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49 地味女 さらに責める攻める!

「あら、大タウンゼントが窮地を救って下さったでしょう?お忘れになったのですか?なら」


ちら、と視線を送ると、さっ、と、ウザークが書類の山から、一枚の紙を引き出しました。


証拠書類② 誓約書


「こちらは、公爵家執事頭の誓約書です。

(万が一、ビアンカ様が誹謗中傷された際には、身の潔白と事の次第を証言いたします)

なる文面に、署名を頂いてあります」


「貴方っ!」


クソジジイ、更に禿げたツムジを見せて、すまん、すまん、を連呼。


その時、ぱき、という音が正面からいたしました。

王妃殿下の扇が折れた音です。


「私は、公爵家の嫁の不貞について裁定してくれと言われたのです。

けれど、嫁を散々貶めて、自分が浮気。娘は中傷。舅は破廉恥。

挙句、嫁の持参金で面目を保つ。

そのような所業、

この国で聞いた事がない。

……ビアンカ・ロックフォード。

どうしますか?」


王妃殿下の投げた玉は、うけとらなくちゃね♪


私は、にっこりと微笑んで、

高らかに申しましたとも!


「勿論、夫に離縁をして頂きます。それから、

夫エイブラハムと、

公爵閣下、

フローラ・ロスベル男爵夫人に、

金銭的損失の補填と、

精神的苦痛による慰謝料を

請求いたします」



おーほほほ。

ジジイ真っ青

ババア真っ白

アホ夫、未だに、床の上。


「損失補償……」

わなわな、とババアが震えています。


スチャッ、と、ウザークがメガネを押さえて紙束をささっと取り出しました。


証拠書類③


「結婚後の生計

使用人の給金

縁者への返礼品

三代前の公爵閣下の愛蔵品修復

厨房、下男部屋など地下の改修

庭の改修

それら全てが、侯爵家の持参金と

ビアンカ様の資産から成されています」


侍従から手渡された王妃殿下は、はしたなくも、開いた口が塞がらない様子です。

扇、へし折っちゃいましたものね。


「さらに」

ウザークは、続けます。


「先程明らかになりました通り、

エイブラハム様の所業は、夫として、あってはならない事です。

また、フローラ様の言動は、

淑女の度を越しており、

ビアンカ様は、深く深く、傷ついております。

こちらの書類は、かかりつけ医の診断書です」


証拠書類④ 医師による心身症の診断書


王妃殿下が正気に戻りました。


「ビアンカ・ロックフォード」

「はい、王妃殿下」


「ロックフォード公爵」

「……はい、王妃殿下」


「裁定申し付けます。

この件に関して、ビアンカ側の書類は申し分ない。

そなたに、彼女の損失補償を命ずる。

また、嫡男への慰謝料請求

男爵夫人への慰謝料請求も、認める!」


よっしゃ!


ささっ。ウザークが、書類を引き出して、

「こちら、補填額となります。

そして、こちらが慰謝料請求書。

男爵夫人の分も、同額となっております」

と、さっさか、それぞれの前に置きました。


「こ、こ、こ、こんな大金」

ごうつくババアは、まだワナワナ状態。

「……払うしかなかろう」

ジジイ、身から出た錆ですもの、諦めた様子です。


「……やだ」

は?

「嫌だ、離縁したくない、

ビアンカ、私は!」


アホ夫?

正気か?


正気じゃないから言ってんだな。


「私は、まだ君を幸福にしていない!事がバレて、自分を恥じて、やっと現実に目を向ける決心をした矢先……」


アホ夫、這いつくばって頭を床に擦り付けて、ポエム。


「やり直してくれっ!

