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59 茶会終了 ビアンカ復権

茶会も終わりを迎える頃、

女官が小走りに入ってきて、エスメ夫人とバルトーク夫人、ヴェールダム夫人に、耳打ちしました。


三名は、色をなして、

失礼致します

と、扉の前に、並ばれました。

……何でしょう。


カンカンカンカン!

木槌が鳴って、

「デボラ王太后陛下、御成りである!」

と、侍従が声を張りました。


え?

王太后様?


慌てて皆が、なるべく音をたてないように立ち上がり、

王女は、フワッと軽い動きで、扉の正面に立ちました。


「……邪魔をする。

皆、お気遣いなく。

孫の様子を見に来ただけです」


デボラ王太后。

外つ国から輿入れした時から、生まれながら人の上に立つ者しか持たない威厳を身にまとっていたそうです。


今も、威厳はそのままに、かつての美貌の片鱗を残した美しい老婦人として、君臨しています。


「お祖母様、ご機嫌麗しゅう」

「ミュリ、おめでとう

ますます姉上に、似てきたわ」


エスメ夫人は、迎えの礼の後に、早速王太后の席を指示しましたが、


「よい。直ぐに退きます。

皆、この孫娘は、私のお気に入りですの。

気の利かない子で、無口ではありますが、どうか、宜しくお願いします」


王太后が、頭を下げるなんて、驚きです。


「ミュリ。お友達はできたかしら?」

「お祖母様。善き令嬢たちが。それとビアンカ」


ほう。と、王太后はその紅い瞳を細めて、にっこりと微笑みました。

心なしか、こちらを見たような。


ひい、ビビるわぁ。


「そう。

……皆の者。

この孫は、私の里へ後継者として出すつもりでいます。

異国の王子と添わせて、外つ国の女王となる娘。

エラントと外つ国の友好の為にも、

いろいろ、教えてやってほしい」


「「承知致しました」」


「本来なら、母親が礼を述べるところですが、王妃は今、どこぞの愚かな元公爵のせいで、交渉事に奔走して……

皆は、貴族の妻と娘。

お身内の膿は、自身で切るように」


「「承知致しました……」」


……ひゃあああぁ〜

(アンタら、家をちゃんと守れや。うちのヨメにメーワクかけんじゃ、ねーよ?)

的な。


(グダグダ王家に文句あるなら、

ワタシが、受けてたつけど、来るか?え?)

的な。


部屋中の空気が、絶対零度。


皆で、必死の深いカーテシーをし、満足げな王太后をお見送りし、

公爵夫人は、扉の向こうも、ご同行されるようで、お戻りになりませんでした。


そうなると、卓には、王女と私。


皆は緊張が解けて、再び、ぎこちなく歓談を始めます。


えっと……

「お祖母様の言ったこと、気になるか」

「……外つ国の女王、になられるのですね」

「そこではない」


王女は、一口、桃の果実水を呑み、

「異国の王子と結婚する、事だ」

「えっ」


「イングヴァルドは、遠縁になるそうだ。

私は王太后の血を継承している。

子が成せない現女王の養子に、私は、相応しい。

イングヴァルドは、北の国の王子。外つ国の血もひいている。

結婚相手として、申し分ない。

そうだろう?」


王女の黒い瞳は、すうっと闇を落とし、私には、言葉の真意がつかめません。


(イングヴァルド)


彼は会う度に、名を呼べと。

私を唯一、と。


イングヴァルド……


「明日から、教授を頼む」


はっ、と想いの淵から戻り、私は

「御意」

と、短く答えました。


にっこりと微笑んだ王女は

「そなたは、善き女だ」

と言って、席を立ち、

それぞれの卓に、今日の礼を告げに回られました。


無論、エスメ夫人が後ろをついておりましたが、

社交など皆無だったはずの王女は、

堂々としたお振る舞いと言葉がけでした。


ぼっちとなった私は、腰ポケットの懐中時計をそっと取り出し、表面のカメオを指でなぞっておりました。



お開きとなり、退出する王女を見送ると、三々五々、ホストのエスメ夫人が客を見送っております。


「ねえ」


あら、意地悪女。

まだいたの。


「アナタ、調子に乗らない方がいいわよ。

アナタが王女に気に入られたのは、ガリ勉が認められたんだからね。

要は、アンタは便利な本の代用品よお」


なんなの、そのマウント。

いや、負け惜しみ?


