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37 地味女 突撃する

大兄様をお見送りした後、書類の整理をしていたら、


「イーヴォさんからの言伝です」

と、タウンゼントが手紙を持ってきました。


簡易な封をあけると


〈旦那、動くぜ。

壱の刻、南門前で、待つ〉


と、走り書きがありました。


あらあら。ついに。


私は胸元の懐中時計を確かめて、

「タウンゼント。出かけます。

この手紙、そのままアルに渡してね」

と言って、エマを磨き隊から、救出しました。



イーヴォは、門の近くで、待っていました。

直ぐに馬車に乗り込んできて、

「早かったな。旦那はまだ、中の宮だ」

と、エマから受け取った、サンドイッチを頬張りました。


「まさか、真昼間、しかも仕事の日、なんてね」

「……そんだけ、ビアンカの『お預け』が、こたえてるんだろうさ。

まあ、男なら、分からなくも……ぐふっ」


エマ。

食事中の人を叩いては、いけません。

イーヴォに、水筒を渡して、私は馬車の鎧窓から、門を睨んでいました。


「……出てきましたね」

「私服だわ」


南門から、一人の男性が現れました。

(制服は、脱いできたと、言う訳ね)

身分が分からないように、というのと、逢瀬のためのオシャレなんでしょう。あの服、あれも、私が見立ててあげたやつじゃないの!)


腹立たしさが、湧き上がりますが、これからの事を想像すると、エネルギーは小出しにしないといけませんね。


エイブは徒歩のようです。

行先は……でしょうね。

御者に、離れてゆっくり進めるよう指示して、追跡。


角を曲がり、進み、また角を曲がって……


「旅館街だな」

言わずもがなの事を言って、またエマに小突かれてます。

そのイーヴォに、

「持ってきたの?」

と、聞くと、

バッチリ、と、鞄を持ち上げました。


と、真横を一台の馬車が追い越して行きます。

そして、馬車は、エイブが入った館の前で、止まりました。


「……おいでなすった」

ええ。


フローラ。


相変わらずの金髪をなびかせて、今日は黒のストールを羽織っています。一応、地味にしているつもりなのでしょうか。その下のドレス、真っ赤なんですけど。

コントラスト、目立つ目立つ。


「行きましょう」

私は二人に告げて、馬車を降りました。


私たちが館に入ると、女将が現れました。

「ようこそお越しくださいました……ご予約は、なさっていますか?」


上から下まで値踏みしながら、女将は、

(予約もしないで、一見さんが来るなよ)

と、笑顔で言っています。


「ええ、本日は、外つ国の友人のために、内見に参りましたの。

彼女が滞在するに値する宿を求めていまして」


そう私が返すと、

「……失礼ですが、貴女様は」

「まあ、私ったら!

申し遅れましたわ。

ロックフォード公爵家のビアンカと申します」


エマが、しずしずと、公爵家のお印を見せました。

流石女将は、その紋章を把握していました。


「あ、ああ、そうでございましたか!では、早速、お部屋のお写真を

……誰か、ご夫人を応接室に!お茶のご用意を!」


あわあわした女将を制し、

「折角足を運んだのは、実際にお部屋を吟味したいのです。

大変高貴な方なので、不備や不満があっては、ロックフォードの名折れですからね」

と、ペラペラしてやりました。


「な、成程」

「こちらの他にも、見たい館がありますの。ですから、おおごとにせず、静かに見たいわ。

対価はお支払い致しますので、従業員のどなたかにお連れいただけます?」


女将は、自分が、と、言いましたが、

「女将。

この私に、先に礼をさせましたでしょ?

