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62 ビアンカ 罰をくらう

「「「今日は一日奉仕活動!!」」」


頭が、ガンガンするのに、父と大兄様ちい兄様の合唱が……

ううー、響く。

喉がカラカラ、唇割れちゃう。

髪がボッサボサ。


えーとぉ


「前後不覚のお前を

私がお姫様抱っこで、馬車に乗せた」


アレックス。怒りの表情なのに口元緩んでますけどぉ。


「今日は、女中は、休みにさせたから。

しっかり、働きなさい」


ちい兄様、何で大兄様を睨んでますの?そして、その罰って、何?


コホン、と、父が咳払い。

「王子のやらかしは、厳重抗議できたが、制裁は、陛下と呑んだくれたお前のせいで、チャラにさせられた。

陛下はタヌキだと、お前に言わなかったか?」


あー。

うっすら記憶あります。

陛下にタメ口、肩をポンポンした気が……。


(腐っても、出戻っても、侯爵令嬢なんだぞ?

衆人環視の中で、破廉恥な真似をしやがったくそ王子を我が家が、許すはずはないだろう!

傷物を更にキズモノに、しやがって!殺してやるっ、決闘だっ!)


と、父が息巻いたら、

陛下に、


(じゃあ、ビアンカちゃんの、私への不敬は、不問にするから、王子のことは、私に任せてくれるかい?)


と、ニンマリされたそうで。


……傷物がキズモノって、

地味に傷つくんですけど……。


「「今日は、家の掃除!

執事の代わりに、銀食器磨き!」」


何なの、それぇー。

くそばばあの嫁イビリと、同じじゃん。


エマ、エマー!


「エマには、任務を言い渡した。

今日は、居ないからな」


ひえー。マジですかマジですね。

で、食卓のこのサンドイッチたち、何でしょう?

もしや……


「料理人も給仕も、休みをやった。私たちは、仕事に出る」


つまり。

これって、昼食?

この広い邸に、私だけ?

お留守番?


「わ、私を独りに?」

「この間から、お前を自由にさせすぎた。少し、引きこもることだ。

いいな?しっかり働いて、家から一歩も出てはならんぞ」


そう言って、父たちは、

じゃあ宜しくー

と、出仕なさいました。



……その仕打ちが、後で、悪手だとなるのですけれど。



取り敢えず私は、思いっきり濃くした薬草茶を煎じて飲んで、

では!と、お掃除から始めました。



こんなにメイド服が似合う侯爵令嬢も、世の中に居ないと思うわ。


私はゴムの手袋に綿のほっかむり、首にはタオルを巻いて、顔にマスク、足元は長靴といういでたちです。

オマケに、塵も見逃さないぞ!と、

メガネを着用。


あはは。


地味女復活。


それでも、1階のお掃除は終了し、次は2階。

アレックスとお父様の私室です。

私と、ちい兄様は、3階。

アンガス兄様は、庭の離れに住み着いています。


離れも掃除するのかなぁ、うげぇ、

と、思いながら、鍵束で、大兄様の部屋を開けると、


……この几帳面な部屋のどこを

お掃除するのかしら……


どこもかしこも、ピシッとしているアレックスの部屋。これじゃ、恋人出来ないはずだわぁ。


やっぱり、ちょっと隙がある方が、女の子はいいものよ?大兄様。


とりあえず、ちょちょいと掃き清め、拭き掃除はどうしようかな、と思って机を見ると、


「あら?」


大兄様の重厚な机の上に、見た事のある箱がありました。

……これって



(やっぱり)


青いカメオの懐中時計。

私が、エイブにあげた時計。


(どうして、大兄様が持っていらっしゃるの?)


あの裁判以降、大兄様はエイブと会ったという事。

……取り上げた?

突き返された?

