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73 され妻ビアンカのこれから(大団円)

長い間お付き合い下さってありがとうございました。

今回、ラストです。


ちょっと、長いですっ。

「で、どうして、ここにいらっしゃるのですか?」


エリスがバスケットいっぱいのクッキーを抱えて、別邸にやって来ました。


エラントも、季節はもう、春。


卒業パーティ間近のエリスなのに、先触れもそこそこに、駆けつけたという感じでした。


「てっきり、私、ビアンカ様は北の国の王妃になって、もう、お戻りにならないものと。

アラン様を慰めるのに、どれほど苦労したことか……」


うん。

そうよねえー。

普通は、

(こうして王子様とお姫様は、

幸せに暮らしました、とさ

めでたし めでたし)


だわよね!


私は私室のカウチにへにゃ〜と横たわって、旅の疲れを癒していました。


あ〜いいわぁ。

楽ちんドレスに、素足。

大きなクッションを抱えて、

大好きな紅茶。

流行りの小説。

癒しのオルゴール。


裁判以来、

怒涛の如く、私の人生は波乱万丈で、目まぐるしかったですからね!

こうして、ぼっちでグダグダするのも、悪くありませんでした。


「……まだ、一週間くらいは内緒にしておいてね。私が帰国してること」


エリスは、コクコク頷いて、

「では、仔細を」

と、香ばしいクッキーのバスケットをテーブルに置きました。


はいはい。


あれから。


気を失った私を片腕に抱いたイングヴァルドと

スタッフの四人組が

(ちゃんと女神の随行者として、あちらの衣装を身につけていたんですよぉ)

ガバッと、御帳台を開いて、

中が空っぽだということを公開。


『教主様!

女神を騙そうと?』

『なんということを!

神々の怒りを何とする!』


と、騒ぎたて、

教主様、アワアワ。

民衆、激おこ。


教主様と神官 ドナドナ。



そして、私がぐったりしているのを利用しやがって、イングヴァルドが、


『……オムルの民よ。

この女から、メーディア様が離れられるそうだ』


と、宣言しました。


すかさず四人組。

『おお!女神が戻られる』


『神々が選んだ統治者を

メーディア様がお示しになり、

お役目を終えられたのだ!』


憑坐(よりまし)から、離れられて、天に戻られるのねっ!』

『『メーディア様〜

メーディア様〜』』


と、何とも言えない芝居で、天を仰いで

民衆の群集心理を煽って、

みんなで合唱。


メーディアさまー

感謝いたしますー

メーディアさま〜〜♪


その間にイングヴァルドは、私を四人組に、ポイ。

陶酔状態の民衆の前で、

海軍総帥と、帝国将軍が、

イングヴァルドに跪いて、


『新しき王に、全力で貴方を推挙いたします』

「皇帝陛下からも、委任されております。

共に軍事政権を倒しましょう」


と、誓われました。


それからは、暫定政権など、脆いものです。

なんたって、正義は彼にあるんですからね。

あっという間に、王宮を奪還し、

政権崩壊。

陸軍幹部は逮捕。

司法局を復活させ、現法律のもと裁きを行う事となったそうです。


あ、神殿庁は、内部からの告発で、大きな人事交代となりました。


病の国王と、軟禁状態だった王家一族も、王宮に戻られ、

実権は、イングヴァルドが握りつつも、国王の復権をまず国内外に知らしめました。


まだ、イングヴァルドは、王太子にもなっておりませんでしたので、

第一王子の葬儀を執り行い、彼の服喪期間を過ぎたら、即、立太子する手筈と、なりました。


え?

私?


私は、放ったらかしですよ!


四人組に、帝国軍の拠点地に運ばれて、医者に、絶対安静を言い渡され、寝込んでましたよ!


知恵熱に違いありません。

女神になってる間に、私ったら、マトモな食事も出来てなくって、

(神様がパクパク喰ってるのも変だし。

行軍の間、スプラッタも見たし)

ゲッソリ痩せたんですよ。


ただのビアンカに、強制的に戻され、いえ、

戻ったのは、良かったんですけど。


『エラントで待て。

機が熟したら、迎えに行く』


という、紙切れで、

私はドナドナですよっ!


