55 ビアンカ 醜聞を耳にする
王妃殿下が、お立ちになりましたので、全員、席を立って臣下の礼をとりました。
「これをもって、調停裁判は終了です。
ビアンカ・ロックフォード。
貴女の周到な準備と筋書き、お見事でした。
また、改めてお会いしましょう。
……以上、解散しなさい」
王妃殿下は、私を見て、
満足気に微笑みました。
私も、敬意と共に、にっこりとお返ししました。
そして、王妃殿下退出をお見送り。
侯爵家サイド、にこにこと最敬礼。
アルとウザーク、
不敬にも、バイバーイとお手振り♪♪♪
ロズベル夫妻 肩を寄せながら、お辞儀
公爵家サイド 亡霊。
整列した警官が、フローラと
ロズベル男爵と
元公爵夫人と
元公爵令嬢を
連行していきました。
アンガス兄様も、仕事の顔で退出。
公爵、ふらふらと、退出。
エイブラハム、侍従に首根っこ掴まれて、生ゴミ状態で、退出。
扉がしまった途端に、
「「「「ビアンカ!よくやった!」」」」
と、兄様と、何故かアル・ウザークが同時に歓声を上げました。
父、またえぐえぐ泣いてます。
王妃殿下、この人も隠居させますか?
「……私、ビアンカ様に嫁いでもいいですか♡」
エリス。ちい兄様、泣くから。
ちい兄様、エリスに引きつった笑みで、送るよ、と連れて行きました。
「「面白かったなーっ!また、やろうな!」」
アルとウザークは、そう言って、ちゃちゃっと片付けて、帰りました。
やらねーよ。
こんな修羅場コンボ、
二度あってたまるもんですか。
大兄様が、ふうっと大きな息を吐いた私に、
「……今日は、デュラックに帰ろう。
元の姿で、ゆっくりと過ごそう。
美味しい料理と菓子とお茶。
兄弟で、語り明かそう。
ビアンカ。最愛の妹。
私たちの腕に、帰っておいで」
大兄様……。
その後、私は、小さなビアンカに戻って、大兄様、そしてお父様の腕の中で、わんわん泣いてしまいました。
これで、大団円。
……ならば、良かったのですけど。
数日私が実家で、ふにゃふにゃに、ふやけていたら、飛び込んできたのが、
エスメ夫人。
「……え、と、どちら様でいらっしゃいますか」
エスメ夫人、応接室の椅子から立ち上がり、第一声。
あ、すっぴんだった。
「夫人まで、謀ってしまって、申し訳ございません。
これが、ビアンカの素顔でございます」
私は恭しく詫びました。
夫人は、ポカンと口を開けようとしましたが、さすがサロンの女王、目まぐるしく頭を回して、
「……貴女、美しすぎて、隠していたのね」
と、おっしゃいました。
そんなとこです、エスメ夫人。
私が手ずから茶を入れると、
警戒していた夫人も、
「……ああ、貴女の味よ。
ビアンカさん」
と、納得して下さって。
お茶で分かる私って 笑笑
で、御用の向きは?
「……貴女、公爵嫡男に、離縁されたとか」
おお、情報が速い。
私は、曖昧に微笑みました。
こういう時、自分からペラペラと口にしない方が賢いのです。
「ええ、私は貴女を信じているわ。
世間は駆け引きの道具を探していますもの。
今日は真実を伺いに来ましたの」
ふうむ。〈世間〉が何やら騒いでいるのですね。
どんな風向きなのでしょう。
ここからはエスメ夫人の独壇場。
いやあ、聞いてて、もうちょっとで目が落っこちそうでしたよ。
「公爵家の嫁は、醜女で夫に愛想つかれて、腹いせに浮気した」
「ビアンカ夫人は、美的感覚が違う異国の王子になびいた」
はい、そこまでは、断罪裁判前に、耳にしましたね。
おかげで父と兄が激おこで、両家で裁判になったんですもの。
美的感覚が違うって……
王子言われてますよー
けれどその後は、新しい醜聞でした。
「ビアンカ夫人は、夫に振り向かれなくて、いかがわしい所で、奔放に遊んだ」
「夫は、夫人の尻拭いに失敗し、離縁したが、実家の侯爵家が陰謀を巡らして、公爵はやむなく廃嫡にした」
……なんですと?
「夫人と侯爵家は、王妃に泣きつき、王妃が両家を取り持つこととなったが、先に侯爵家と取引していた王妃が、一方的に公爵を叱責した」
……はい?
「恥辱ととった公爵は、弟に爵位を譲り、王家から背を向けることとなった。
弟は、爵位を継ぐにあたり、兄一家の離散を強いた。
公爵夫人は、実家に。
令嬢は、その行方は分からないが、学校は退学したらしい。
無論、既に嫡男は、廃嫡され王都には居ない」
……どこから、突っ込んだらいいの、その話。
公爵可哀想!侯爵、何様!
王妃非道!嫁腹黒!
……ってことお?
目に見えた事実も、そんなふうにねじ曲げて話が整合するってのも、凄い。エスメ夫人が、半信半疑になるのも、むべなるかな。
私は、打ち明けて下さった夫人に、礼を言って、真実を語ることとしました。
長くなった話に、夫人はひとつひとつ、頷きながら聞いて下さいました。
要は、廃嫡・爵位委譲・離縁の理由が、世間に出回る前に、すり替えた人がいる、のですね。
更に、国際問題である密輸に、王家は口を閉ざし、外交の修復を図ろうとしているのも、一因。
ジジイかなぁ。
ジジイそこまで、策士かなぁ。
守秘義務ギリギリのうち明け話をエスメ夫人は、
「……そんな事が。
ええ、ええ。貴女のお話ですもの、私は信じます」
と、仰って下さいました。
「私はね、貴女の誹謗中傷も、憤慨したのだけれど、それ以上にロゼッタ王妃殿下のバッシングが辛くて」
ですよねえ。
腐っても名門公爵。
その名門の家督に、王家が口出ししたということで、高位貴族は、王妃の〈出過ぎた真似〉に非難してるってわけですか。
まあエラントは男性上位のお国柄。ここ一番はピシッと決める陛下だけど、平生は王妃の尻に敷かれてるってなってるし、ひとつ火種があれば炎上するってことで。
さらに、デュラックへのやっかみが大きいわね。
侯爵家は、資産が豊か。
そして、三人の子息は、それぞれ
次の東宮の次期腹心。
警察庁のエリート。
近い将来、大病院の婿養子。
って、
前途洋洋なんですもん。
こんなゴシップ、叩くのに利用しない手はないわよね。
どうしたものかしら。
私がため息を吐いていると、
エスメ夫人が、何か閃いた様子です。
「ビアンカさん」
エスメ夫人が、ティーカップを持ち上げ、ソーサーから離して、高々と掲げました。
「男性上位のこの国だけど、
家を牛耳っているのは……
そして、噂をばら撒くのに、相応しい場所は……」
「あ、ひょっとして夫人」
エスメ夫人は、ニッコリと。
「王宮で、茶会を開きましょう。
貴女、今一度、好奇の目に晒される覚悟はあって?」
と、仰るので
「無論ですわ。
お引き受けいたします」
と、
ニッコリ返させて頂きました。
定期です
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