47 地味女 裁判する
公爵家若夫妻の誘拐という、前代未聞の大事件は、社交界のみならず全王都に、衝撃を与えました。
ただ、王都警察と宮廷警察は、〈館〉でのいかがわしい仮面パーティに関して、一掃するための調査追求を徹底しなくてはならず、
私たちの誘拐は、金目当ての組織的犯罪、という形となっています。
けれど。
それで済まさないのが、くそばばあ。
「汚れた嫁なんか、要らない!」
と、完全に私はケダモノに陵辱され、息子タン可哀想!という筋書きが頭の中で、出来上がってしまってます。
と、言うのも、みんなエイブのせい。
(薬で眠らされた。
目覚めても動きが取れなくて、
ビアンカを助けられなかった。
私は、夫失格だ……)
って、懺悔したそうで。
おい。
すんでのところで、異国の王子が助けてくれたくだりは、どこへ行ったんじゃ!
中兄様も、警官も、踏み込んで来たじゃん!
中兄様が、事件担当警視として、事の次第を義父母に説明したのですが、今度は、
(そう……勇者のように颯爽と。
舞うように敵を倒して……
ビアンカに、唯一の人と。
そして、彼女は感謝の口づけをしたんだ……)
というアホ夫の独白に、
「んまぁっ!
生誕祭のあの男ね!
不倫!浮気!不貞!」
と、ぎゃあぎゃあ騒ぎ立て。
おかげで、いつの間にか、世間で私は
〈誘拐されて助けられた王子と浮気した妻〉
という烙印を頂いたのです。
あのアホ夫は、何の役にも立てず、妻と契れなかった口づけを
自分より、10段ほど格上の男に奪われて、
とんでもなく悔恨に苛まれたらしく。
逃した魚が大きかったんだろ?
と、アルが言いました。
ばばあとカラカラ娘に、
(不貞!不貞!)
と、騒ぎ立てられて、
手出ししないと決めていた父が、噴火。
(確かめもせず、はかりごとに、まんまとハマり、娘を窮地に立たせた上、守ることも出来なかった息子については、どう落とし前とってくれるんだ?あ?)
と、〈名誉毀損〉で、公爵家に正式な抗議。
対して公爵。
(あんたの事故と聞けば、駆けつけるのは人として当然。
名前を使われるような、後暗いことでも、あるんじゃねーの?)
で〈拒否〉。
と両者平行線。
ロックフォード対デュラック
の様相を呈して来た段階で、
なんと!
「調停裁判」のお知らせが!
ふおーっ
前代未聞!
公爵から侯爵への民事告訴
ロックフォード、ぶちかましましたねっ!
私を離縁して、
慰謝料請求ですか。
この先、私が生涯公爵家に尽くすと見なした財産分を請求。
別邸も、おめえー買い上げろ、って。
すげえ。
私の助力なしにイライザ、卒業出来るんですかね。
ひいお爺様の愛した別邸、売り飛ばしていいんですかね。
どうでもいいんですねそうですねそうですかー。
では、
全部まとめて、ぶった斬ることにしましょう!
