恋心を聞いた
今回少々短いです。
「やっぱり……好きなんですよ」
酔っ払ったトモキが船をこぎながらうわごとのように繰り返す。飲みすぎだ。
「遅かったわね」
おなじことを考えていたミサトがお冷やの入ったグラスをトモキにわたす。聞いているこちらまで切なくなる語りに聞き入ってしまい止めに入るのが遅れてしまった。
「終電もうそろそろだぞ」
「そうね、お会計して来る」
ミサトが財布をもって席を立つ。ミサトはこういうときのご飯代を人にださせるのを嫌う。自分のやっていることの後ろめたさなのか、律儀に俺の分も払っている。すべて払わせるのは俺も気持ちが悪い。ターゲット接触前の必要経費は俺が持つと言い張って決まったことだった。
「トモキくん大丈夫か?」
お冷やを飲んだトモキに声をかける。うなり声のような返事が返ってきてダメだなと察する。
「支払ってきたけど、トモキくんどう?」
「無理そうだな。うち連れていく」
「そうね、ここから近いし」
ミサトの返事を聞いてトモキを担ぐ。荷物はミサトに持ってもらった。
店を出てひんやりとした風で酔いを覚ましながら歩く。
「どうだ? 今回は」
「いいのがかけそうよ」
「そうか」
俺の家の最寄り駅はここから3駅、ミサトはその一駅先だ。終電一本前に乗ることができて、トモキを座席に座らせる。
「いつ書き上がるんだ」
「来週にはあらかた書き上げたいわね」
書き上がったらまた持っていく。ミサトがそう続けたので、黙って頷いた。
互いに黙ってしまって、外を見た。鏡のようになったガラスを通してミサトを見ると、もうネタを組みはじめているようでこちらを気にする様子もなく真剣な表情だった。
電車内のアナウンスが最寄り駅への到着を告げる。
「じゃあ、またな。下りそこねるなよ」
一声かけて、電車を下りる。ミサトは黙って頷いてまたミサトの世界に行ってしまった。
今日も、あいつはメグミのあるかもしれなかった未来を夢見て、小説を書くのだろう。