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24 地味女 浮気のしっぽを掴む

翌朝の私は、最悪な状態でした。


それでも、夫を送り出すまでは、倒れる訳にはまいりません。


「今日から、ちゃんとした時間に帰るからね」

「承知しました。

お気をつけて」


事故ればいいのに。

骨の一本や二本折って、家で寝てればいいのに。

そしたら私は献身的に、看病するの。そして、毎日少しずつ、復讐するんだわ。


「ビアンカ様」


怪我が治らないように、させては行けない訓練をさせるとか?

沢山食べさせて、ブクブクに太らせて、愛人に愛想つかれる位、醜くするとか?


「ビアンカ様」


そうよ。事故って、寝たきりになればいいんだわ。私は献身的にお世話して、私だけの籠の鳥にするの。


「ビアンカ様!」


「あ、あ、エマ?」

「……イーヴォが中途報告を、と」


妄想は現実を変えてはくれないようです。


「分かりました。私の部屋へ」

「タウンゼントは」

「今回はいいわ。

エマ、貴女だけで」


私は、ふらふらと、階上に上がります。

(ビアンカ様、寝てませんね?

朝食も、進んでおりませんでした。大丈夫ですか)


エマは、庇いながら、囁きます。

(少し召し上がって下さい。

林檎、切りますか?)


林檎。

……イングヴァルト。


(ありがとう)


私は私室で、薄くカットした林檎を頂きました。

爽やかな香りと瑞々しい蜜が、悪寒と吐き気をやわらげます。


王子。


どうしてでしょう。

彼を思うと、何だか胸が軽くなる気がしました。




イーヴォが、苦い薬を噛んだような顔つきで入って来ました。


「黒ですか」

「真っ黒だな」


私は、目の前がクラクラしました。

せめて、せめて、

愛を囁こうが、手を握ろうが、

まさか人妻に、手を出すとは、考えたくなかったのです。


イーヴォの調査は、こうでした。


(まず、宮務官僚だが、不夜城なのは確かだな。

若い奴らは徹夜も、辞さない。

で、馬車も通らない深夜の帰宅は、無理ってんで、王宮に仮寝の部屋を拵えているそうだ)


夫も、そこに?


(ところが、公爵嫡男は、王宮の側の旅館街に、部屋を借りているんだな)


旅館街。


(ちょっと口は重かったが、つきとめた。

結構、豪華な宿だよ。

ありゃ、身分の高いお方の会合とか、密談とか、密会とかにピッタリの宿。

人に会わなくとも、出入りができる仕組みでね。

すんげえ豪勢な、長屋だと思ってくれ)


イーヴォは、ぐい、と、茶を呑みました。


(で)


エマに、お代わりをねだって、イーヴォは続けます。


(公爵嫡男どのは、月極めで、部屋を借りている。偽名でね)


月極め。

結構な散財だわね。


「偽名?」

エマが、ウインクしてくるイーヴォに、けっ、という顔をして、茶を入れました。


(それがねー。

フレジオって、名前で)


え?

んだとおぉ?


(そうだよ。

元婚約者の実家の姓だ)


バキン。


その時、エマから、そんな音が聞こえました。

見ると、トレーが真っ二つ。

「失礼しました」


こえぇ。という、イーヴォは、それでも話を続けます。


(セキュリティ高くてな。女将とかは絶対無理!だったんだが、下女がね、何とかね、いい感じにね、しっぽりとね)


それはいいから!


(んで、その下女から聞き出したら、

そのフレジオ氏は、ちょこちょこ部屋に泊まったり、休みに使ったりしてるんだ。

んで)


イーヴォは、チラ、と、エマに視線を送り、私に戻し、


(時折、夫婦でお泊まりになりますよ、とさ)


バフッ!


という音が、エマからしました。

エマがクッションを素手で裂いていました。

「失礼致しました」


(……若くて金髪。顔は、流石に隠しているって)


イーヴォの声が小さくなりました。

長年エマに、粉かけてますが、あんたみたいなスケコマシ、無理じゃないですかね。



(確定するには、現場を押さえるか、事後に帰宅先を見つけるか、だな)


以上がイーヴォの報告でした。




私は労い半分に、軽食を勧めました。階下に降りて、励まし隊に、居間に用意するよう申し付けます。


私は、今一度、林檎を少し頂きました。


「という事は、まだまだ、泳がせておくしかないわね……」


「まあ、そうだろうな。

でも、あんた、出来るの?」

「何を」


エマが居ないことを確認して、イーヴォは、ひそっと


「夜だよ。

ビアンカ、あんた、旦那を他の女と、共有できる?」


「無理だわね」

と、私は即答しました。


「別れろよ。帰れよ、侯爵家に」

「別れないわよ」


私は、再び即答しました。


「別れるもんですか。

嫁いびりのくそばばあと

ノータリンの娘と

色ボケじじいと

二股ダンナを

地獄に落とすまではね。

別れるんじゃないの。

私が、棄てるのよ」


ほおっ!と、イーヴォが嬉しそうです。

「それでこそビアンカだ。

……ん?色ボケって、公爵も何か?」



聡い男です。

しぶしぶ私は、小声で打ち明けました。


(クソジジイ。

私に抱きついて、お触りしてきたのよ、すりすりすりーって!

あーっ、サブイボ!)


「何それ!嫁に痴漢?」

びっくり声で、イーヴォが言うと、


ガッチャーン!ガラガラガラ!


驚いて、振り返ると、

タウンゼントが呆けた顔で、凝固していました。

足元に……


「……失礼致しました……」


タウンゼント。

その茶器は、私の輿入れの……。



その日の午前中、私の輿入れの

トレーとクッション1個と、

ティーポットとミルク壺、

が犠牲になりました。


そして、何事か?と集まったエマと励まし隊も、義父の所業を聞いたのでした。

あーあ。


あっ、

……イーヴォ、エマを羽交い締めしといて下さい。これ以上、壊されません!




午後には、

夫の浮気疑惑と、義父の破廉恥を知った

奥様励まし隊➕タウンゼント

(エマはイーヴォが拘束しての参加です)による


『奥様が、当分、旦那様のお誘いを断るには』


なる会議が繰り広げられたそうです。

もちろん、壊れ物は女中頭に全て片付けた部屋でしてもらいましたとも。


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