表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/73

38 地味女 修羅場る

やっとで素肌にシャツを羽織り、前をはだけたエイブは、私の笑顔を見て、凍りつきました。


そして、般若のようなエマも、確認できたようです。


後ろから、パタパタと足音。

「どうし……」

「隠れて!」


二人の声が重なるタイミングで、「今よ!」

と、私、


イーヴォは、キャメラを構えて、シーツで身体をくるんだフローラとエイブのツーショットを

カシャ!


「きゃああぁっ」

フローラの悲鳴にも、エイブは硬直したままです。

非常時に弱い男のようです。

フローラの方が、状況判断が速いですね、


「あんた達!火をつけたのっ!」

と、シーツ姿のまんまで、噛み付いてきました。


「火事ではございません。

ドライアイスですわ」


タライの中からは、依然として白い煙が湧いています。


「これがないと、晩餐のソルベが作れませんの。

今晩は、デザートは、なしですわ」


私は、のんびりとした声で、足元のタライを持ち上げました。

氷菓作りに欠かせないドライアイスは、水に入れると、強く反応して煙になります。面白いですよね。


二人は、呆然。


は、っと、エイブは、我に帰り、

「ち、ち、ち、違う、んだ」

と、あわあわしだして。


「入れて下さるわね?

それとも、本館の方へ移りましょうか?

このまま家へ送還しましょうか?」


私は再び、ニッコリと

「入れて下さる?」

「………」


エイブは項垂れて、退きました。

まあま、シャツは羽織っているけど、下半身は……

なんて色っぽい。


中は、隣と同じ、居室と寝室が繋がった瀟洒な造りでした。


バロック様式のカウチに、シーツをドレスにしたフローラが逃げ込んで、青い顔で、ガタガタ震えていました。



乱れきったベッドの足元に、二人の衣服が脱ぎ散らかっていて、

イーヴォは、それもキャメラに納めました。


証拠はこれでそろったわね。


「そのままでは、目のやり場に困りますわ。

服を着ていらして。

レストルームをお使いになって」


不貞腐れたフローラは、つん、とそっぽを向いたまま、レストルームに行きました。夫も一緒に腰をあげましたので、


「貴方は、ここで」

と、視線を合わさずに、私は命じました。


エイブは、しぶしぶ、私の前で服を着ました。

エマは、いそいそとタライを片付け、イーヴォは、カメラマンに徹するようで、フィルム板を交換していました。


ようやく皆が収まったので、

私は話を切り出しました。


「ご説明下さる?」


エイブは、

「違うんだ……」

「何が?

生誕祭の夜会が、初めての再会だ、と言ったこと?」

「……」


「それとも、終わった恋が、終わっていたと気づいた、って、ややこしいポエムを言ったこと?」

「……」


「それとも、私に、彼女とはもう会わないと、誓ったこと?」

「……」


「そんな風に、理詰めで物を言うから、エイブの心が離れるんだわ」

無言の夫を擁護するように、フローラの声が割り込みました。


「貴女、妻って立場に胡座をかいて、彼を悪者扱いするけど、

仕方ないじゃない?

貴女みたいな女より、

エイブは、私の方がいいんですもの」

フローラは、ふぁさ、と髪をかきあげて、先程より、落ち着いてます。

しかも、開き直りつつあります。


確かに美人ですね。

しかも、今日の真っ赤なドレスと金髪の組み合わせ、中々の迫力です。


「フローラ、黙って」

「いいのよ、あんな姿を見られて、言い訳はできないでしょ?

そうよ、私とエイブは、恋仲なの」


カウチに斜め座りして、エイブの方に頭を寄せるフローラは、確かに華やかで、色香があります。

先程のシーツ姿は、悩殺ものでしたね。


「貴女も、人妻ですよね」

「……そうだけど」

「ご主人、この事は」

「知らないわ。それが何?」


ううむ。開き直った女って、強いですね。


「私に夫が居ようと、エイブが貴女の夫であろうと、どうして私たちが、愛し合ってはいけないの?

