50 ビアンカの次の標的
ふふん。うふふん。
カ・イ・カーン♪
エイブのあの顔ったら!
あいつ、館でポンコツだったから、私をまともに見てなかったもんねー。
髪色で、分かりそうなもんなのにねー。
フローラ、憮然。
離縁されるわ、取り調べ後は罪人として収監されるわ、
アホ夫とも、これで切れるし。
どうやって慰謝料払うのか、知らんけど。館でやってた美人局で、稼いだみたいだから、イイよね。
パクパクしているのが、
もう一人。
「ま、ま、まさか、
ビーニャさん?」
そうです。
ロズベル商会にお出かけしたビーニャだよーん。
それは、後回し。
「長官。
夫の処遇、どうなさいますか」
長官は、ようやく動揺から立ち直り、私を見て赤面(可愛い)しつつ、
「職務怠慢。
勤務時間中の、不貞。
虚偽の勤務時間申告……
懲戒免職が、妥当でしょうな」
「そんな!長官!」
エイブラハムは、真っ青です。
「いかな名門公爵家とて、時代は、能力主義。
不出来な役人を放置すれば、腐敗の温床となりかねません。
王妃殿下。
長官として、私は、ロックフォードの免職。
同僚の停職。
その上司の戒告をもって、裁きます。
ロックフォードには、超過勤務分の賃金を返納させる。
宜しいですかな」
王妃殿下は、にっこりと、微笑みました。
そんなそんな、をリフレインするアホ夫は、激高するジジイに、
「貴様、勘当だ!
家は、イライザに養子をとるっ!」
バッサリ切られました。
私はわざとらしく、
「ね、お分かりですわね?
貴方と再構築しようにも、職も身分もない貴方が、侯爵家出身の私を養えると思って?
慰謝料に、給与の返納……
貴方、蓄財は、おありだったかしらねえー」
と、夫に、はあ、と大きくため息をついてやりました。
夫、ちーん。
ざまあー!
(みっともない、座りなさい、
全く……)と、ブチブチ言う姑に引っ張られて、抜け殻のように、へた、と、座りました。
「ビアンカ殿。
そなたの今後の多幸を祈ります。
では」
流石に長官。胆力ある風情のまま、王妃殿下の御前を退きました。
さて、次なる断罪へ、話を進めましょう。
「男爵。私をご存知ですわね?」
「……外つ国の商人の娘、ビーニャ、と、貴女は仰った。
私、か、元妻を探るためですか?」
元、だってー。律儀。
フローラ、ひくついてやんの。
「いいえ。
男爵。貴方とお会いしたのは、流通の雄と賞賛される貴方から、ある物資について、知りたかったからですわ」
「はて、出口の分からない話ですが」
ロズベル男爵は、流石にタヌキです。
階級は低くとも、その商才で、国への影響を大きくし、外国との貿易は、ロズベル商会なくしてはありえないと言われる商人です。
「流石にロズベルでした。
世間知らずのお嬢さまとみて、ぼったくって……失礼、ご自分に有利な話を進めましたわね」
「商売とは、互いの信頼ですよ。
私は何か、法に触れることをしましたかな?」
憎々しい表情で、私と向き合う男爵。
愛しいと思っていた妻の逮捕と、その妻の不貞を晒されて、こちらも激おこの様子ですね。
私を憎むのは、お門違いですわ。
「では、次の証人を……」
言うなり、アルが扉を開けました。
聞き耳たててたな、アル。
「あ、アル先生っ!」
スカスカ娘の目が、ハートです。
チラとも見てやらないアルに、ゾクゾクしている様子です。
「ごきげんよう、ロズベル男爵。
先日は、ありがとうございました」
「……」
うっすら、男爵の額に汗が浮かんだようです。ハンケチを取り出して、気持ちを立て直そうとしていますね。
けっけー。
私は構わず進めます。
「王妃殿下。
ロックフォードの最も大きい収入源は、何かご存知でしょうか」