君の隣に立つに相応しい男になると誓う!だから」


「手遅れです、エイブラハム」


もっさりした前髪の奥の目は、多分蔑んだ色になっていたでしょう。


「貴方、将来の身分を失って、

私を幸せにできるの?」

「えっ」


「アレックス兄様」

「分かった

……お待たせ致しました、どうぞ」


扉から入室したのは、宮務庁長官。


「王妃殿下。この度は、部下が申し訳ありません」


壮年の長官は、最上級の礼をしました。

「御苦労。

しかし、長官。公爵家嫡男の、何を詫びているの?」


いまだ這いつくばるエイブラハムは、長官を見ても、ポカン。


「王妃殿下。

私から、長官に、幾つか質問したいのですが」

私は長官に淑女の礼とり、王妃の諾を確かめてから、切り出しました。


「長官。

宮務職は、結婚式後、どのような勤務形態となりますか」


「婚姻した者は、式の後1週間、結婚休暇をとる権利がありますな 」


やっぱり。

その一週間は、浮気旅行。

でも、次の一週間は……


「では、夫の勤務状況は?」


証拠書類⑤ 勤務出退勤記録


「お待ち下さい……一週間の休暇の後、出勤しております」

「確かですか?一週間のあと?」

「帳簿には、そうなっておりますな」


床のアホ夫、蒼白。


「……不思議ですわね。

夫は、休みが取れたと、その週は、別邸に居ましたが」

「……そのようですな。

出退勤の記録を改ざんしたのでしょうな」


長官は、既に調査済なのです。

私との応答は、まあ、茶番ですわね。


「では、次。

生誕祭前の夫の勤務は?」


「連日、宮務庁は激務であった。

彼は、日勤で休みはなかった。

現実は、違ったようだが」


「わ、私は毎日、勤務しておりました!

ま、ま、街で交渉を!」

堪らずエイブラハムが、叫びました。


長官は、ギロ、と夫を睨み、

「……そなたの仕事は、市中パレードの段取りであったな。

家格が高くとも、そなたはまだまだ下っ端。

そんな者が、日中単独で、渉外に出歩くことは、有り得ん。

部署の上司の監督怠慢を叱責した。

それから、口裏を合わせた同僚は、懲戒が待っておる!」


「な、なんの、話ですか?

私には、さっぱり……」


「貴方の職務怠慢の話よ、エイブラハム」

私は告げました。


「貴方、同僚に頼んで、外回りと称して、日中も残業時間も、フローラとうつつを抜かして居たでしょう?」


「そんな!

誤解だよ、ビアンカ。

浮気は謝る。

けれど、私は仕事はきちんと」

「長官」


私はアホ夫を無視無視。

「妻帯者の勤務形態を」

「基本、残業はない。繁忙期には、流石にそうはいかないが」

「生誕祭前の、夫は?」

「……時折、深夜近くまで勤務。

それ以外は、定時退勤だな」


夫、オロオロ。

この後に及んで。


「……貴方、お仕事で宮務所に詰める、宮で泊まると仰って……。

浮気部屋にこもっていらしたのね」

「……あ、いや、はい」


しらーっとした空気の中、長官、爆弾投下。


「家庭の実情は、わしの預かり知らぬ所だが、

勤務状況の改ざんは、由々しき問題だ」


「わ、私は、誠心誠意、勤めて参りました!」

「たわけ!」

長官、激おこ。


「先程も言ったろう?

お前の同僚は、お前が公爵となる人物だから、出世が速く、口利きして貰えると、踏んで……

お前の怠勤に目を瞑ったり、

口裏を合わせて出退勤を改ざんしおった!

昼間っから仕事を抜け出しておったろう?」


「わ、私は!

本当に、市場調査を!」


「ええい!

真昼間に街で乳繰りあうのが、調査だとぉ!」


「証拠はっ」

そこで、ジジイ援護。

「息子が、怠けておったという証拠は?

勇み足で、独りで根回しして、手柄を上げたかったのかも、知れませんぞ!」


「有り得ません」

私はしれっと、切り捨てました。


「だって、目撃者がいるのですもの。

勤務時間に、街のカフェで、フローラと密会していた、いえ

堂々とデートしていたのを目撃した方が」


「えっ!」


私は中央に進み出て、眼鏡をとり、

頭のピンを取りました。


「え」

「はあっ?」


ふあさっ、と落ちる銀紫の髪を撫で付けて、前髪を掻き揚げ、


「え、えええ?

あんた、ビアンカ?」


スカスカ娘が、裏返った声で、失礼にも指さします。


王妃殿下は、目をまん丸くしましたが、口はちゃんと閉じてます。

近くの長官が一番面白い顔してましたね笑


「この(かんばせ)に、見覚えがあるでしょ、エイブラハム。

カフェの異国の淑女は、

わ・た・く・し

ビアンカでしたの♪♪♪」


夫は陸に上がった魚のように、息をとめてパクパク

うふふん。再度髪を背にぱさーっ。

アメジストの瞳をキラキラさせて、ウインクを一つ。


侯爵家サイドから

(……はしゃぎすぎだ)

(やらせとけ)

(ある意味、誰より意地が悪い)


という呟き3連発が聞こえましたが、


「うおおー、ビアンカっ

亡き妻ソックリだぁぁあ」

と、泣き出した父の声にかき消されましたねっ。

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