「ねえ、マルクール様」

「何よ」

「貴女の婚約者。

ケンネス伯爵子息ではない?」


意地悪女、ややたじろいで、

「それが、何か?」

「……いえ、ご出世できたらいいわね、と思って」


と、私が含みがあるように言うと


「何?何を知ってるの?」

と、声をひそめます。


あ、こいつ、知ってるな?

知ってて、見栄はったな?


「……元夫は、退職ではなく免職でした。エスメ夫人が仰るとおり、職務怠慢で。

でも、彼の同僚も、数人、幇助の罪で、然るべき処分がなされたはず。

長官は、激怒なさったのよ?

……貴女の婚約者は、余程頑張らないと、トントン出世の芽は、なくなったでしょうね」


「……!」


「公爵の名に、目がくらんで、

つくべき人物を間違えたのが、婚約者の運のつき。

……伴侶も、()()()()なかったら、よろしいのですけどね」


「なっ!」


うっふふふーん。

マルクール、涙ぐんで真っ赤に怒ってます。

でも、なあんにも、言えないでしょ?ざまぁー。

男の出世に頼らねーで、自分で何とか頑張れよ。



私はその足で、丸々ババアの元へ。


「ジュノー・ミネア様」

「何かしら」


「お孫様は、ご婚約なさっていらしたわね」

「それが、何か?」


「いえ。

私の兄は、リーン病院の医師なのですわ」

「……?」


(……お嬢様は、ご結婚まで、お家に軟禁なさった方が、よろしいでしょうね。

随分、奔放な方ですから)

「アナタ、何を!」


耳打ちする私に、ババア、色をなして、食いつきます。


「……中の兄が、警視だというのは、ご存知ですわね。

今、捜査中ですのよ?

元義妹のようにしたく無ければ、

少しお考えなさったら、宜しいわ」


私は、冷たい物言いをして、

ババアを凝視しました。


(あんまりな態度なら、

兄二人が黙ってないけど?

それで困るのは、

どこのどなたかしらねー)


ババア、はっ、と判じたらしく、

「……ご忠告どうも」


と、真っ青な顔で、踵を返しました。


うん。元姑よりは、賢い人ね。


王女。

私は善き女ではないですよ。

やられたら、やり返す低俗な女です。



「もう!私がお助けするつもりだったのにぃー」

エリスが、背後から腕に飛びついてきました。


無理でしょエリス。

あのババアと、マルクールだよ?

オマケに、あの王女だよ?


「エリス。王女はどうだった?」

「怖い人」


あらあら、まだ王宮ですわよ。


「でも、純粋な人。

私、好きだわ、ミュリ殿下。

ご訪問のお約束も、したのよ?」

「私も!

あ、

ねえねえ、ビアンカ様

今度、お家にいらして下さいな」


エミリオ公爵令嬢の声が響いて、

あっ、ずるい、

私も!

という、キャイキャイが賑やかです。


「あの……わたくしも、茶会にお招きしてよろしいでしょうか」

「私も」


ご夫人方が、娘に割り込んで、話しかけて来ます。


離れたところで、エスメ夫人が

〈いかが?〉

と、サインを出しましたので、


〈さすがです!〉


と、返しておきました。



こうして、

ビアンカの復権は、かなったというわけです。








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[一言] イングヴァルトと王女が婚姻? どうなっちゃうの~ヽ(д`ヽ)
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