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57 ビアンカ 同窓生にいたぶられる

「あなたって、離縁されたんですって?」

やたら大きな声のマルクール(以後、意地悪女)


「ええ。この国は、女からはできませんものね」

と、私。


「ワタクシの頃は、離縁された女なぞ、社交には出せなかったものでしたがね」

と、ジュノー・ミネア侯爵家夫人(以後丸々ババア)


まあ……

と、小さな声の、卓のその他の皆様

(以後、モブ)


「ホントーいい時代ですわよねえ!

ご覧になってぇー、

既婚者だったのに、髪を下ろして、まるでご令嬢みたいだわぁー

今からデビューかしらぁ」


うへえ。打ち合わせたみたいに、タッグを組んでるよ。

マルクール、今でも自分が上だって目線で、あの頃と同じ、いじり方だわねえ。


「ミネア様、聞いて下さいます?

この方、高等部では、前髪とメガネで、どんな顔だかわからない陰気な方でしたのよー」


(まあ)


「今と大違いね」


「そうなんですの。風変わりな方でねぇー

お友達も居なくって、ポツンとお座りになって、本ばかり読んでましたのよぉー

学生時代の、楽しみ事から離れて、それじゃあ、社会性が歪んでしまいますよねぇー」


「歪んだ結果が離縁なのでしょうね。今更、お洒落して人前に出ても、お里が知れますよ」


「幼くして母親を亡くすと、歪むんでしょうかねぇー」


「歪むでしょうね」


エマ。

ここに居なくて良かったね。

腹の傷が、確実に開くわ。

ええ、私ですら、母のことまでバカにされては、怒らないはずないんだけど。

我慢我慢。

今じゃ、ないから。


「離縁して、何か、勘違いなさったのではないかしらぁ。

お綺麗になられれば、夫以外の……まあまあ、私ったら、軽々しく噂を言ってはいけませんわよねぇ」


「まあ、噂」


「えぇー。

同窓でも、有名ですわよぉ。

お可哀想な旦那様ったら、奥様の不始末のせいで、公爵様の逆鱗に触れて、家を出たとか」


(まあぁ……)

「世も末ね」


「実家が金持ちだから結婚できたものを……もっと謙虚になさっていればねぇ

まさか、ご結婚できるとは、と、同窓の皆様、あの時は驚きましたのよ!

お早い離縁も、ビックリでしたけど!」

(……まっ)

「欲張りなんでしょうね」


ううむ、まるで、合いの手のように丸々ババアの淡々としたコメントと、モブの(ま)入り。

パン屋でパン生地こねてるみたい。


絶妙なバランス。

そして、反論する余地もなく。

ペラペラと、当人の前で。


「そうそう、そして「ビアンカさん」

私の後ろから、声が重なりました。


「皆様ごめんなさいね。

ああ、ミネア様、マルクール様、〈たいせつな〉お話を切ってしまってゴメンなさいね。

……ビアンカさん。

ご入場は、まだですが、

後ほど王女が、貴女に引き合わせてくれとの事です」


三度(みたび)のザワ!


エスメ夫人、いつもより大きめのお声ですわよ。


「エスメ様、この方だけ、ご紹介なの?」

マルクールがトンガリました。


「もちろん王女は、皆様にご挨拶されますわ。

ただ、ビアンカさんは、特別。

学長様が、王女の指南役に貴女を推挙なさって。

王女は、是非、本日お顔合わせしたいとのご要望なの!」

(まあーっ!)


モブ、いい仕事してんじゃん。

丸々婆さん、ムスッ。

意地悪女、イラッ。


では後ほど〜〜

と、さっさか去ったエスメ夫人も、タヌキだわね。わざとだわね。


それなら、座席を吟味して欲しかったけど、序列を崩せなかったんですね。了解しました。


しかし、そこでめげる意地悪女ではない。即、再マウント。


「私、このたび、婚約しましたのー」

(まあっ)


「どちらの方に?」

「ええ、伯爵筋のエリート宮務官僚ですの。私の家に入って下さるのですわ」

(まあー)


エイブの元同僚じゃん。

意地悪女、今、ちら、とこっちを見やがった。


「宮務庁は、出世コースだわ、貴女良かったじゃないの」

丸々ババア、私には向けない笑顔。


「ありがとうございます。

良縁と喜んでおりますの!