帰りは、将軍は、とおっても、優しくて、


『いやぁ〜ビアンカ様がオムルを救ったのですよぉ〜〜

お疲れお疲れ』

と、チヤホヤ甘やかして下さいましたが、


後で聞いたら、彼に振られたと思ってたんですって!

で、あわよくば♡と、思ってたんですって!


くそぉ、世の中すけべ親父しか、居ないのかい。


帝国に戻った私は、皇帝陛下にご報告と御礼を致しました。

そして、アストリア市と港の移譲の契約を申し出ました。


約束ですからね。


けれど、

「こんなに上手くやるとは、思ってなくてな!

そなたが失敗したら、直ぐ将軍が帝国軍で制圧するつもりだった。

いやぁ、そなたも王子も、強運の持ち主だよなぁ〜

そんな、運に恵まれたそなたの財布を受け取る訳には、いかん」


と、太っ腹な事をおっしゃいますので、

『……対価に、何をご所望ですか』

と、申し上げると、


皇帝陛下は、ニヤ、と例の笑みを浮かべて、

『どの道、そなたか彼奴が、オムルに眠る資源や産物を外貨稼ぎにするだろう?

そうさな、5年ばかりは、帝国との契約優先と関税優位を宜しく』



……オヤジにしては、お優しいこと、と思ったら、


『北の国の周辺は、帝国が手を出し難い小国が点在している。

東方の大国が、狙っているとの動きがあるのでな。

ここはオムルが防波堤となるのを期待したいな』


と、オムルに北方諸国を束ねて、帝国と友好を結んで、東方を牽制する立場を明確にしろって、さ。


タヌキ〜〜


『……私はまだイングヴァルドの妻ではありませんわ』

と申し上げると、


『アレが、そなたを放っておくはずが無い』


と、お優しいことをおっしゃいました。


それで、私はシンシア貴妃

(可憐な方でした。

すけべ親父が溺愛するのも、当たり前って感じ)

に謁見し、お祝いを述べて、


帰ってきたんです!

祖国に!


その旅程は、オムルを出立してから、二ヶ月ばかり。

実にエラントから出て、

半年が過ぎていました。


父は一気に老け、

アレックスは二人の兄に責められ、

可哀想なことになってました。


んで。

父をたぁッぷり、ヨシヨシし、

兄をこれでもか!とシロップ漬けにし、

今、

やっと別邸に戻れたのですよ。



「……一代記書いたら、飛ぶように売れますわよ。

ビアンカ様ほど、波乱万丈な方、お目にかかったことも読んだことも、ございません」


ま、エリスは若いから。

学生だったから。

結構、凄い人生の方っているのよ。

でも。


「……自分の人生は、自分が求めた方向に邁進するわ。

しがらみも、女に生まれた足枷も、利点にして、

生きていきたいの」


エリスは、そんな私に、


「ビアンカ様。

何だか、以前より……」

「前より、なあに?」


それに対してエリスは、答えませんでした。

そして


「……イングヴァルド様は」

「彼は、彼の義務があるわ。

今の彼は、前よりずっと公人ですもの」


「……ご不安は、ありませんか」


「ないと言ったら、嘘になるわね……でも、彼の隣に立つなら、それに相応しい人間になりたいの。

そのためには、私は今、オムルにいる訳にはいかないのだと、

彼が考えたのでしょう」


なんて、もっともらしいこと、すらすら言ってるけど、


要は!

アイツ!イングヴァルドが悪いのよ!


神殿で、女神の私に

『我が妃』

なんてプロポーズしやがるから、

世間は


〈次代の王は、女神と婚姻を結んだ〉

って、なっちゃったのよ!

童貞王かいっ。


生身の私は、どうすんのよぉ。


……という訳で、私は、アストリアの経営に邁進し、別邸と一週間ごとに往復し、


ミュリ王女の教育係をタンザナイトが満ちるまで努めて…

あ、

イングヴァルドがオムルの王太子になっちゃったので、あの話は立ち消え。

王太后様も陛下も、双方瑕疵がない成り行きに、私は、安堵しましたよ。


王女は、

外つ国に行かれました。

(そなたと共に行きたかった。

オムルの妃では、仕方がない。

立太子式には、来てくれ)

王女は、微笑みを称えて、去りました。


アラン兄様も、卒業したエリスと結婚。

アンガス兄様は、昇進を機に、家を買い求めました。


アレックス兄様には、なんと、

ライラ・エミリオ公爵令嬢との縁談が!


