8 地味女にお客様
アツアツの3日間が終わり、
エイブは、朝出勤、夕刻帰宅、というルーティンの日々と、なりました。
エラント国の宮務は、王家王宮内の様々な仕事が集まります。
それで、夫は、陛下や王妃殿下が執務なさる前に、ひと仕事があるそうで、割と貴族にしては、早めの出勤となります。
「行ってらっしゃいませ」
エイブのお見送りを終えますと、私は、午前中はタウンゼントと共に、経理を検討いたします。
お昼は、簡単に済ませます。
でないと、体型維持ができませんもの。
それと言うのも、午後は、どなたかのお宅を訪問するか、客が訪ねてくるか、その毎日だからです。
そして、アフタヌーンティーでもてなし、もてなされ、甘い菓子とお茶を頂くからです。
新婚もそろそろ落ち着くか、
と、遠慮していた方々が、
(公爵家嫡男と地味女の結婚生活や、如何にっ!)
と、興味津々なのです。
無論、母屋には、一番に訪問しましたとも。
その代わり、エイブと一緒に。
エイブがいるので、公爵閣下も在宅でしたわ。
夫の目があるので、流石に夫人は、直接のイビリや嫌味はできませんでした。良かった良かった。
学校があるので、イライザも不在でした。良かった良かった!
公爵閣下は、エイブが私を誉めるので、改めて私に関心をおもちになったようでした。
少しばかり、財務について、勉強させて頂きたいと、お伝えしましたら、とても喜んで下さいました。
お陰で、本来なら夫人と、女の会話をすべき所、公爵と夫が、私と共に、領地の話で盛り上がってしまったのです。
入り込む隙のない夫人は、作り笑いにひくついておりました。
なんであれ、義理は果たしました。
よっしゃ、ノルマ、OK!
翌日からは、
社交界の女帝と名だたるエスメ侯爵夫人
(お持たせが気が利くと、お悦び頂きました!)
数少ない、私の女友達
(たっぷり惚気けて、羨ましがらせました)
新たに親戚となった、公爵家縁者のご婦人方
(馴れ初めだの、実家の侯爵家だの……
でも、実際は、まだ婚約していない長兄と中兄様のことを根掘り葉掘り)
が、ご訪問。
無論、新婚家庭を覗きに、色んな方々に、ご訪問頂いてもおります。
そのため、姑に指摘された応接室は、リペアが終わった家具から順に、配置を考えて置き直しました。
庭も、なにやら無計画に植え付けてありましたので、庭師と、長く楽しめるよう、植物の配置を決めて、少しずつ改造しています。
厨房や使用人の仕事場がある地下と半地下の湿気が凄いので、大工と左官に改修をしてもらっています。
それらの出金は、夫には遠慮があって、私の持参金でまかないました。
そして、毎日、直に見て確認が必要なので、結構慌ただしいのです。
今日も、左官に漆喰の相談を受けておりますと、ちい兄様と、婚約者のエリス伯爵令嬢の訪れがあると、タウンゼントが告げました。
わあ。初めての実家家族の来訪です!
「ビアンカ〜〜
元気か大事ないか病はないか泣いていないか辛くないか?」
ちい兄様……どこで返事すれば宜しいのですか。
今!ちい兄様が抱きつくせいで、窒息しそうです!
クスクス笑うエリスが言います。
「ビアンカ様に息をさせて下さいな、アラン様」
はい。ちい兄様はアランと言います。
ちなみに中兄様は、アンガス。
アレックス兄様を頭に、みんなAから始まるので、ややこしいから、私は順番に兄様とお呼びしています。
ちい兄様は、ようやく私を離して下さいました。
それで、綺麗な礼をして、
「改めてごきげんよう。
息災にしております、ちい兄様」
と、ご挨拶すると、
やっぱり、ちい兄様は涙ぐんでおりました。
エリスは、制服です。
学校が引けて、こちらに直行したのですね。
エリスは、ちい兄様と2年前に婚約しました。
行く行く、ちい兄様がエリスの家に婿入りする予定です。
結構モテるちい兄様が、エリスに決めたのは、
(私がビアンカを最優先しても、ヤキモチを妬かない女性だから)
でした。
顔合わせの場で、確かにエリスは、地味女の私を色眼鏡で判断せず、丁寧に接してくれました。
同い年のイライザとは、月とスッポン。ちい兄様のご慧眼には、恐れ入ります。
今も、別邸の修繕について、あれこれエリスが尋ねますので、応えておりました。行く行く伯爵夫人として、切り盛りする気マンマンです。
頼もしい未来の兄嫁です。
「君は頑張りすぎるから、程々にね。
ビアンカ、公爵家の女衆から、浮き上がらないようにね」
ちい兄様のご指摘は、いつも真っ当です。
確かに。
今度、夫人をお茶にお招きして、ゴマを擦った方が、宜しいかしら。
「それなんですが」
エリスが、少し言いにくそうに、切り出しました。
「同じクラスのイライザ・ロックフォードですけれど……
ビアンカ様の事を面白おかしく友人に吹聴していて、目に余るのです」
「……陰気な醜女だと、か?」
私は、まーあのガキなら、いろいろやらかすでしょうね、と、おもいました。
「それだけなら……」と、苛立ちを押し殺すエリスに、ちい兄様が、真顔で、
「言ってごらん、エリス。
ビアンカは、先程の事聞いても動じる女ではないよ、大丈夫」
と、後押しをします。
どうやら、馬車で訴えたエリスの話を聞いて、ちい兄様は、こちらに急な訪問をした、と。こういう
事ですかね。
エリスは、ギュッと自分の両手を握って、話し出しました。
「その……イライザは、
『兄嫁なんて、顔ではどうにもならないから、身体で兄を落としたのよ。
男なんて、簡単ね!あの女、そこそこいい身体してるんだって〜
』などと……」
は?
その「だって〜」は、どこから?
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めっちゃ嬉しい。