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25 地味女 夜会に参加する

陛下の生誕祭が、にぎにきしく執り行われました。


ジェイ陛下は、改革を推進した先王の後を次いで、エラントの安定的な経済政策と、人的資源の発掘に邁進しています。


ジェイ陛下は、幸せの王、と称されています。

発電機関を他国に先んじて開発したエミリオ公爵夫人は、元婚約者であるにも関わらず、良好な関係。


腹違いの兄は、重臣として、内政を助けています。


何より、ロゼッタ王妃殿下が、その人柄から、万民から慕われ、外交にも力を発揮しています。

王妃と国王の絆も、大変強く。


ジェイ陛下は、人に恵まれた幸せな王、という訳です。


その陛下は、齢50。

御代の円熟期と、言えるでしょう。



「ビアンカ。綺麗だよ」

「ありがとう。貴方も素敵」


今夜は、宮中舞踏会です。


晩餐会は、流石に招待されませんでしたが、今宵は、公爵家の一員としての参加です。


あれ以来。


(奥様は、本家でお辛い嫁教育のせいで、ご婦人の病気なのです!)

(奥様は、おひとりでお眠り頂かないと、快癒いたしません!)

(旦那様、どうか、奥様をひと月ばかり、いたわって下さいまし!

ひと月ですよっ)


という、励まし隊の訴えと

「全て主治医のお言葉でございます」

との、タウンゼントの口添えで


ただ今、絶賛独り寝中です。


あー楽。すんげー、楽。


そして、何食わぬ顔で、夫に尽くし、笑顔で迎え、

腹の中で、けっ、と言い。


何かを察したのか、夫は、なかなか外泊しません。生誕祭準備はいいんですかね。悪運の強い奴です。


ま、アルとウザークの調査報告が届かないと、復讐は始まりませんからね。

しばらく、泳げや、浮気男。


という訳で。

仮面夫婦は、イチャイチャと、夜会に参加しております。


「おう、エイブ。

大儀だったな」

「あら、貴女も来たの」


クソジジイとババアです。

「ご機嫌よう、お義父様お義母様」

「何だか久しぶりですね、父上母上」


ジジイの視線が、ねっとりしてます。サブイボです。

夜会なので、割と露出が多いドレスですからね。


顔はエマ作のお化粧で、地味女ですが、何せ身体のラインを拾うマーメイドドレスだったので。

別邸でも、お預けくらい中のエイブが、押し倒そうとしましたからね。


けれど、義母は違うところを見ていたようで、

「なあに貴女。

夫より先に挨拶するもんじゃないわ。

それより、貴女、そのダイヤモンドは、見たことないわねえ」


ふん。

あんたに取られないよう、保管してあったネックレスだよ。


「まさか、今日の為に誂えたんじゃないでしょうね」

「いいえ。実家で保管していた、母の遺品ですわ」

「ふうん」


やらねーよ。


「まあ、貴女は女きょうだいも居ないし、死んだ親の物は全部貴女のものですものねえ〜。

イライザを実の妹だと思って、色々良くしてあげて頂戴」


「はい。お義母様」


貸さねーよ。


まだ、クソジジイが私の胸元を眺めているので、

「エイブ。

ご挨拶回りは、なさらないの?」

と、無邪気に聞きました。


早くこの二人から、離れろよ。


「そうだね。では、行こうか」

エイブは、ニコニコと、私の腰に手を回しました。


夫は、私の細いウエストと、ヒップへのラインが、好みなのです。

いそいそと、エスコートして下さいます。


陛下には流石に挨拶出来ませんが、

エミリオ公爵夫妻や

バルトーク公爵夫妻に、お目通り叶いました。


あとは、重臣方ですね。

挨拶って、結構、手間ですよね。


順番が大事だし、

夫婦で挨拶する方と、夫だけ妻だけ、って方と。

まだ、爵位を持たない夫ですが、公爵家嫡男ということで、向こうから挨拶したい方々も、いらっしゃるし。


「賢いと名高い新妻ですな、女は中身。結構結構」


お仕事、お仕事!


「まあ、素晴らしいお衣装にネックレス。流石に裕福な侯爵の出ですわね!」


お仕事、お仕事!


「公爵家も、侯爵家の後ろ盾を得て、安泰ですなあ。

いやいやエイブラハム殿は、上手くやりましたな」


お仕事、お仕事!


くそ。


『冴えない女だが、宝の山だし、ロックフォードは、上手くそろばん弾いた』

って、遠回しに言われ続けたのは、結婚式と同じなのに、

あの時は、私が脳内お花畑だったので、スルー出来てたんですね。


「ご苦労さま。

私は、友人に会ってくる。

後で、踊ろうね」


エイブは、飲み物を手渡して、優しくねぎらいました。


この夫は、

決して私をないがしろにしたり、上から目線で圧したり、いたしません。

人を資産や美醜で判断する輩に比べたら、上等な人間です。


価値観が違うだけで。


純愛は、元婚約者に捧げ、キスを許さない操を立てて、

妻とは、睦事を楽しみ、仲良く過ごし、子をなし家庭を作ろうと。


そんなご都合主義に、吐き気がするだけです。


と。


「まあ、ビアンカ様ではございませんか?ご機嫌よう」


え?