父、激おこ。
三兄、激激おこ。
「お父様、兄様方。
私の弁護は、私がいたしますわ
……名門公爵家、
潰していいですか?」
「「「「やったれ」」」」
病院のエマが、侯爵家の皆様に、と、胡桃をいっぱいくれました笑。
(我慢のならない殿方たちですから)
って。
エマは、快方に向かっていますが、横腹には傷跡が残るそうです。
イーヴォは、
(俺は、気にしないぞっ)
と、ややこしい口説きをしているそうです。
アルとウザークは、
(館で役に立たなかった分、キッチリ働く)
と、同行。
口喧嘩なら、この二人に勝てる人いませんからね。
それでは!と、三人で会場に乗り込みました。
場所は、なんと東宮。
アレックス兄様が、
(裁判所では、公的に記録が残る。
公爵家と侯爵家の争いだからな)
と言って、都合をつけて下さいました。
出席者
ロックフォード公爵夫妻
イライザ
エイブ
弁護人の私
補佐の、ウザーク
デュラック侯爵
アレックス
アンガス
アラン
そしてエリス
正面に、調停者
左サイド、公爵家。
右サイド、 侯爵家。
調停者に向き合う形で、私とウザーク。
私は被告と、弁護の両方って感じですかね。
調停者として、なんと、王妃殿下が招聘されました。
アレックスによると、国内屈指の二家の確執となると、それ以上の格の者が適任。さらに王子が絡んでいるんで、
王妃殿下が、手を上げたそうで。
いそいそと、ウキウキと、
手を上げたそうで。
「それじゃ、お揃いですから、始めましょう。
本日は、公爵家の嫁ビアンカの醜聞について、真偽を明らかにしたいとの訴えね。
皆さん、よろしくて?」
王妃様、
完全に楽しんでます。
「ありがとうございます、王妃殿下」
「敬意や挨拶は無用。
……ご説明を」
私は立ち上がり、始める事としました。
調停裁判の当事者&弁護人として。
「本日は、お集まり頂き、ありがとうございます。
両家の懸念をはらうために、
何故、あのような誘拐事件が発生したかについて、順を追って説明致します」
私は、まず、夫を断罪することにしました。
「発端は、エイブラハムが、私との結婚前から、元婚約者と逢瀬を繰り返していたことにあります」
「う……」
「何っ」
「ビアンカっ!おやめっ!」
絶句の夫に、びっくりじじい、
そして知っててほっかむりしてたババア。
ダン!錫杖の音。
王妃殿下です。
「静かに。
今は、彼女の話を」
侯爵家は、無言。
胡桃のゴリゴリという音がします笑
「アンガス兄様。
証人をここに」
「よし」
中兄様の合図と共に、ロズベル男爵と、フローラが入室しました。
フローラは、髪を垂らし、少し痩せたようでした。
既に〈館〉で逮捕されたものの、運営の深くに参画していたと思われる彼女は、情報源として利用しなくてはなりません。
そのため、彼女は石牢ではなく、宮廷警察の留置部屋に監禁され、日々の取り調べ漬けだそうです。
手枷を付けられた彼女は、それでも薄桃のドレスを身につけていました。
男爵の温情なのでしょう。
関係者、増してや王妃殿下の御前なのですから。
その男爵は、あの勢いのある風情が吹っ飛んでいました。
愛妻のとんでもない裏の顔を見せつけられ、まだ混乱の中と聞き及んでいます。
この件に関しては、男爵に同情します。
別件では、まったく同情しませんけど。
「ロズベル男爵様と
その妻、フローラ。
お座りください」
二人は、簡素な椅子に腰を下ろしました。
エイブは、ちら、とフローラを見ましたが、ババアに小突かれて、目を泳がせました。
フローラは、連日の取り調べのせいか、ぼんやりとしていました。思考能力が、かなり落ちていそうです。
でも、手心を加えるつもりは、さらさらないですけどね。
「夫と、フローラ・ロスベル男爵夫人とは、2年前再会し、直ぐに、なさぬ中になったそうですわ。
彼の私への求婚も、結婚も、
フローラは承知の上。
お互い、それぞれの配偶者の資産を当てにして贅沢し、お互いは、真の相手、といい交していたそうです。
そうですわね?フローラさん」
「……」
「王妃殿下の御前ですわよ」
「……純愛だわ。
私達は、純愛だったの」
呟くように彼女は言って、夫の横顔をちら、と見ました。
男爵は、視線を変えることはありませんでした。
「純愛?
精神の繋がりだと?」
「当然じゃない。
あんたなんか、身体でエイブをつなぎ止めてる女。
私とは違うのよ!」
この後に及んでも、彼女の敵意むき出しの対抗心は、消えることがありません。
そう来なくっちゃ♪