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54 王妃殿下 良いとこ取りで結審させる


「イライザ・ロックフォード」

私は宣告しました。


「フローラ・ロズベルの証言、

偽りはありませんね?」


「……あ、あんな女のこと、信じるの?お義姉様」


ほお。お義姉様とな。

初めて呼ばれたぞ。


「学内の8名を斡旋したことも、認めますね?

そして、5名を脅迫していたことも」


「そんな事……意地悪は、あったかもしれないけどっ」

「人二人、殺しといてよく言うな」


「あ、アル先生?」


アルが、業を煮やしして、立ち上がりました。

イライザ蒼白。

いつの間にか、アルは銀縁眼鏡をかけ、鞭を手にしておりました。


「このアル先生に、嘘をつくつもりか、おい?」


アルは、つかつかとイライザに近寄り、先生モード。


「お前、何様だ?あ?

俺の前で、汚い言い訳するなんざ

……罰が欲しいのか?」

「アル先生……

でも!だけど!」


「デモもダケドも、ない!」

ピッシー!

「ひっ」


どこから出てきたんだ、その鞭。

東宮に武器持ち込みって、おい。


スチャ、

アルが銀縁眼鏡のフレームを押さえて、

鞭を机に ばし!

イライザ、震え…ん?喜んで?


唐突に、アルが指さして、


「暗唱!タスケナレの戦い!」

というと、スカスカ娘、

直立して、


「エラント歴102年!

烈王ザガードは、大陸の雄マガナバラと、タスケナレ地方の独立を推し、決裂!

102年夏至の旬に、決起!

勢力が半数未満にも関わらず、12回の衝突に勝ち、タスケナレと同盟を締結!」


「3つ、大陸語で答えよ!

出身地、学歴、好みの食べ物、

構文で!」

『ワタシハエラント市デウマレマシタ!

イマ、ワタシハ、コーコーセーデス!

ワタシハ、ケーキガスキデス!』


「お前が脅迫した学生の名は!」

「ミーシャ、アリス、カミラ、スーザン、マリアンナ…あっ!」


アホですか阿呆ですね。


「イライザ、矢張り」

公爵が、肩を落としました。


「あ、しま、違、あれっ」

「この後に及んで見苦しい!」

ピシーっ!


「せ、先生」

「お前はなぁ、8人もの女の子の人生狂わせて、

一人の命と、

その子のお腹の子の命、

二人の命を奪ったんだ。

素直に認めて、どうやって償うか、

ぎゃあぎゃあ、喚いてないで

ちゃんとしろ!」


「先生……」


「お前に、人の尊厳を教えなかった、クソ親はおいといて、

お前も17だろう?

今のロズベルを見ただろ?

お前が人に愛されたいなら、

まずは、自分のしでかしたことを

ちゃんと見ろ」


アルの声は、絞り出すように、そして囁くように、緩急つけながらイライザに刺さっていきます。


「ひとときでも、このアルの生徒だったんだろ?

俺の生徒なら、向き合え!」


俺様イケメンボイスと迫力に、

紅潮していたイライザは、

ついに。

陥落。


「せ、せ、先生……

アルセンセーっ!

……ごめんなさい

ごめんなさいごめんなさいーっ!」


「……俺の主義は、飴とムチ。

罪を償う気があるなら、

1回だけ、抱きしめてやる、

ほら、こい!」

「センセー!うわあん!

ごめんなさいー」


「……」

この茶番、何なんでしょう。

男爵の名場面、台無し。

アル。

殆どペットの調教…


室内は、

男爵夫妻による、ほっこりシーン


アルとその生徒イライザの抱擁シーン


侯爵家サイド ポッカーン

公爵家サイド しかばね


と、いう状態です。



ドン!