(あのビアンカ様がお義姉様で、

エリスと義姉妹になれるなんて、サイコー!)

という、男前アレックスを置き去りにしたライラの喜びようだそうです。


ま、エミリオ家のご令嬢なら、これ程の良縁はございません。ライラの明るさは、アレックスを癒すのではないでしょうか。


てな風に、世間は動き流れ、


……3年ですよ!

赤ん坊が子馬に乗せて貰えるくらい成長しちゃいますよ!


と、ぶーたれてたら、

国王陛下からのお呼び出し。


……何でしょう?ミュリ王女の立太子の件?


「……アイツが、遂に王になるそうだよ」


国王陛下は、言いにくそうにおっしゃいました。


イングヴァルドが王に。

じゃあ、父王は……


「昨日、亡くなられた。

国葬は来週で、その儀式の後に、

戴冠式を執り行うとの事だ」


戴冠式。いよいよ。


「……陛下も参列なさるのですか?」

「何を言ってんの?

私は、君をお連れするんだよ」


へ?


「オムルの次期王妃の輿入れだよ。私が同行して遜色ないだろう?

もちろん君の父上も連れていくよ」


あ、と、そのー。


「イングヴァルドからは、何と?」


アイツ迎えに来るって言ったじゃん!

何、俺様してんのよっ、3年も、ほっといて。


ジェイ陛下は、イタズラな表情で、


「アイツの注文は、聞いてるよ。

ビアンカ。

また、一芝居となるけど、いいよね?」


いいよね?

って、何が?




そして。


オムルに荘厳な鐘が鳴り響き、

喪中のイングヴァルドは、それでも、黒衣に金銀の豪華な刺繍のケープを引き、現れました。


国賓が両側にずらりと居並ぶさまは、壮観です。

帝国の皇帝陛下すら、今日は左脇にお座りになっています。

正面奥、神々の玉座の前に待つ、新しい教主様。

その近くまで、イングヴァルドは、中央を進み、止まります。


そして、扉から、私が父上と、登場。


神殿は、一瞬ざわっ、としました。


だって、私は、再びの地味女。

髪をベールで隠し、前髪を深く垂らしてそこに眼鏡。

純白のケープは身体を隠していて、素っ気ないほどのシンプルさ。


流石、国賓ともなると、表情は一切変えず、美しい王に並んだ新婦のちぐはぐさを黙殺なさってます。

しかし、オムルの人々は、明らかに不審不満を顕にしてました。


ニヤニヤしてるのは、皇帝陛下と、

ジェイ陛下だけでした。


いや

一番ニヤついてるのは、目の前のこの男かもしれません。


二度目とはいえ、それなりの緊張で、私たちの挙式は終わりました。

後は、バルコニーから、お披露目です。


今か今かと待ちわびる民衆は、

バルコニーに立つ私たちを見て、わあっ!と、歓声を上げたあと、


(((……ん?)))


と、誰もが喉の奥に言いたい言葉を飲み込みました。

そりゃあそうでしょう。

この美丈夫が娶った女が、

これ程、野暮ったければ!


