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53 ロズベル男爵の告白

程なく、ちい兄様が駆け寄って、エリスの肩を抱き、抱きながら元の椅子に戻りました。


(君はよくやった

君らしく、よく言えたね……)

そう囁いて。


いい夫婦になるよね。



しかーし、イライザ、


「わ、わたし、知らないっ!

エリス、あんた、そんなに私が憎いの?

そんなの、嘘を言ったに決まってるじゃん。

お涙頂戴の話なんて、

泣いたら本当になるの?

あんたの聞いた話だけで、

どうして私が、引き込んだり、ゆすったりしたってなるのっ?」


ふうん。

そんなに喋れるんだ。

お義姉様が、お相手しましょう。


「あくまでも、自分ではないと?」

「当たり前よ!」


「お友達の、話は?」

「あ、あんなの、友達じゃないわ……一緒にもいないし……」


「彼女らの話も嘘だと?」

「そうよ!

それか、私のせいにしてるんだわ!」


調子こいてきたな。スカスカ。


「じゃあ」

さあ、チェックメイト。


「イライザ。

あなたは、〈館〉へは、行ったことが、ないのね?」


「あ、当たり前じゃない!」


ふふん。


私は、振り向きました。

「こう、仰ってますが、本当でしょうか?

〈館〉のマダム。フローラさん」


皆の目が、一斉に、フローラに集まりました。

イライザの、ひっ、という声をのせて。


注目を浴びたフローラは、

ふふふっ

と、花のように微笑みました。


「貴族のお嬢様が、ねぇ……

私のような者が、証言、ねぇ」


そう言って、フローラは、公爵を睨みました。


「15で、ロックフォードに貶められ、裏切られ、

違う男と結婚させられて。

ずっと、

ずっと、恨んできたわ……

不幸になればいい。

私の未来を奪ったんだから、

あんた達も、不幸に落ちればいいんだわ!

……そうよ。

エイブの妹だと、知ってて引き込んだの」


そして、くすくすと笑いました。

過酷な取り調べを受けてきたにも関わらず、彼女は、独特の雰囲気をまとっていました。


けれど。


食虫花のように、怖い穴を抱えている佇まいでも、ありました。


「……あ、あんたなんか、知ら」


「あらぁ。

社交界にデビューしたあんたを誘ってあげたじゃない。

もっと、男を手玉に取れないと、良い御縁には出会わないわよ、って。

ちゃんと淑女は、

〈練習〉をしておくものよって!」


「知らな……違っ」


「センスは悪いし、頭の回転は悪いし、紳士には不評だったけど、

連れてくるオトモダチは、中々のレベルだったわぁ〜。

あんた、紹介料も懐に入れてたんでしょ?

人に奢ったり、小遣いで、人を使って、虐めたりしてたんでしょ?

楽しかったんでしょ?

良かったわねえ」


「やめて!やめてやめて言わないでぇぇぇ!」


耳を覆うフローラの叫びに対して、フローラの目は、うっすら涙と共に、ギラギラと輝いていました。

先程男爵に打たれて、解けた髪を振り乱して、


「エイブのお父様ぁー

あんたの娘は、オトモダチ売って金を貰い、オトモダチを脅して金を巻き上げ、

財布を二つ、持ってたのよぉ。

その金で、汚い遊びをしてたのよ!

あんたの娘は、

もうおしまい!

公爵令嬢が、聞いて呆れるわっ」


「やめてええええ!」

「ぐ……

復讐か?

娘をたぶらかしおって」


「復讐?そうねぇ

でも、たぶらかしてなんかないわ。

勝手に落ちてきたのよ。

ねえ、お父様。

その頭が悪くて、マナーも、粋も分からない、無粋な女と、

15の私と、

どっちがご令嬢らしかった?