それとも。


(大兄様が、買い上げてあげたのかな)


廃嫡されたエイブは、職も失い、最早、平民の身です。

お金は、あって困ることはないでしょう。

……少しの罪悪感と、失ったものへの悔恨に、私の胸は痛みました。


私は、そっと、時計を手にしました。

彼の香りがするでしょうか。

私は、手で煽って嗅ぎましたが、既に大兄様の部屋の香りと同化していました。


「別に、彼が恋しい訳じゃないわ」

そう呟くと、

脳裏にポン!と、黒い長髪のくそ王子が、浮かびます。

思わず、ドキドキし、独り顔を火照らせて、

「ちがーうっ!」

と、叫びました。


し、ん……。


(馬鹿みたい)


誰も居ない邸の中で、何やってんだろう。


私は、ふと、思いつきで、その時計を懐に入れました。

自分の時計と共振すると、どうなるか、体験してみたかったのです。

自室に保管している時計と、引き合わせよう……


そう考えて、私は、チャチャッと大兄様の部屋を終えて、

お父様の部屋

そして、3階と、掃除を進めました。


ふう!


疲れましたので、ちょっと休憩。

お昼にしましょう。


厨房でお湯を沸かし、食品庫にあった葡萄を洗って、いそいそと昼食準備。


私の方が、平民になっても順応すると思うわ、エイブ。


ひょいひょいと薬缶とトレーをもって、コンサバトリーに。

こちらでサンドイッチと紅茶を頂きました。


心地よい緑の影は、庭からの風を引き入れてくれます。

庭は、少し雑草がちらちら目につきます。


……抜きたい。


別邸の庭を庭師と一緒に作り上げた私です。綺麗にしたくて、うずうずしてきました。


(外には出るなよ)


庭は、いいわよね。

家の一部だよね。


私は、パクパク食べて、美味しくいれることができた紅茶を飲んで、葡萄も全部平らげて、


帽子帽子ー♪

と、コンサバトリーの脇にある、庭師の倉庫を探しました。


あったのは、麦わら帽子。


頭のほっかむりをとって、帽子を装着。マスクとゴム手袋と長靴。

ちょっと暑いので、タオル。


も、誰なんだって感じですよね。


小さな小さな椅子に腰掛けて、私は、るんるんと、雑草取りに、励みました。

芝の合間から、シロツメクサがはびこってます。

抜きましょう!

木陰の所にある半夏生の横に、ドクダミが増えてます。

抜きましょう!


そうやって、さっせと作業していると、


『なぜ、下女になっている』


と、背後から声がして、私は思わず、

「何者!」

と、サッと手にした鎌を振りました。


すんでのところでかわし、くすくす笑うのは


くそ王子。


『ビンタの方がいい』


……あんた、どうやって、ここに


『鍵が開いていた。用心しろ。

使用人は、居ないのか?』

……あー、玄関ホールを磨いたとき、鍵を閉めなかったんだ。

いつも、誰かしらいるから、そんな事、考えもしなかったわ。


『今日は、使用人の休みの日よ

……それより』

『報告に来た』


また、私の話を聞かない。


『報告?』

『一度、帰国する』


(……えっ)


王子は、私の隣にしゃがみ、ドクダミを抜き始めました。

そのまま、私を見ずに、話し始めます。


『後継について、きっちり話をつけてくる。

私の望みは、母の復権、そして、私の自由だ。

ジェイに、たっぷり嫌味を言われた。宙ぶらりんの私が、ビアンカを宙ぶらりんにしている、と』


陛下。

シメて下さったのね。


『お前のような優秀な女は、すぐに目をつけられる、と。

焦って行動する前に、身辺を綺麗にしろ、と。

ぐうの音もでない。

その通りだ』


さっさか抜くドクダミの青い匂いが、周りをむっと覆います。

それでも、少し汗ばむ王子からは、青の香りがしました。


『私は、どう生きたいのか、どうすれば、お前に相応しいのか、

決着を付けてから、お前をさらいに来る』


『えっ』


王子は銀の瞳をこちらに向けて、真剣な表情でした。いつもの、皮肉な口元は、引き結ばれ、

精悍な美しい男が、私の前にいました。





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