ぼんやりしていた私は、ご挨拶が抜けた方かと、慌てて振り向きました。


金髪に碧眼。

……フローラ。


「先日のオペラは、ようございましたわね。

本日のビアンカ様、素敵なドレスですわ。スタイルが宜しいから映えますわね」


「……」


フローラ。

フローラ・ロスベル男爵夫人。


今日も女力全開ですね。

既婚者らしく結い上げた髪ですが、長い後髪をくるくるして、垂らしてます。

既婚者なのに。

耳のイヤリングは、ネックレスとお揃いのサファイア。

その大きさが、夫の資産を物語っています。


ピンクのドレスは、たっぷり二着分はあろうかという布を使用した、ボールガウンドレス。キラキラした錦糸でレースを縁どって重ねています。


ピンク好きなんですね。

カフェでも、ピンクでしたね。

いやぁ、ピカピカ成金でーす、ってね。


私が黙って微笑んでいると、

「旦那様は、ご一緒では、ありませんの?

新婚なのに。

妻を壁の花にするなんて、エイブラハム様も、酷い方ですわね」


お前は、何で独りなんだよ。

エイブに逢いに、いそいそと単独行動か?

それとも、私に正面から、宣戦布告か?


「……」


未だに、言葉を発さない私に、少し焦れて来たようです。


「先日は素敵なお兄様と、ご一緒でしたわね。でも、

旦那様はご同伴して下さらないのかしら、と、私、案じてしまいましたわ」


勝手に案じるなよな、あ?


「……」


「ビアンカ様は、ご結婚まで、あまり社交界にお出ましされてませんと、うかがいましたわ。

ね、今後、お友達になっていただけます?」


……んだとお?

誰が浮気女と、つるむってんだァ


「……」


私の外面は、微笑んで、シャンパンを嗜んでいます。

返答が無いことに、そろそろ、浮気女が焦れてきました。


「ね、ビアンカ様……「あら、ビアンカさん!サウザンド様の茶会以来ね!」


横から、エスメ夫人です。


「ご機嫌よう、エスメ様。

まあ、緑のタフタ。素敵ですわ」


私はくるりと右を向いて、礼をしました。


「うふふ。今夜の為に新しくね。

生地に惚れたの」

「奥様の肌によくお似合いのお色ですわ」

「貴女も白の素晴らしい衣装。

センスがいいわ」


ペラペラとフローラを無視してお喋りする私に、フローラは真っ赤になりました。


「あ、あのっ!」

少し大きな声なので、私とエスメ夫人は、フローラを見遣りました。


「ビアンカ様っ!

私をどうして無視なさるの!

し、失礼ではございませんか」


ほほう、浮気女、涙目うるうるです。

男には通用するだろうけどな、その涙目。


「どうしましたの、ビアンカさん」


困り事?という夫人の口元に、私は、大丈夫です、と応えました。


そして、フローラを睨めつけて、

「貴女とは、私、まだ、名乗りすらしておりませんの」

と、言ってやりました。


「えっ」


オペラでは、彼女は兄に名乗りましたけど、私は侮蔑の視線を頂いただけですからね。

それに。


格上の者が、名乗ってもいないのに、親しげに話すなんて、高位貴族の社会では、有り得ませんわ。


しかも、格下から、声をかけて、ペラペラと。


「名乗り合わない相手と、会話するなぞ、論外です。

お友達?

私には、敬愛するエスメ様を始め、常識のある友人が沢山いらっしゃるわ。

今度から、礼儀のない振る舞いを私の前で、見せないで下さいまし。

見苦しい」


私の反撃に、フローラは、唖然としていました。


そして、

「まあ、未だにそんなルールを知らない方なの?しかも、既婚者なのに」


というエスメ夫人のダメだしに、青ざめておりました。


ばーか。


エイブとか男爵とかが、チヤホヤしてんだろうが、あんたは所詮、男爵夫人。

私は、公爵家の新妻だよ。


「こちらにいらっしゃいな。

ビアンカさんに紹介したい方がね。貴女にお目通りしたいってね」


そんな夫人は、いそいそと、その場から連れ出して下さいました。

そして、


(ちょっとお綺麗だからと、勘違いする女って、いるのよ。

女の価値が、皮1枚で、あるものですか。ああ、嫌らしい)


そんなエスメ夫人のおかげで、私は、いい子のまんま、その場を離れる事ができました。


夫人がいらっしゃらなかったら、私、悪役令嬢よろしく


(下賎が。恥を知りなさい!)

なあんて言って、手にしたシャンパン、引っかけてたでしょうね。







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