王妃殿下の錫杖が鳴りました。


「コホン、裁定を言い渡します!」


そーそー。

裁判よ

調停裁判。

まとめてまとめて。


「ロックフォード公爵」

「……はい、王妃殿下」


「嫡男エイブラハムは、懲戒免職と不貞の(とが)により、公爵家を勘当。

妻ビアンカとは、離縁。

慰謝料と、宮務庁に、不正な賃金を返納させること」


「……仰せのままに」


公爵が返事をします。

今、この瞬間から、エイブは貴族ではなくなったのですから。


「妻マゼンダ・ロックフォードは、密輸による国家反逆罪。

公爵家の面目と貴族社会の均衡を考えると、その罪はかなり重い。

また、公爵に着服分を返還すること。

公爵は、着服分を国家に寄付すること。密輸国との交渉をしなければならないのでね」


「そんなお金……」

「ないなら、働いて返すことですね。マゼンダ」

「…う、う」


ババア、里にも頼れないのかなぁ。

いやいや、あのジジイなら、絞り取るでしょ。

まさか、妻を絞首台に送れないだろうし。


「それから、娘イライザの件だが」


王妃は、侯爵家へ向き、

「アンガス・デュラック警視」

「王妃殿下、ここに」


「未成年で、大きな犯罪に手を染めた訳では無いが、

倫理的な罪は重い。

厳重に取り調べなさい」


「仰せのままに」


「公爵」

「……はい」

「娘イライザの無知なる私欲、

教育の欠如著しい。

父親のお前には、大きな責任があると思う」

「仰る通りでございます

……ですが、ですが」


「私は、リルの家、シスター・リル・アボットに委ねるべきだと判じる」


リルの家。

エリスの通う、修道院、兼女性保護施設です。

さすが王妃殿下。

命の重さを肌で知るといいわ、スカスカ娘。


「ですが……直系の跡継ぎが……」

「何の戯言を……

あなた、これからも、公爵位を保てるとでも、思っているの?」


「…えっ?」


「ゴードン・ロックフォード。

いまだ壮健ではあるけれど、マネーゲームに興じて、家族という足元を疎かにしたのは、領主としても、惣領としても、心もとない。

この事が、世間に明らかになれば、

ロックフォード家は、恥辱にまみれることとなります。

エラントの名門に生まれ、胡座をかいた結果だと、自分を恨むことね」


「王妃殿下、わ、私に何を」

「陛下や私が、言えることではないでしょう?

貴族なら自分で始末をつけなさい。

……家令は、あなたの弟の一族だったわね」


公爵、震えながら、紙のように真っ白です。

隠居して、家令に爵位を譲れ、

って事ですね。

多分、ジジイは陛下とさほど変わらない歳だと思うので、とっても早い隠居ですよね。


まあ、妻、息子、娘が、

これだけやらかすポンコツなんだから、当主としては、責任問題だわね。


「ロズベル男爵」

「……はい、王妃殿下」


「そなたも、マゼンダ同様、罪は重い。

けれど、今、ロズベル商会を潰すのは、国益の大きな損失。

また、密輸国との外交問題を解決するためにも、男爵の腕が必要となるでしょう。

そこで」


王妃殿下は、にっこりと笑って、

「そなたも、商会を縁者に譲りなさい。

でも、湖畔に館を買い上げるくらいの退職金は、貰うのよ?」


「王妃殿下、それは」


「蛇の道は蛇。

これは取引よ。

あなたが、密輸国との関係修復に尽力すれば、

司法取引を王妃の名で、発動しましょう。

そうね……あと、2・3年たてば、王子が立太子するわ。慶事に恩赦は、付き物よ?

そうなったら、フローラが罪を償い切るのを湖畔で待ちなさい」


ここだけの話よ♡

と、王妃殿下は、人差し指を口元にあてて、微笑みました。


「ロゼッタ王妃殿下……

あ、有難く罪を受け入れます!」

「感謝、申し上げます

私も、償います」


夫婦は同時に頭を下げました。




……あら。

いっちばん良い所、王妃殿下に、持ってかれちゃったわー。

流石だわー。賢い人だわー。








あらっ、王子は?


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