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32 地味女の義妹 勉強する


「ビアンカ、無理をしなくていいよ」

夫は、心配げに、勝ち誇ったような妹を横目で見て、言います。


「但し」

私は、続けます。


「その間、私の、お義母様からのご教育は、御遠慮させて頂きます。

それと、別邸へのご来訪も、控えて下さい。

後、イライザさん」

「な、なによ」


「レポートは通っても、口頭試問は、貴女が受けるしかないのです。授業内容を叩き込まないと、通りませんわ」

「む、無理よ……あんたが」


「私が身代わりになれるはずがありませんでしょう?

イライザさんは、そんなにお可愛らしいのに」


そう、私が持ち上げると、ババアは、

「そ、そうね。

イライザ程の美人に変装なんて……策はあるの?貴女」

と、困り顔


ほほほ。乗ったな。


「……イライザさんに頑張ってもらうしか……

そうだわ」

私は、たった今思いついたかのように、

「侯爵家での、私の家庭教師を招いて宜しいでしょうか。

彼なら、()()()()イライザさんを導けるでしょう。

ただ、優秀ですが、ひとつ懸念が」

「何よ」


私は、躊躇うように、申しました。

チラ、とスカスカを見てから。


「……独り身の、殿方なのです。

しかも、見栄えが良くて……

妙齢の令嬢に相応かどうか、と」


アルが無害のイケメンなのは事実です。

中身はドSなだけで。


イケメン男、と聞いて、イライザが乗ってきました。


「が、頑張りますわ

ね、お母様!お義姉さまのオススメなら!」


娘の様子に、義母の心が動いたようです。

まあ、たとえ落ちても、私のせいにできますものね。


「……ちゃんと勉強するんだよ。

ビアンカ、済まない。

君には、甘えてばかりで」


夫は、本当に済まなそうです。

家族の中で、妻の盾にならんとする夫。

あのことを知らなければ、私はメロメロになっていたのでしょうね。

どうしてこんな人が、二股出来るんでしょうね……


「大丈夫ですわ。貴方の妻ですもの」

「ああ、ビアンカ。

君はなんて、素晴らしい女性なんだ」


仮面夫婦は、姑小姑の前で、イチャイチャしてやりました。


ふふふ。

イライザ。

せいぜい頑張ることね。




さて、

翌日から、別邸での猛勉強を開始しました。


「初めまして。

私のことは、ただ、アルと」


アルは、昨日と同様、黒眼鏡なし、の、人畜無害イケメンです。前髪を下げて、少し若い感じに仕立ててます。


上品に、丁寧に、ご挨拶。

夫人、娘の順に、手をとり、礼をいたしました。

あら、イライザ。ちょこっとカーテシーが、可愛いじゃありませんか。


「事情は、お伺いしました。

私なら、お嬢様の窮地をお救い出来るでしょう。

お嬢様に、口頭試問を突破できるだけのお力をつけて差し上げます」


アルは、そう言って、義母に、にっこりと微笑みました。

義母とイライザの心証は、花丸です。


「心強いわね。

貴方、合格すれば、相応のお礼を弾むわ」


「それは重畳。

では、奥様は、お戻り下さい。

早速、取り掛かりましょう、

お嬢様」


アルは、とろけるような甘い笑顔で、イライザに手を取らせ、寄り添いました。


「……あ、ええ、はい、……先生」

「アルで、いいですよ」

「……はい、アル先生♡♡」


うふふ。

イライザったら、はにかんでやんの。

イケメン家庭教師と、最接近、なんてドリームしてるんでしょう。


「いい事?日没には帰すのよ?」

「はい、お義母様」


あったりめーだろ。

スカスカ娘に晩餐なんか用意するか




そして。


「……何、この部屋……」


用意した部屋は、花も絵もない殺風景な部屋。

あるのは、机と椅子と

おびただしい書物だけ。


「ん?お座りなさいと申したでしょう?」

「え、ええ、やだっ!何?

怖い……」

アルは、イライザを椅子に座らせると、柔らかい布で、胴と背もたれを繋ぎました。


「……せ、先生、なにを」

「知識を詰め込む頭に改造するためですよ。

そのスカスカの使ってない脳細胞

が、勤勉になるためには、訓練が大切です!