「それは、無論。
鉄鉱の産出だわ。ロックフォードの名の由来でもある鉱山からの鉄鉱石は、国内の工場で、鉄鋼としているわ」
「そうですわね。
けれど、おかしな話が」
私は、アルをちら、と見ました。
アルは、人懐っこい顔の裏で、ニタ、と黒い喜色を浮かべてます。
ドSだから。
「私はアルと申します。
ビアンカ様の資産運用に参画している者です」
恭しい挨拶の後、
ひら、と一枚の書類を出して、文字通りヒラヒラしました。
「う!」
男爵の焦りを嬉しそうに見て、アルは、
「こちらは先日、男爵と取り交わした、株譲渡の書類です。海外への鉄鉱石輸出に関する事業所の」
公爵サイドが強ばります。
スカスカだけが、キョトン顔。
「ロスベル男爵
貴方、ロックフォードの鉱石を外国に売り捌いていましたね?」
「……」
アルは、嬉しそう。
人を責めるのが、楽しくて仕方がないのです、こいつ。
「このエラントにおいて、鉄鉱石は、工業資源として重要です。
よって、輸出制限が、かかっています。
しかし、何故か、私に売ってくれた株は、その鉄鉱石を輸出する会社のもの。
……ご説明いただけますか」
にこにこにこにこ。
アル、余程、株券取引の時に、阿呆な役回りして、ストレスだったのねえ。
「……訳がわかりませんな。
そんな幽霊会社のことなど」
「おや、幽霊会社、だと、何故ご存知なのでしょう」
「う」
アルー。得意げ!
「私が調査したところ、この株は、紙同然のようですね。
本来なら、詐欺ですよねえ。
しかも、会社ではなく、貴方、ロスベル男爵が直接、輸出に関わっていた」
「待て」
ジジイ、復活。
息子を切り捨てて、腹が決まったようです。
「わがロックフォード鉱山は、産出量と、どの領主にどれだけ販売したか、時価相場で、ちゃんと帳簿つけておる。
第三者の監査も入っておる。
しかも、そのような男爵とは、私は初めて会ったぞ!」
「いえ、確かに、鉱石は輸出されています」
ウザークが、挙手。
「アストリア港からの、貨物船の運行を調査しました。
ロスベル商会の貨物船が、2・3の国へ、鉄製品と偽装した、鉱石を出していると、港湾事務所で確認しました」
証拠書類⑥
港湾事務所運行一覧
写真
「ぐ……」
「相手が悪かったな、男爵。
あの港一帯の領主は、誰だと思う?」
「……私には、何とも……」
「この美人だよ」
「えっ」
「何っ」
「……」
「抜き打ち検査で、現物の確認が出来たのも、ビアンカの領主特権を行使したのさ。
せっかく、港湾事務所にワイロを送っていたのに、残念だったな」
嫌ですわお父様、アレックス兄様。
ニタニタと口元緩ませて。
クルミ、公爵サイドに渡しますかね?
「はい。おっしゃる通り、アストリアは、私の亡き母の領地です。
代々アストリアは、娘に譲渡されてきていますから、成人前とはいえ、私は領主として、権限をもっておりますの」
「……輸出制限のある資源を隠して外国に出すのは」
アルが嬉々として、宣告。
「重罪だよなーぁ!」
男爵も、公爵も、真っ青。
公爵は、
「しかし!
ロックフォードは潔白だっ!
資料を全て出してもいい
私は、不正など、考えたこともないっ」
と、叫びました。
「貴方が不正を働いたとは、申しておりませんわ、ロックフォード公爵」
舅は、真顔で私を見つめます。
そうですよ、ジジイ。
あんたじゃない。
「奥様ですわ」
「何っ!」「何故」「嘘」
そんな反応の中、ロックフォード公爵夫人……くそババアは、青い顔のまま、動かなくなっています。
固く固く、手を握りしめて。
定期的にお願いしています
ブクマ&評価
下さいませんか……
もっと読者の方に見つけて頂きたいと
願う私を助けると思って……えへ