私たちは、中等部からの恋仲。

大人の都合で、引き裂かれたけれど、心まで裂かれたことはないわ。

私は、エイブを愛しているの」


「……フローラ」

キッパリと言うフローラに、エイブの眼差しが柔らかく、うっすら涙が張っています。


「エイブ」

フローラは彼に向き直り、

「そうでしょう?

私たちは、愛し合っている。

夫に抱かれても、この私の心は、ずっと貴方のもの。

貴方が私の唯一の人よ」


「フローラ……」


きらきらきら。


あのー。


二人のお花畑劇場は、いつまで続くんでしょう。そろそろいいですかね。


「では、貴女、男爵と離縁されてもいいと仰るのね?」

「離縁?」

「だって、不貞を働いたんですもの。

納得のいかない結婚だから、愛人を作っていいなんて理屈は、社会では通らないわ」


フローラは、

ふふん、と鼻で笑って、

「夫は、私を溺愛しているの。

そして商才にたけた人よ。

計算高い彼のこと、

私を切ることと、多少目をつむるのと、どちらを選ぶかしらね」


と、自信満々。

語るに落ちたな。


「それって」

私は、刺すことにしました。


「……金づるの夫は切らずに、贅沢をさせてもらって、身綺麗にして、

若い男と逢瀬を楽しむ。

そんな生活は、捨てられない、と。

そう仰るのね?」


「だから、愛してるのは」

「勝手な愛ね」


私は、冷笑で返しました。


「本当に、身も心もエイブラハムのものだと言うのなら、何故離婚しないの?

綺麗な身の上になって、彼への純愛を貫けば良いでしょう?」


「……」


「欲張りなのよ。

年上の夫に甘やかしてもらって、好き放題させてもらって。

贅沢な暮らし、気ままな人生は手放さない。

でも、将来の公爵は本当の恋人。

公爵という国の頂点に近い存在は、私のものなの!なあんて。

……金も、本来は得られないモノへの征服欲も、どちらも手放さない強欲だわ」


「どうやったら、そんな歪んだ解釈になるの……酷い」


フローラは、うるっと涙を見せて、チラ、とエイブを見ました。

(あなたも何か言ってよ!)的な。


「……済まない、ビアンカ」

ようやく、絞り出したかのような言葉が出てきました。


「君は、公爵夫人となるに相応しい人だ。教養があり、品格があり、心優しく、家人にも慕われ……

社交界でも、一目置かれ、早くも若き牽引者と見なされ……」


私はエイブの言葉を待ちました。


「私を立て、私をいたわってくれる。

私を甘やかしてくれる。

それでも」


エイブは、はらはらと、泣いていました。

「……私はずっと、重圧に耐えてきた。

名門公爵家の唯一の男子として、家を立て身を立て……

仕事で悩んでいた時、フローラと再会したんだ。

その日から、フローラとの恋は、私を支えてくれた。辛いこと、悲しいことを忘れさせてくれた。

心は常にここにある、と、自信を持たせてくれた……」


つまり。


公爵家のくそばばあ達に期待され

追い詰められても、

仕事が上手く行かなくて、腐ってても、

フローラと居れば、

この世界がホンモノ♡

二人でいるひとときのために、私たちは辛い運命を耐えている!

と、

逃げ込んでいた訳ね。


アホか。


フローラは欲が張った享楽的な女。

エイブは、ポエムの甘ちゃん。


二人の恋とやらは、それぞれの目的が違ってたのね。


そして、

フローラは、加害者になるつもりはない。

エイブは、加害者として酔いしれるつもりでいる。

でも、二人とも同じなのは、

現状を変える気は、さらさらない、と。


私が黙っていると、心が弱ったと勘違いしたフローラが、攻めてきました。


「……エイブは、私のものです。

貴女、結婚式の後、どんな扱いされたか、お忘れになったの?」


と爆弾を投下してきたのです。


ん、だとお~?


ブクマ、評価、感謝です!


明日から平日16時パターンです

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 旦那気持ち悪❗ フローラ何様? 勝ち誇ってるねぇ…。 地味で陰キャだから強く言えば黙認すると? 逆襲されるなんてこれっぽっちも思ってないんだろうなぁ。 妻を二人で嘲笑いながら蔑ろにして、幸…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