34 地味女 パーティから帰る
その声。その背格好。
(私の事が、分からないのかしら)
声色を少し落としているからでしょうか。
カツラのお陰?
バタフライマスクで?
兎に角、その男性が、私が分からないという事実は、少々腹立たしいのですが。
お互い、今は暴露はできないので、少し泳がせておきましょう。
しかし、彼は、何でこんな所、出入りしてるんですかね。
女に不自由は、しないでしょうに。
「君は、初めての人だな。
ねえ、相手しろよ」
「君、独り占めは、よくない。
少しは、時間をおくれよ」
他の男は、馴れ馴れしく、そして、明らかに、私を自分より格下に、扱っていました。
中には、札束を胸元からチラつかせる人も。
これじゃあ、まるで、娼館で女を選んでいるみたい。
ああ、やっぱり。
ここは、男が、女を物色する所なのですね。
エマが、複数の男に、言い寄られています。エマ、ガマンの顔ですね。
クルミ持ってるでしょうか。
イーヴォが面白がって、眺めているのが不安材料です。
あの奥で、異国の水たばこを吸っている一群は……
いえ、水たばこではないみたい。
あれは、確か
『麻薬だ』
矢張り。
若い女の子が、男の隣で、ぐったり横たわっています。
女学生も、こうして被害にあったのかしら……
『これで、分かっただろう?
二度とくるなよ、お嬢さん』
そうはいきません。
女学生の仇をとり、イライザとフローラの繋がりを暴かねば。
「あらあ、もう、お相手が見つかっちゃったの?
流石ねえ〜」
仮面のフローラが、私に話しかけます。
『☆〇〜〜……▷▶︎▷』
言葉が分からないフリをしたら、イーヴォが、デタラメに通訳のフリをしました。
やばい!イーヴォは、外つ国語なんてできません!
隣の彼に、バレてしまいます!
しかし、イーヴォのデタラメを
彼はスルーしてくれました。
そこは頭の回る〈彼〉ですからね。
私は、フローラに、にっこりと
「タノシイでした。
また、きても、イイデスカ?」
と、尋ねました。
『いや、二度と来てはいけない』
と、横から外つ国語。
『それを決めるのは、あなたではありませんわ、
中兄様』
私は、仮面越しに、横目で彼を睨みました。
怪訝な様子だった彼でしたが、
マスクの下の青い瞳が、見開かれました。
僅かに開いた唇が、少し震えて、そして、固く、閉じました。
「お嬢様は、お気に召したようで」
私と男とのやり取りが分からないイーヴォは、適当にフローラに返しています。
後ろのエマが、ぽっかーん、です。
彼女、外つ国語、できますもの。
「そう!
隔週で週末、開催していますから、是非いらしてね。
マスクは差し上げますわ。
それが手形だと、思ってね」
フローラは上機嫌です。
「マダム。
私は、彼女を送るよ」
〈彼〉が告げると、フローラは
「まあま、それは、ようございましたわ……よき旅の思い出と、なるでしょう」
と、私に、昏い微笑を見せました。
(淑女が、行きずりの男に堕ちた。
エイブが褒めた女を汚すことができた。
なんて、爽快なんだろう!
泣けばいい!嘆けばいい!
ああ、気持ちがいい)
そんなせせら笑いが聞こえて来そうな、フローラの様子でした。
車寄せでも、男性は、無言。
馬車には、彼と私、
クルミを私に持たされたエマ
なんのこっちゃか分からないイーヴォ
の4人。
馬車が動き出したので、彼は、ガバッと仮面を外します。
やはり。
カツラも外すと、金に近い銀髪が、さらりと落ちました。
父親譲りの骨格
母親譲りの髪色と瞳
私と通ずる美丈夫
アンガス中兄様。
私もバタフライマスクを外し、ヘッドリストをとり、落ちる前髪をかきあげて、中兄様に、にっこりすると、
「……何で、あんな所に来たんだっ!ビアンカっ!」
と、開口一番、カミナリが落ちました。
目玉ひん剥いて真っ赤です。
綺麗なお顔が、歪んでます。
私は、耳を塞ぎながら、
「……同じ言葉、お返ししますわ、中兄様っ!
もうっ、潜入捜査が台無し!」
と、応酬。
「潜入?
お前、一体何を?
何であんな危険な所に!
私がいなかったら」
「私のこと、分からなかったんでしょ?最愛の妹とか、何とか何時も言っといて!」
私はぷん、と、むくれました。
「ちゃんと、エマとイーヴォは、短銃と短剣を持っていましたし、私だって、靴下の所に、ほら」
「んガーッ!バカもん!
足を見せるんじゃないっ!」
「あのー」
イーヴォが挙手。
はい、どうぞ。
「……ビアンカの、お兄様?なの?」
「……お前は?」
イーヴォは、ぴーんと背を伸ばし、
「ビアンカ、様のぉ、情報屋です!」
「お前があんな所に、手引きしたのか」
青い瞳をギラギラさせた中兄様に、イーヴォは高速プルプルで、反応。
私は、ひし!と、兄の手を握り、
「中兄様!
今回は、私が我儘言いました。
誘われたのは偶然ですが、嫁ぎ先の危機に、じっとしてはいられませんでしたの!」
と、取りなすと、兄は、
「公爵家の、危機?」
と、ちゃんと、引っかかってほしい所で尋ねました。
私の〈必殺お手握り〉が功を奏したのか、兄は、少し落ち着いてきました。
〈超必殺お手の甲頬ずり〉も、繰り出しましょう。
そして、上目遣いのお目目、ウルッ。
「……私の義妹が、巻き込まれたのですわ……汚名を晴らすには、彼女と関わりのある人物を探す事が必要です。
あまりの醜聞に、打ち明けて下さった方は、公爵家には伝えられない、私になら……と。
だから、だから、私は嫁として」
うるうるうるうる
「……妹よ。
お前が私の潜入捜査とかち合ったのは、守護精霊の御加護だ……
私にお前を救えという、思し召しなのだね
怖かっただろう、辛かっただろう?可愛いビアンカ」
ちょろい。
あ、中兄様も、潜入捜査、と言いましたね。
アンガスは、武芸家です。
お仕事は、宮廷警察の警視ですね。
今は、王都警察に出向中のはず。
中兄様は、細マッチョ。
痛い痛い、アンガス兄様、そんなに強く肩を抱かないで〜
「仔細は、家で聞こう!
本日は、父も兄も、在宅だ!」
えっ。
中兄様、まずいマズイ!
父とアレックスじゃ、太刀打ちできません!
全部、バレちゃいます、
中兄様みたいに、単純じゃないんだから、あの二人は!
いつもありがとうございます
ブクマと評価嬉しい♥
もっと人と繋がりたいので、まだの方、宜しかったら☆を★にして頂けませんか。