さっ、ここから、ここまでを30回、音読しなさい。

読書百遍、意自ずから通ず。

終わるまで、動けません!」


「いやあぁぁ!」


おほほ。

アルったら、丁寧語じゃん。

手心加えてやってるじゃん。

私の時は、初日から俺様だったわ。


スカスカが、ひーひー音読している間に、私は彼女の教科書を眺めました。


レポートは、っと。


「なんだ。教科書読めば、書けるじゃない」

そうですよね。

フィニッシングコースのお嬢様に、アカデミックを要求しませんよね。


これは、2日くらい専念すれば、全て書き上げられるでしょう。

でも、たった2日じゃ、イライザのためにはなりませんよね笑


ゆっくーり、書いて差し上げましょう。


「せ、先生。

お茶を呑ませて……

喉がカラカラ……」


机の前の椅子に、軽く縛られたイライザが、根をあげてます。

赤い顔で、ヘトヘトです。


「ふむ、良いでしょう。

お茶を用意してもらいましょう」

イライザは、ほっとして、

本から手を離しました。


ピシ!

アルの小さな鞭が、しなって机を打ちました。

「……ひっ」

「本を下ろしてはなりません!

その手に常に持っていなさい!」

「は、はいぃぃ」

今度は、顔を青ざめました。

色とりどりですね。


タウンゼントがしずしずと、茶器を運んできました。


「……せ、先生」

「何ですか」

「どうやって、お茶を」

本から手を離すな、という呪文で、イライザは、動けません。


アルは、イライザの顔に自分を近づけて、

「……私が、呑ませて、差し上げます」


え、というイライザの声も無視し、そっと、カップの縁を彼女の唇に当てるアル。


右手は、カップ、左手は、イライザの肩をそっと抱いて……


こくん、と飲んだイライザに

「……美味しい?」

と、必殺の微笑。


イライザは、真っ赤っ赤で、こくこくと頷き、

「もっと、欲しい?」

と、アルの悩殺ボイスに、

こくこくこくこく!

と、最速で頷きました。


……堕ちた。


その後は、

音読、書取り、音読、書取り

を繰り返し、

休むと、鞭がビシ!と、家具を舐め、

休憩には、アルの甘〜い甘〜い

(私の手から、食べるんだよ?)

(私だけを見ていなさいね)

(ふふ。可愛いね)

という、俺様の溺愛が混ざり、


アメとムチ

アメとムチ


で、イライザの猛勉強は、効率よく進んだのでした。


そして、夕刻。

「エラントの先代王は?」

「デレク王!」


「大陸の国の数は?」

「15!」


「大陸語で果物を3つ言え!」

〖林檎、イチジク、オレンジ!〗


アルはイライザの手をとり、

「……正解だ

よく、やったね、イライザさん」

「先生!

アル先生のおかげです!

私、私、こんなに頑張ったの、

生まれて初めてですっ」


イライザの瞳は、もう、アルしか見えておりません。


「今日のことは、本家では、何も言ってはいけないよ」

「どうしてですか?こんなに私」


「話だけ聞けば、ご両親は、私が君を虐めているか、はしたない仕打ちをしていると、勘違いするでしょう?

私たちの事は、私たちにしか、

分からない……

そうじゃないかい?」


イライザは、ひし!と、アルの手を握って

「……,そう、そうですわ!

誰も私と先生の絆を理解できません!」


いえいえ笑

充分はしたなく虐められてましたよ?


「君はとてもいい生徒だ。

さあ、キャンディをあげよう。

喉を潤して、その声を治しておいで」

「……ありがとうございます♡♡」


……なんなんでしょう。この茶番。


スキップに近い足取りで、イライザは

(お義姉さまー

またあしたー)

と、帰りやがりました。


「えらく力が入ってたわねーアル」


アルは、黒眼鏡で、可愛い目を隠して

「俺が本気出せば、こんなもんだ。

アイツ、後3日あれば、完全に俺の奴隷にできる」


「程々にして。

それにしても、何あの口頭試問。

初等部1年生なみだったわ」


「いーんだよ

勉強する習慣、脳を使う訓練、

その成果を実感する成功体験。

嫌でも、俺の顔を見たら、勉強したくなる身体になるんだ」


けっけっ、と嗤うコイツは、ほんとーにゲスなSですよ。


でも、

これでイライザを取り込めました。


さて、次は、例のパーティですね。

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