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9 地味女の噂話

エリスは、頬を赤らめながらも、語りました。



昨日の事です。

お裁縫の教室で、授業が終わった後、私は当番で、準備室片付けや掃除をしておりました。

イライザは、いつもの取り巻きと一緒に、菓子を取り出して、放課後のお喋りを裁縫室で始めましたの。

その話題が、

ビアンカ様の事でした。


(どうして、身体が、その

良いなんて、聞き出しましたの?)

秘密の匂いに、取り巻きの声が裏帰りました。


(ふふ。

こないだ兄とあの女が家に来てね。私の居ない時だったから、直ではないのだけれど、父が、ね)


そこから、イライザは、前のめりに、

(ビアンカ、という言葉が父の部屋から漏れ聞こえたので、私、思わず続きの部屋から、盗み聞きしちゃった。

父は、執事と話してたみたい。


父はね、

『エイブラハムが喜んでおった。

ビアンカは、あの顔からは信じられない程の妖艶な女だそうだ。

陶器の肌に、王宮の天井画の女神もかくや、という肢体。

今まで、あれほどの女性には、出会ったことが無い、と。


おまけに、凡庸でなく、毎回、何かしら工夫して誘惑してくれる、と。

あの手この手に、

息子は、メロメロらしい。


いやあ〜、昼間のアレは、頭の良い真面目で口数の少ない女だったが、夜も優れておるとは、な!

こりゃ、孫の顔は、早くに拝めそうだ。

エイブラハムは、よい選択をした!』


なんて、言ってて。

男同志って、(ねや)の自慢なんてするのね!)


そんな事を恥ずかしげもなく、つらつらと言うのです!

そして、


(案外、あの女、器量じゃ、どうなもならないから、結婚前から、あれこれ()()()してたんじゃなあい?

高級娼館あたりでさあ〜

何人喰ってきたのかしら!)


そんなイライザの言葉に、周りが、きゃぁっ、と黄色い声を上げました。


余りの酷い言葉に、私は準備室の戸口から、イライザを睨みつけました。

そこでようやく、自分たちだけではないこと、そして、私が侯爵家の婚約者であることを思い出した取り巻きが、


(い、いやぁね、イライザ様。

冗談が過ぎますわ。

さっ、参りましょ)

と、誤魔化そうとしましたが、当のイライザは、

(あら、エリス様。

人の話を盗み聞き?大したものね)

と、開き直るので、


(……私は当番として、居るべき場所にいるのですわ。

貴女こそ、お父様の話を盗み聞きして、それを吹聴なさるなんて。

お父様やお兄様を辱めているとは、お分かりになりませんの?)

と、やり返しましたの。


(どの口が仰るの!

私は名門公爵家の一人娘よ!

あんたなんか、明日から、誰一人見向きもされないように出来るんですからね!)

と、言ってきましたが、


取り巻きは、

(イライザ様。

エリス様は……)

(エリス様。

戯言ですから、どうか、お忘れになってね。

淑女の噂話にしては、不似合いでしたわ……)

と、取り成しに必死でした。


喚くイライザを引き連れて、退室しましたので、言い合いはそこまででしたけれど、

私、打ち負かす事ができなかったのが、悔しくて悔しくて……




そう言って涙ぐむエリスの隣で、ちい兄様が、

ぐにゃ

と、ティースプーンを曲げました。


ちい兄様!

公爵家の家紋入りです、そのスプーン!


「教えて下さって、そして、私のために争って下さって、ありがとう、エリス様」

私は礼を述べて、エマに、ちい兄様の前から、茶器を遠ざけさせました。


これ以上の被害が、出ないように。


「いくら馬鹿なあの子でも、男子生徒のいる中では、あんな事言えないと思います。

でも、女って」


そうよねー。

今頃、彼女のお取り巻きは、お家で姉妹や母娘で、

〈公爵家の地味嫁は、ああ見えて床上手〉

なあんて話をヒソヒソやらかしてるでしょうね。


「……大体、エイブラハムは、何を考えてるんだ。

父親と言えど、妻のことをペラペラと!」


あーさすがエマ。

ちい兄様の拳がテーブルを叩く前に、さっとクッションを差し入れたわね。

マホガニーの一枚板を傷つけさせるもんですか。


「エイブは、少し、天然なんですわ……」

悪気はなかったんでしょうね。

自分が驚いたから、嬉しいから、

誰かに言いたかったんでしょうね。

父親なら、と、思ったんだろうけど、妹の行儀がなってないから。


「この件、もしも、サロンや宮廷で私たちの耳に入ったら、

その時点で、エイブラハムに厳重注意する。

いいよね、ビアンカ」


そう言って、ちい兄様は、エリスを送っていくとお帰りになりました。


ちい兄様。


腐ってもこのビアンカ、ただの地味女ではございません。

名誉回復を図ってご覧に入れましょう。


「エマ」

「承知しました」


私は、お戻りになったエイブに、

「茶会を開きたい」

と、申しました。


「鵜の目鷹の目の客が、順番にいらっしゃるのも、少々疲れました」


「成程。

君のおかげで、別邸はどんどん整えられているし、いいんじゃないか。

…あ、その」


エイブは少し言い淀んでから、

「母には?」

と、言いました。


「?」

「ほら、その、ロックフォード流があるようなんだが」


えっ?

茶会開催に、姑の意見を求めなさい、と?


私は、遠慮がちに返事を待つエイブに、

「……分かりました。

お義母様に、ご指導いただきますわ」

と、告げました。

明らかに、エイブは、ほっとしています。


成程。

普段はともかく、客を招く場については、義母を立てろと。

そして、茶会は、義母の監視つきで開催しろと。


まあ、社交界での実績がない私です。初回くらいは、ご意見承りましょうか……。


しかし、この時の違和感は、

後で合点がいくのです。






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