そんな気の張る方より、従業員の方が気持ちが楽だわ」


そう、慇懃に、高飛車に、言ってみると、

女将は青くなって、では!と、女の子を差し出してきましたね。


「ご、ご案内、させていただきますぅ」

可哀想に、此方が何か指摘したら、この子のせいにして、切るつもりね。


「ええ、宜しくね」

私はニッコリ、連れ立ちました。


「あら、ここ、いいわね」

「宜しゅうございますね」


何がいいのか、さっぱり分からないだろう女の子は、

(ここは、出入りが、見えない、コンドミアム式で、ございまして〜)

と、小声で説明してましたが、三人して、聞いちゃいません。


だって、エイブの部屋の隣ですもん。


「あんた」

「ひっ!」


イーヴォが声をかけると、女の子は文字通り、飛び上がりました。


「奥方様は、しばしこの部屋で、

おくつろぎなさりたいそうだ」

「あ、は、はい?」

「奥方様を休ませる。

ここの鍵を。

後で女将に返してやる。

いいね」


「あ、は、はいっ」

「あんた、いい子だから、褒美だ。しばらくこの部屋には、誰も近づかないようにして。いいね?」

「*は、はいっ!」


(いい子だ)

その手に金貨をにぎらせて、代わりに鍵をうけとって、

イーヴォは、ちゅ、と、女の子のほっぺにキス。


真っ赤に染まった女の子が、すっとんで去る扉が閉まると同時に、三度のエマの小突きがヒットしてました。


「ったく、この男は!」

「静かに」


私は、隣の部屋との壁をじっと見つめていました。

胸の懐中時計が、エイブが近くに居ると、ハッキリ伝えてきます。


この向こうに二人が居る。

エイブが私に許さないキスをし、

あの女を抱こうとしている

カフェでのように、

美しいだの、

私たちの恋だの、

お花畑な睦み言を吐いて、

互いをまさぐって


あの女は、私を嘲笑うんだわ。

この男は、自分のものだと。

女として、エイブは自分を選んだのだと!

夫の心も知らずに、

哀れだと!


「……ビアンカ様」

エマが、私の手をとりました。


「お座りください。

今は、感情に振り回されてはなりません」


「そう。そうね。ごめんなさい」

「ご自分で勝負すると仰ったのです。勝ちましょう」

「ええ」


私は大きく息を吐いて、にっこりしました。

「……大丈夫。

私はビアンカですもの」


それから小一時、待つことにしました。矢張り、暴くタイミングがありますからね。


イーヴォは、鞄から取り出した機械を準備しています。

「それが最新型?」

「そう。

露出時間が短いから、人物も写せる。ちょっと前までは、じっと動かずに〜なんて、やってたのにな。

進歩って、速い」


そう。

イーヴォの持ち物は、キャメラです。

一目瞭然の証拠を残すべく、このような算段をしたのです。


エマは、鉄製の箱を取り出しました。

「へえ、割と小さいのね」

「急遽、料理長から奪ったので。

このくらいで、よございましょう」


そして、レストルームのタライを持ってきて、水を張りました。


「イーヴォ、ビアンカ様、いいですね?始めますよ?」

エマに、私とイーヴォが頷くと、エマは、手袋で箱から白い塊を取り出しました。


そして、水に入れると


モクモクと白煙が湧き上がります。

白煙は、重く、床を這って、扉の隙間から外へ外へ。


そのタライをエマは、隣の部屋の前に置きました。そして、部屋に向かってハタハタと風を送ると、案の定、白煙は、中へ吸い込まれていきます。


「火事だ!火事だ!」


カメラを抱えたイーヴォが、扉に向かって叫びました。


「火事だーーーっ!」


その声と、ともに、ドタドタという音がして、扉が開いて……


「ごきげんよう、エイブ」


私は乱れた着衣のエイブに、この上ない笑顔を見せました。

そして、

カシャ!

という

シャッター音が、隣でいたしました。




修羅場、スタート!

明日は週休日なので、12時更新です

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― 新着の感想 ―
[一言] ああーーーっ(@ ̄□ ̄@;)!! いいところでつづくにぃ~(笑) 続きがすごく気になります!
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