なんといっても、結婚は、信頼が肝心。互いに、相手に偽りのないよう、身体検査はきちっといたしましたわ」

「それがいいわ。

隠し事なんぞすると、のちのち関係にヒビが入りますよ」

「ええ、本当に。

私も、今まで嘘偽りなく生きて来ましたもの!」


また、チラッ。


「女の幸せは、お相手で決まりますからね」

「本当に。

お陰様で、私の身辺も、学生時代の友人達が、丁寧にお伝えくださったそうで、先方からは、申し分ない相手だとお褒め頂きました」

「楽しい学校生活だったのね」


チラッ。


「ええ、それはもう!

皆様喜んで下さって。

結婚式には、沢山のお友達を招きますのよ」

(まあ〜)

「人望は、大事ですよ」

「本当ですわねえー」


マルクール、ふふん、と横目。


何ですかね。

カースト上位のワテクシは、

いい男捕まえて、当然!

オマエなんざ、上の家に嫁いだくせに、失敗するんだもん☆

見た目変わっても、中身は……なのねぇー


って感じ?



懐かしいわぁ、この空気。

こいつらの物差しで、世界の全てを判断させられてたんだよなぁー

私がどんなに優秀でも、

こいつらが

カス

と、判じたら、それが通るのが学校。


いえいえ、あんた、

ここは王宮であって、学校じゃねーんだが。

ほれ、向こうでエリスが怒ってる。

我慢我慢。



さて、正面でエスメ夫人が合図してます。

私達も、居住まいを正しました。


「皆様、本日はお集まり頂き、恐悦至極にございます」


夫人の通る声に、ざわつきが収まります。


「本日は、このたびめでたく15歳となられた、ミュリ王女のお祝いの席でございます。

王女は、東宮でお育ちになられ、皆様とは初対面の方々が、殆どかと存じます。

どうぞ、温かなお気持ちで、ご対面いただけたら何よりですわ。

……王女殿下のお出ましです」


その言葉に、一堂が立ちました。

広い〈女神の間〉の正面扉を侍従が開け、一人の少女が現れました。


……息を呑む音。


全員が呼吸を忘れました。


長い長い黒髪と大きな濡れた黒い瞳。眉で切りそろえた直線が醸す神秘。

眞白のドレスの彼女は、

一瞬、この世の存在とは思えない佇まいでした。


華やかとは、違います。

可憐でも、儚げでも、ありません。


一体幾つなのだろう、と、迷うような、雰囲気なのです。幼女にも、大人にも見える高貴な姿に、圧倒されました。


王家は、こんな隠し球もってたのね……


王女は、それは見事な礼をし、

顔を上げ、


「お初にお目にかかる。

ミュリ・エラントである。

世間知らずの小娘なれど、

真実を視る目をもって、生まれた。

奇異な言動あるかと思うが、

世の中に出る習いと思い、

助言を頂ければ幸いである」


と、話され、その紅い唇をピタ、と、閉じました。


私達は、ざっ、と衣擦れの音を同時にさせて、深く礼をとりました。

畏れ、と言うのでしょうか。

陛下や妃殿下とは、異なる畏敬に、心が騒ぎます。


エスメ夫人は、満足げに

「王女殿下。お席に」

と、案内しようとしました。

すると


「よい。自分で決める」

と、返事をした王女が、スタスタと。


……こちらにやって来ました?


「そなた」

「……ひ」

王女は、私の右隣のモブに、声をかけて

「席を譲れ

そなたは、向こうに」


「は、はい、今!」

と、王女が指さす方へ、すたこら逃げました。

王女は、するっと席に座り、

そして、

左の私をじっと

じーっと見つめてきました。


「そなた」

「……はい」

「どうして、夫は、浮気したのだ?」


……王女。

第一声、それですか?






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