しかし。


『やっと、私の元に来たな、ビアンカ』

イングヴァルドは、満面の笑み。


『別にこのままで、いいぞ。

変な輩に、また絡まれると、

おちおち国政に走り回る気になれない』


『バカ言ってないで、童貞王から卒業してよね』


そうなんですよ。


神殿庁と一部の人々は、いまだ

イングヴァルドはメーディア神を妻にした、

と固く信じているんですから。

生身の結婚に、反対している人々がいるんですから。


『では、そうしよう』


彼は、嬉しそうに、私の頭にティアラを付け、そのついでのように、前髪を上げてくれました。

そして、


ゆっくりと、ゆっくりと、

ロイヤルキスをいたしました。


と、


『『『おお!』』』



頭のベールが剥がれ落ち、

肩のケープが外れ、

ほんのり淡いピンクのドレスと

銀紫の髪がウエーブして現れたのです。

煌めく銀が陽光に反射して、ドレスのスワロフスキーと共に、

キラキラと光の雫が私を包みました。


『……王妃殿下が、変身なさった』

『王の口付けで……』

『物凄い、美女ではないか』

『おい、メーディア様に、そっくりじゃないか?』


うふふ。

このカラクリは、エマとイーヴォが作りました。

器用ですよね。そして、

効果絶大。


『王のキスで、王妃にメーディア神が降り立った!』

『王妃をメーディア様が、お認めになった!』


私のドレスは、上半身はピッタリと身体のラインを拾い、下半身は、流れるような女神ラインのドレスです。

流石に二度目に純白はないわーと、淡く色を入れて貰いました♪


黒衣の王と、紫の髪に煌めくティアラの王妃の姿は、

後に金貨やカメオに彫られるほどの熱狂で国に受け入れられました。



『ビアンカ。私の唯一』

『イングヴァルド。私の最愛』


歓声と叫びと鐘の音につつまれて、

私たちは、もう一度、

長いキスを披露しました。


ここに、ようやく、

私たちは結ばれたのです。






「で、

どうして、ここにいらっしゃるのですか」


エリス……今やリーン伯爵夫人が、既視感のある言葉を発します。


「だって、

オムルの工芸品を工業製品とコラボレーションさせる事業の発起人ですもの。

私が、最も優れた交渉人であることは、王のお墨付きですわよ♪」


そう。


私は、いまだアストリア領主であり、この別邸の主でもあるのです。


アストリアの貿易を理由に、私は、〈メーディア号〉なる船を建造し、今やオムルに外貨をもたらす妃として、

型破りな王妃として、

大陸と海を往来しています。


イングヴァルドは、各国を歴訪した経験から、統治に関わる組織を抜本的に改革し始め、諸侯や領主との対話を重ねています。


おかげで、彼は、国内に、

私は、あちらこちらに飛び回る

すれ違い夫婦なのですが、


「ちゃんと、王妃のお勤めは、頑張ってますわよ」


「じゃ、

明日は、ライラ様もお呼びして、お茶会はいかがでしょう?

エスメ夫人や、バルトーク夫人にも、お声をかけて。

そして、お義姉様のお話を伺いたいわ!

これまでのお義姉様の半生を」


エスメ夫人。

懐かしいわ。


「お義姉様」

「なあに?」


エリスは微笑みながら、言いました。


「お義姉様は、以前こう仰ったわ。自分の人生は、自分が求めた方向に、って。

お義姉様は、女が直面する美醜というハンデも、

女ゆえに見下されるというハンデも、

蹴散らしてしまわれた」


「それは言い過ぎよ、エリス」

蹴散らしてるのは、本当だけどね。


エリスは首を振って、

「結局、お義姉様は、真にお義姉様と向き合えるひとを虜にしたのだわ。

ひとかどの立場、賢さ、お人柄。

懐の大きな方だけが、

貴女と向き合えたのですわ。

それは、貴女が、

そう努力と行動をなさったから。


ビアンカ・アストリア・オムル王妃殿下」



ありがとう。エリス。


そうね。


明日は、気のおけない方々と、昔語りを致しましょう。


そして、私は、

今の幸福が、周囲の方々の助力と、

友愛と、信頼とがあってこそ、と


これからも努力と学びを止めずに生きていきたいと思います。


「明日は、長くなりますわよ?」

「望むところですわ」


私たちは、クスクス笑い合いました。


続き間のタウンゼントと、励まし隊が、そっと涙を拭いていて、


(明日の茶会の準備を始めましょう)


と、私に常に同行しているエマが

優しく、皆を促していることを知らずに。




Fin






本当に

お付き合い下さってありがとうございました。

ビアンカの物語はいかがだったでしょう。

どうか、評価をお願いします。


ご感想がありましたら、そちらも、どうぞお願いします。

お返事は確実です♡


一応、ビアンカの物語は、「12週間の君に」から始めたエラントの物語の一つです。

乙ゲー物としては傍流ですが、

また、書きたくなると思いますので、お付き合いください。


近いうちに、また、お会いしましょう。

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[一言] 笑いながら読んでたのに 〆がえぇ話ゃ…(´;ω;`)
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