どうしてエイブと引き裂いたの?」


ううっ、と、呻く公爵と、

何も言えないエイブ。

既に亡骸のような夫人

そして、

卓に突っ伏し、わぁわぁ泣き喚く娘。


……ざまぁみろだわ

と、フローラが言った所で、ロズベル男爵が、


「やめろ!」


と、一喝し、

フローラを抱きしめました。


「……あなた?」


何故抱かれたか、分からないフローラは、毒気を抜かれて黙りました。


「それ位にしておきなさい。

私も、悪どい商売をしてきて、いい人間ではないけれど、

お前が不憫で……」


不憫。

およそ彼女からは、程遠い言葉に、私は男爵の言葉を待ちました。

それは、フローラも、同様だったようです。


「不憫?」


「私とは、不本意な結婚だったのだろう。

しかし、私はお前を妻にできて、本当に本当に、幸せだったんだ。

不運なお前が、不自由なく幸せになれるよう、私は、張り切って仕事をしてきた」


フローラは、頬を男爵の胸にあてて、不思議そうな表情です。


「これは、お前に似合うだろう。

これも、お前が好むだろう。

そんな華やかさを人生にくれたのは、お前との結婚だった。

私に、生きがいをくれた

だから」


「あ……なた?」


「だから、お前が、浮気を重ねていたと薄々気付いても、見えない振りをした。

もしも、お前が、それで孕んで、

そしてその子が、私の子でなくとも、私は喜んで父親になるつもりだったよ」


「……えっ」


フローラの声が、本物の驚きに変わりました。


男爵は、ようやく腕を緩めて、フローラを見つめ、


「お前の純愛、という言葉に、私は心を引き裂かれた気持ちになった!

こんなに愛していても、

お前は、その目を私には向けない、一生向けないのだと、知って。

……だから、かっとなってしまった。

だから、殴って離縁を叫んでしまった……

だが」


言っている間も、男爵は、次第に涙声となりました。

そして、感極まった様子で、再びフローラを抱きしめて、


「こんな!

こんな……寂しい女を

手放せるか!」

と、激情を吐き出しました。


「お前は、幼い恋愛に傷ついて傷ついて、

時を停めてしまったのだね。

そして、その後は、恨みの人生だと決めて……」


「……ブラッドン……」


「フローラ、自分を傷つけて、人を呪わなくていい。

もう、いいんだぞ」


「あ、な、た……

ブラッドン……あ、あ」


フローラの身体から、力が抜け、男爵は、その抱く手に力を込めました。


「も、も、もう、傷つくな。

あんな一族、恨めば恨む程、

お前は寂しく独りになっていく。

冷えた心で、身体を傷つけて、

人を傷つけて……

罪は、償なおう、フローラ

私も、償わなくてはならない」


「……」


「……そして、償いが終わったら、

私と暮らそう

どこか、湖のほとりの

小さな館で、穏やかに暮らそう……」


「ブラッドン……ブラッドン」


男爵は、抱く手を緩めて、跪いて、

手枷がはまったフローラの両手を握りしめ、

微笑みました。


「愛しているよ、フローラ

誰よりも、お前を愛しているのは、私だ。

お前は、愛されるべき女性なんだ。

私もお前も、償いのあとは、少し老いてしまうけれど、

夫婦をやりなおさないか?

もう一度、

結婚してくれないか……」


「愛される……」


私は、自分のハンケチをそっと目に当てました。

男爵は、求婚のポーズで、フローラに微笑みながら、訴えているのです。


「私を愛せとは、言わない。

どうか、お前を愛することを許しておくれ」

「……ブラッドン……

ブラッドン、

あなた!」


たまらず、フローラは男爵の前に跪いて、二人は互いを握ったこぶしに頭を寄せたのです。


部屋の中は、フローラの泣きじゃくる声と、

何か温かな、穏やかな空気に包まれました。




「……純愛とは、まさに男爵の愛よ」


王妃殿下が、呟きました。


「厳しさだけが、人を変えるのではない。

まことの愛とは、

献身の心。

滅私ではなく、相手の喜びを悦ぶ心。

自我を押し付けるのは、愛ではない…。

この歳になっても、教えられるわね……」



本当、それだわ。


エイブは、与えられて当然としか思わない人。自分が満ち足りてこそ、人に優しく出来る人だった。


私は、夫に振り向いてほしくて、愛して欲しくて、献身して満足してた。

私も、求めるだけの女だった。


上手くいかなかったのも、当たり前ね。


侯爵サイド、四人の男泣き。

ホント、涙脆いんだから……。


(ビアンカ)

アルがひそひそ。

(お取り込み中だが、小娘片付けよーぜ)


あー、そうだった。








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