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52 エリス 証言する

公爵家サイド、突然の矢面に、激しく動揺。


「やってない!」

「ビアンカ、貴様何を証拠に」

「君は妹まで……」


「じゃかあしいっっっ!」


私は叫びました。


「あんたの浮気とか、ババアの着服とかなんか、大した事ないのよ!

私があんたを捨てればいいんだし、ババアはジジイが、ポイすりゃいい!

そんで、悪いことしたヤツらが、牢に入れば。

けどね!

若いなぁんも知らない女の子を

悪の巣に、突き落として、人生狂わせるなんざ、

人として、どうかと思うわ!

許しておけるかい、あ?」


(ビアンカ、お言葉……)

ちい兄様の小声に、私は、コホンと咳払いして、建て直しました。


「と、言うわけで、私はイライザ、あなたを許せません」

「知らない!知らないわ、やってない!」

泣きわめく娘に、焦るジジイ。


「ビアンカっ!

公爵家を恨むのは、分かる!

しかし、こんな娘がそのような」


「では、証人を

エリス・リーン伯爵令嬢

お願いします」


「承知しました」


私の隣に、エリスが進み出ました。


「先程もお伝えした通り、イライザさんの同級です。

この女生徒の件、ビアンカ様から、相談されて、私が学内で、調査しました」


エリスが、語り始めました。

こればかりは、証言と、状況証拠ですからね。





「公爵令嬢の長期欠席は、ご病気ということになっていますけど、

誰もそんなこと、信じてはおりませんわ。


何か発覚したのだろう、とクラスでは、ヒソヒソと囁かれています。


それで私、以前はイライザと仲良くしていた人達に、近づいてみましたの……



(私の婚約者と、親戚になったのだし、私、何か出来ることはないかと思っているの)


私が、そう切り出して、反応を見ると、はじめは、当たり障りなくお話していた彼女たちから、


(……けど、もしかしてあのこと)

という言葉が、漏れました。


『もしかして、何?』

『………』

『……悪いようにはしないわ。

あなた方の名は漏らさないと、誓います。

私を誰だと?

今まで、私が人を謀ったり、偽ったりしたことがあって?』


それまでの振る舞いのお陰か、彼女らは、重い口を開きました。

多分、不安で、誰かに聞いて欲しかったのでしょうね」


「それは、自殺未遂の生徒の事ですか?」

私は、合いの手。


「いいえ。その彼女たち当人のことでした。


……あの子たち、イライザに誘われて、怪しげな所に行ったそうなのです。

怖気づいて、今は。でも」


「何回かは、通ってたのね?」

再び、合いの手。


「はい。

彼女たちが言うには、


『イライザが、お互いのおうちで集まっていることにしようって。

それで、示し合わせて、一緒に。

顔も名前も、分からないし、親には、ちっとも疑われなかったわ。

お小遣いが欲しかったの。

それに、殿方は大人で、優しかったし』


と、泣きべそで、告白されました。

私は仰天しましたが、顔には出さず、恐る恐る、

『……口にするのも躊躇われるけれど、あなた方、一線は』

と、囁くと、

『最後までは、ないわ!』

と、悲鳴のように」


途中までは、あるんかい!

大醜聞だよ。


「そして、彼女たちは、

『イライザは……もしかして、一線超えて……その、……身ごもったのではないかと』

って、言われましたの。


私は、

『ここだけの話だけれど、公爵家の若奥様は、あなた方の所業をご存知なの。

イライザさんは、そんな事態ではないわ』

と、言うと、更にポロポロ泣いてしまって」



「それで?三人は?」


「ええ。

二度とあそこには、行っていないって。

両親にバレたら、修道院行きだからって。


私は、

絶対守るし、何だったら、いいお医者様を紹介してもいいと伝えましたわ……わが伯爵家は、代々医療に携わる家系ですからね。

そのかわり、

他の〈被害者〉を教えることを条件にしました」


……やっぱ、医者が必要な子がいたって事ね。三バカ娘。


「それで、聞き出したのが、5名です」


ぱらり、と、エリスは、紙を持ち上げましたが、公開はしませんでした。


「……5名中、2名が、既に学校を辞めています。

2名は、普通に通っています」


「なんと」

アンガス兄様が、頭に手を当てて考え込んでいました。

そりゃそうです。

エリスの話だけで、未成年の犠牲者は8人も、居るんですもの。




「……皆様。

ここからが、重要です。

私は、奉仕活動として、介護や保育などの施設を訪問して、お話相手や刺繍の先生をしています。」


(多忙で、中々会って貰えないんだよ)

そう愚痴を言う、ちい兄様の口元が緩んでいたのを思い出します。

ノロケよね、完全に。


エリスは、少し、言い淀んでから、決心した表情で語りを続けました。


「……リル様の所で……ある人に、お会いしました。

リルの家は、暴力や性被害にあった女性の〈駆け込み寺〉です。

様々な貴族や商人が、寄付をし、成り立っている、私的な施設です。リーン家も、そのパトロンの一つです。

……その日は、伏せっている方々のお見舞いを……

その中に、知ってる人が」


私は、合いの手。

「ひょっとして、貴女の同級生?」


こくん、と、エリスが頷いて、


「名前は、はばかれるので〈彼女〉で、通しますわ。

彼女は、一度は死を願ったそうなのですが、学長先生のお陰で、生きようと思ったと。

けれど、彼女は、健やかな妊娠ではなかったのです。出血が酷くて、結局お子さんは流産でした。

それだけでなく、彼女の身体も」


ギュッ、と、口元を硬くして、エリスは一度、下を向きました。


そうです。

彼女は、既に、守護精霊の御許に……。


「彼女は、事の次第を〈懺悔〉いたしました。

如何に、甘言に乗り、欲をかき、背徳に慣れていったか。

戸惑い正気に戻る度に、

ある人に説得され、誘われ、

ついには、既成事実で、脅されて、やめることができなかった、と!」


あ……あ

という、震える声が、上がりました。

イライザから。


エリスは、涙を見せつつも、毅然と言い放ちました。


「誘惑にまけ、

脅されて、

孕まされて、

母にならんと決意し、

なのに、子と共に、この世から去らねばならなかった彼女の未来を

単なるいじめや、小遣い稼ぎで、

いとも簡単に奪ったあなたを

私は……私は、許せない!

最後に、彼女は、告げたのです。

脅していたのは」


「やめて!ひいっ、やめてえぇぇえ!」


「彼女の命を奪ったのは、

イライザ・ロックフォード!

あなたです!

利用するだけ利用して、

人の命を尊厳を

何だと思ってるのっ!

私は、あなたを許さないっ!」


そこまで叫んだエリスは、わああっ、と私の胸で、泣きじゃくりました。


し、ん

となった室内で、

エリスのひくつく喉の音と、

違う違う、とつぶやくイライザの声だけが、続いていました。



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