食べる。


幼児の小さな体には、もうそれで十分。


思いっきり堪能して、もう一度、洞窟の中のキツネさんに礼を言おうと振り返ると、なんとそこには、マンゴーもどきが何個か積み上げられていたのだ。


キツネさんが気を利かせてもってきてくれたのだろうか?


「ありあと。あとキツネしゃんもたべりゅ?」


自分だけマンゴーもどきを堪能するのも悪いと思って聞いてみると、キツネさんは気難しそうな顔で、ぷいっと横を向いた。


つまりこれは。


キツネさんは、自分のためにマンゴーを取ってきてくれたわけで。


その後、もう一度、透明な壁に挑戦してみたけれど、どうしても外に出られなかった。

そうこうしている間に、太陽がどんどんと西に傾き、夕方になってくる。


果物のおかげだろうか。ちっとも喉も乾かず、お腹も空かないけど、夜ごはんもお腹がすいたらマンゴーもどきかあ。


日が暮れてきて、だんだんと気温が下がってくる。夜はどのくらい冷えるのだろうか。異世界だから夜は氷点下とかになったらどうしよう。 着の身着のままで、幼児のような頼りない体でそんな気温に耐えられるのだろうか。


そんな憂鬱か気持ちになるものの、もう洞窟に戻るという選択肢しかない。魔物とかでたらどうしよう。そんな風な気持ちで洞窟に入ると、あれあれ、なんか暖かい。


ふと視線を向けた先にはなんと、焚火が!


もしかして、これもキツネさんが?!


驚いてキツネさんを見ると、地面に寝そべっていた。キツネさんの目がこっちに来いと言っている。やっぱりキツネさんが焚火を作ってくれたんだね。


その猫のような手でどう焚火をしたのかは謎だけど、まあ、他にすることもないし、キツネさんのモフモフは魅力的だ。


一緒に地面に座ると、キツネさんがクッションの背もたれみたいに寄り添ってくれた。天然の毛皮とお布団が一緒になったような感覚。


「ふふ、あたたかい」


まるで親キツネかのように、そっと包み込まれる感覚。


目の前にはパチパチと優しくはぜる焚火。 洞窟の入口での焚火だから、一酸化炭素中毒とかは大丈夫だろう。


火には心を落ち着かせる作用があるとか聞いたことがあるけど、本当かも。


ゆらゆらと燃える火とキツネさんのあったかいモフモフに包まれてしまったら、幼児ができることはもう一つしかない。


「おやしゅみなしゃい」


私は誰にともなく呟くと、そのまま目を閉じて、ゆっくりと心地よい眠りへと落ちていった。


こうして、私の異世界初日はこんな風に幕を落としたのである。


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